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 久しぶりに訪れた自分の部屋は、最後に見た記憶よりも散らかっていた。

 腕の中のシャルロットを睨みつけると、気まずそうに顔を反らされる。どうやら、事務所とは別に、仕事は自分の部屋で、生活は私の部屋でしていたのだろう。くしゅくしゅになった毛布が、ベッドの脇に落ちている。せめて、拾い上げておくべきだろう。

「こういう事もあって、私に帰ってきて欲しくなかったのか?」
「まさか! 今更貴方に遠慮なんかしないわ。ちょっと散らかってるけど、帰ってくればきたで、一緒に暮らせばいいかな~って」
「一緒の部屋なんてごめんだ! お前は明日からあのガラクタだらけの部屋を片付けて、ベッドもそちらを使え!」
「ええ~。どうしてそんな意地悪を言うのかしら!」
 唇を尖らせるシャルロットを、ベッドに横たえた。床に落ちている毛布を拾い上げ、シャルロットにかけてやる。私は、その傍らに、腰を落とした。見上げてくるシャルロットの頬を、人差し指で撫でてやると、嬉しそうに笑う。血気盛んな若者の理性は、ここまでだった。

「今すぐ抱いてもいいか?」
「…………貴方が積極的だと、戸惑うものね」
 顔を寄せて、軽くキスをする。
「本当は、昔から手を出したくてうずうずしてた」
「出してくれてよかったのに!」
「お前が言ったんだろ。大人になって、好きな相手が出来たら簡単に婚約解消できるようにしてくれって」
「だから?」
「お前の自由を守りたかった。だから迂闊に手を出せなかった」
「……だから?」
「だから慌ててこの家を出たんだよ! お前が誘惑ばかりしてくるから! しつこいな!」
 シャルロットが笑う。ケラケラと。本当に、忌々しい女だ。腹立ちまぎれに、ささやかな胸を撫でる。
「……あッ……!」
 シャルロットが声をあげて、下から私を押し退けようとするので、少し離れて顔を上から見下ろした。
「……嫌か?」
「嫌ではないけど……アンソニー貴方……私の胸を触る度に、ものすごく頭の中で馬鹿にしていない?」
「ささやかな胸だと思ってる」
「やっぱり! 失礼! 失礼だわ!」
 本当の事なのに、真っ赤になって怒っている。誰の前でも飄々としている女が、私の前ではこうして感情を表すたびに、優越感に浸ってきた。シャルロットは、私のものだ。私だけのシャルロットだ。こんな気持ちの悪い独占欲に気付いてしまった今では、もう昔のように戻れる気がしない。シャルロットは、引かずに傍にいてくれるだろうか。
 もう離れられない。逃げられたら、私は自分が自分では無くなる。考えただけで、目の前が暗くなった。落ち着け、冷静になれ。自分を律するために、腿を抓る。痛みのために眉間に皺を寄せた私を、シャルロットが心配そうに見詰めていた。
「どうした、緊張してるのか?」
「あたりまえよ。私だって緊張するわ。それより、どうかしたの? 今、眉間に皺が……ッつぁあ!」
 手の平をペロリと舐める。舌を這わせ、指の一本一本を舐めあげた。指の股を舐めると、シャルロットはせつなげに眉根を寄せて目を瞑る。私は、執拗に指を責め、その一方で、ささやかな胸……貧乳を撫でた。
「眉間に皺が寄ったのは……腿を抓って痛かったからだ」
「んッ……それはまた、どうして抓ったりしたのよ……?」
「そうでもしないと、きみのフェロモンでイッてしまいそうだったからね……」
「何を言って……んん」
 唇を塞いだ。再び舌を侵入させて口内を蹂躙する。唇を合わせながら自分のシャツを脱ぐと、それに気付いた彼女は腕で顔を隠してしまった。
「……初々しい反応だなシャル」
 再び、スカートをたくしあげ、滑らかな肌に触れる。
「ん……」
「シャル……ここも、あいつに触れられた?」
 膝頭を柔く撫でると、シャルロットは魚のように飛び跳ねて、私の手を押さえた。
「はあッ! アンソニー! それ、やめ……」
「どうなんだ、シャル」
「もうッ! そんなこと、どちらでもいいでしょう! どんなにあいつに触れられようが、私がこんな風になってしまうのは、貴方にだけよ! これで満足かしら!」
「うん。満足だ」
 笑ってやると、シャルロットは顔を赤くして目を逸らした。
「まあ、先は長い。ゆっくりと過ごそうか、シャル?」
「…………貴方は……こういう、私がいっぱいいっぱいな時、いつもそうしてサディスティックに微笑むわよね」
「そうかな?」
 確かに、いつもは強気で忌々しいくせに、今みたいに弱い立場のシャルロットを虐めるのは、実に楽しい。快楽に歪む顔を見ていると、益々興奮する。しかし、それがサディストだから、というのは違うような気がした。シャルロットの腕が伸びてくる。私の首にまきついて、身体を密着させてきた。
「けど、そうは言っても、貴方は私に痛い思いをきっとさせないだろうし、丁寧に愛してくれるんでしょうね。だから貴方のことが好きなんだわ、私は」
「勿論、痛い思いなんてさせないよ。それでもサディストかな?」
「……それもそうね。では、『好きな子に、つい意地悪をしてしまう虐めっ子』とでもしておこうかしら」
「それじゃあ、ただの子供だ」
 クスクスと笑うシャルロットの睫にキスをした。私の胸に手をあてて、とろりとした目で顔を見詰めてくる。そこには、少しだけ不安が混ざっている気がした。
「胸がドキドキ言ってる。貴方も緊張してるの?」
「初めてだからね」
「私だってそうよ。心臓が壊れそう」
「不安か? シャル」
「…………本当に今日のアンソニーは冴えてるわ。勿論不安よ? けどね、それを上回る期待に私の心は占められているの。貴方とひとつになる事を、今か今かと待ち望んでるのよ」
 震える指先が、私の頬に触れる。完全に溶け合ってしまいたい。その手を掴んだ。
「では……もう余計なことは話さずに、励むことにしよう。先ほどから、全く余裕がなくなってきているんだ」
 ぎゅっと抱きしめて、口付けをする。全てを晒して抱き合おうとすると、何故か拗ねたように唇を尖らせた。

