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復讐を始める最強の赤子

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 俺は現在、回復したドラゴンの背に仁王立ちでライドして空を飛んでいる。

 赤きドラゴンと、漆黒のマントに身を包んだ赤子が、夜の大空を支配する。スーパーハードボイルドの赤ん坊とは俺のことだ。

 ドラゴンに実力の違いをたたきこんだ後、生物の頂きたる俺に忠誠を誓わせた。なので、あの荒々しかったコイツも今じゃ忠実な下僕だ。

あばばばばばぶばぶもっとスピードをあげろ。門限はとうに過ぎている

(うむ、わかったぞ主! ドラゴンの速さを見せてやろう!)

 夜空を舞うドラゴンのスピードは中々のもので、装備している漆黒のタオルケットがヒラヒラとはためく。頭のうぶ毛が風で抜けないかが心配だ。

 しばらく飛んでいると、目的地が見えてきたので可愛い赤ちゃんの短い指で指差した。

ばぶばぶあそこだ!」

あっ、ちなみに、声は赤ちゃん言葉に戻っている。魔法の効果がきれたみたいだ。中々のイケボだったので将来の成長が大変楽しみである。

 空から見下ろした場所には、愛しの我が家がみえた。
俺は初めてのお使いを達成したような気持になり、嬉しさがこみ上げてくる。

本当は母上に報告して頭をよちよち撫でてもらい、褒めて欲しかったけど、これは秘密のミッション。残念だが諦めるしかない。

(どうする、家の真上まできたが着陸するか?)

(いや、ばれたら大変だからここで降りる)

そう言って、俺は千メートルほど下に見える我が家を確認した。
このくらいの高さ、最強の俺にはなんともない。

(では、手筈通りに頼むぞ!)

(まかせろ、主に逆らった愚さをとくと思い知らせてやる。では、我はこのまま向かうとする)

 俺が飛び降りると同時、レッドドラゴンは西にむかって飛び立っていった。

 俺は自由落下に身を任せながら、距離が離れるにつれて小さくなっていくドラゴンの背を見送り、さらにその先にある貴族の家へと思いを馳せた。

(さあ、復讐の時はもうすぐだ。ククク、待っていろ悪徳貴族め)



■■■■■



——翌日

 初めての夜更かしで、体が完全にグロッキーになっていた俺を起こしに、母上が部屋にやってきた。

「はーい、クーちゃん朝ですよ」

ばぶぶぶ、ばぶばぶばははうえ、まだねむいば、ばぶばぶあっ、まぶし

 寝不足のまま目を覚ます。
母上が部屋のカーテンを開けて太陽の光が部屋に充満する。
成長期だというのに、あのアホ貴族のせいで寝不足だ。昨夜は頑張りすぎた。
この愛らしい丸いわがままボディーは睡眠を欲している。

 俺はまぶしい朝日から逃れるため、漆黒のマント、もとい涎のついたタオルケットを頭にかぶったが、すぐに母上に取り上げられてしまう。

「あら、いつの間にかずいぶんと汚れているわ。これは洗濯しなくちゃね」

ばぶばぶ、ばぶばぶかえちて、かえちて

必死にお願いするが、無慈悲にもマントは奪われてしまった。
いつになく厳しい母上に俺は絶望する。

(うう、まだ寝たりないのだっ! 昨日調子にのってコーヒーまで飲んだせいで、帰ってもすぐに眠れなかったんだよぉ)

「さあ、おきましょうねクーちゃん」

 俺を持ち上げようとする母上に、いやいやと頭を横にふる。
もしかするとこれが反抗期ってやつだろうか。ふっ、体は正直というわけだ。俺にはもう指一本動かせる体力は残ってな・・・

「はーい、おっぱいの時間だよー」

「あびゃびゃびゃびゃ」

 ノータイムでむしゃぶりついた。これさえあれば、疲れなんて一瞬でぶっとぶぜ。

ばぶばぶばぶこれだよこれ

「いつもいっぱい飲むけど、今日はすごいなぁ」

 俺は最高のエナジードリンクを飲んで、改めて決意を固める。

(マンマミルクを横取りしようとする奴に容赦はしない。この至高の乳は俺だけのものだっ! 誰にも渡してなるものかっ。あのくそ貴族におしえてやる、母乳戦争で俺に勝てる奴なんて存在しないことをな!)

 俺は満足いくまで栄養補給をすると、お腹いっぱいでぐったりと相棒のベッドに横になった。自然と瞼が重くなり、目を閉じると母上がよちよちしてくれる。
ああ、これが幸せというやつか・・・・そのまま俺はまた眠った。



■■■■■


「ふざけるなっ、これはどういうことだ!」

 突然の大声で、俺は深い眠りから目を覚ました。
昨日きいたばかりの、あの醜い伯爵の声だった。なにやら言い争ってるみたいだ。うるさい声が俺の部屋にまで届いてくる。

「カイリー!!! 貴様一体どんな手を使った!!?」

「はい? いったいなんのことでしょう?」

「とぼけるな、昨日の今日でこんな偶然があるわけがないだろっ!」

 ガンっとものを殴る音がした。
おそらく怒り狂った伯爵がものにあたっているのだろう。
俺は伯爵の慌てる姿を想像して、ベッドの上でくすくすと笑いを堪える。

「あの、伯爵。どういうことですか? なぜそのように怒っているのか、私には見当もつかないのですが……」

「どうもこうもあるかっ! 全部お前の差し金に違いないのだ!」

「そう言われましても、具体的に何があったか教えていただかないと」

「ふんっ! 白々しい、それが私に対する仕返しのつもりか! それなら、いいだろ教えてやる! お前のところのドラゴンが私の屋敷に住み始めたのだ!」

「……は、はい? あ、あのよく聞こえなかったので、もう一度お聞かせください」

父上の混乱した声があがる。
だが、それをはるかに上回る声量で伯爵が叫んだ。

「だから、貴様のドラゴンが私の屋敷に住み始めたのだ! この責任どうしてくれる!」

 ふふふ、ついにこの瞬間がきたか。
伯爵、お前がいったい誰にケンカを売ったのか教えてやるよ。
これは、俺の復讐のゴングだ。

覚悟はいいか?

お前の魂に刻んでやろう。
お前には、母上のおっぱいは早すぎるとな!!!!
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