「久しぶりに会えたからもっとお喋りしたいのに……」
「久しぶりに会えたからイチャイチャしたいんだ。若者の精力を舐めるな」
「……まるで駄々っ子ね。いつもと本当に逆だわ」
「呆れたか?」
「いいえ? 貴方の意外な一面を見られるのは、とても楽しいわ」
 そう言いながら、私の胸に唇を寄せてくる。胸に頬擦りをしながら、シャルロットの口から吐息が洩れた。顎に手をかけ、上向かせる。トロンと潤んだ瞳が、私の目に焼き付いた。途端に下半身が疼きだす。それは、密着していたシャルロットの腹を押した。
「ああ、失礼」
「……もう、アンソニー…………」
「貧乳を気にしているみたいだけど、私には充分魅力的だから安心しろ」
「いや、それ今言う事?」
「もっとお喋りしたいと言ったのはお前だろ」
「そういうお喋りじゃないのに」
「もう黙れ。喋っていると雰囲気ぶち壊しだ。私は、お前を朝までずっと愛したいんだ。集中しないと愛が減る」
「……また、意外な一面を見たわ……」
 シャルロットは、クスリと笑って私の鼻にキスをしてきた。すっかり余裕を取り戻したようだ。左手の指で、顎のラインを擽ってやる。くすぐったかったのか、鼻の頭に吐息がかかる。悪戯をしかけてやろうと下着の隙間から指を侵入させた時、シャルロットが私の鼻に歯を立てようと口を開けたのが見えた。
「あ…………」
「きゃあ!」
「痛…………ッ……!」

 目の前が真っ赤に染まった。




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