幼少期に相思相愛だった相手に婚約を申し込んだら袖にされた。 十二年疎遠だったから無理もない? 私たちは毎夜語らっていたのになぜ……。

川嶋マサヒロ

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07「令嬢とビキニと」

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 セルモンティ・フランチェスカは友人たちと連れ立って下校中であった。本日の重大事件はシルヴェリオと同じだ。自然、話題はその件となる。
「ごめんねー。男子がどうしてもって言うから、せめて声だけでもって……」
「ううん、いいのよ。戦いに興味があるって言ったのは私だしね。見学ぐらいならできるし、戦いのスキルだって少しは持っている。身を守る練習をするわ」
 すまなそうに言う友人にフランチェスカは前向きに返す。コンチェッタはそれなりに戦えるので入学早々【サンクチュアリ】に入会した。ここでの専攻は彫刻である。
「フランチェスカの創作にも役に立つと思うわ」
 グランドーニ子爵家の令嬢で、この街での屋敷がご近所さんなので知り合った。
「そう? プリシッラもやったら?」
「えー、絶対無理っ! フランチェスカは戦い系のスキルがあるけど、私は全然よ……」
 メルクリオ・プリシッラは文学科でおとなしい性格だ。フランチェスカとは王都時代からの幼なじみで、シルヴェリオとも面識がある。
「フランチェスカなら大活躍するわ」
「見学、見学。あはは」
 と言って笑う。つづいて思案顔となった。こちらの悩みの方が重要だ――。
「服はどうしようかなあ……」
「私は一番上の姉のお下がりが色々あるの。それを使っているけど、どれにしようか迷うわ」
 ――女子冒険者の衣装の話である。
「ふーん。結局どんなのにするわけ?」
「普通、普通よっ!」
 コンチェッタの微妙な狼狽は突っ込み案件だ。フランチェスカは話題を続ける。
「普通以外もあるんだ」
「うん、あるけどちょっと過激なのはパス。これ、どこで着たのっ? て聞いたら、着ていないって言ってたわ。見れば着ていたかそうでないかバレバレなのにね~」
 と言って笑う。
「小説に登場する女性冒険者の姿ね。活躍する人はだいだそう。聖女系は違うけど」
「そうそう、ファッションは持っているスキルによって変わるわ。だから最初は普通で様子を見る」
「じゃ、私も普通で初めてのダンジョンに挑戦します。普通だし」
「危なくないの?」
 プリシッラは心配顔だ。小説で描かれる冒険はたいがい、激闘に次ぐ激闘だからだ。
「全然っ。初心者の体験コースよ。深い所はいかないから。まっ、親睦会だしね」
 コンチェッタは安心を強調した。
「そう。なら一番の問題は衣装選びね。普段見ないクローゼットに冒険用のがいっぱいあったわ」

  ◆

 フランチェスカは屋敷の衣装部屋で迷っていた。冒険者の服装など、いまひとつピンとこない。
「どれにしようかしら……」
「お気に入りがなければ、あつらえることもできますけれど、いかがなさいますか?」
 メイドのイルダが鏡の前で他の衣装を重ねて見せる。
「ううん、ただのお付き合いでちょっと潜るだけだから。お金なんてかけられないわ」
 フランチェスカはいたずらっぽく舌を出して肩をすくめた。
「うーん。でもどうしてこんな衣装なの?」
 フランチェスカは話題になった衣装を見つけた。
「魔法スキルは肌を露出すれば、それだけ効果が大きいのです」
「ホント~?」
「という伝説がございます。いわゆるファッションですね。流行です」
「ふーん……」
「神話に登場する女神たちが、このような描かれ方をしている影響が大きいですね」
「私は人間だもの」
 フランチェスカはそのセパレートされた衣装を手に取りながら眺める。まんざらでもない表情だ。
「伝説は得てして真実。強力なスキルであればこのような衣装も有用です。しかし衣装だけで強くはなりません」
「それはそうよね。伝説の真実か……」
「どうなさいますか?」
「ちょっと着ててみようかしら」
 さっと着替えて鏡の前に立った。胸はほどほどであり、胴は細くなだらかな起伏で波打っていた。手足がすらりと伸びる。振り向いて背中をチェックする。
 お尻が半分ほど露出していた。
「本当にこんな格好しているのかしら?」
「それは特に過激さを強調するデザインですね。実際には上下重ね着をしますから、そのままの姿をさらすわけではありません」
「ふーん、なるほどね……」
 勝負用の服、との意味合いがあるのかもしれない。女子心だ。
「私も場合によってはビキニアーマーで戦います。生き延びるために……」
「私の場合は効果を得られないのねえ」
「どなたかお気になられる殿方が参加されるのですか?」
「ブッ、いっ、いいえ。そんなことはないのだけれど……。いや、もう何を言ってるの? 嫌っ!」
 と慌てて否定する。イルダは珍しく少しだけ笑った。
「失礼いたしました」
 見せる相手がいてこその衣装だとも理解する。そんなことを考えて、フランチェスカは顔を赤らめた。
 だけど、こんな姿を好きな人に見られるなど想像もつかない。手を伸ばされれば、思わず拒絶しまいそうなくらい苦しくなってしまうだろう。
「これでいいかなあ」
 結論はごく普通の、初心者冒険者姿になる。
「よろしいかと思います」
「うん、私は専門の冒険者じゃないしね。それにしても色々あるのねえ」
 大量の戦闘衣装は全て着古した中古品だ。かつてこれを着て魔獣と戦っていた人間たちがいたのだ。
「この白いドレスも冒険者用かしら?」
「聖女系となります。この上に防具類を身に着けて魔導具を持ちます」
 よく見ると長いスカートには深いスリットが入っている。
「ナイフなどをももに装着すののです」
「なるほどねー」
「お嬢様の剣はこれがよろしいかと。あくまで自衛としてお使いください」
 イルダは短めで若干幅広の剣を差し出す。ここは素直に経験者に従うべきであろう。フランチェスカはまったくの素人だ。
「ありがとう。いいつけは守るわ」
「はい」
 短い銀髪に赤い瞳。どのような事態にも冷静なメイドは、つねに的確な判断を下す。信用できる存在だ。

 そのまま二人は移動した。
 自室に戻って部屋着に着替える。大きな机には、絵画の道具が並んでいた。
 セルモンティ・フランチェスカ嬢もまた、絵画をたしなんでいるのだ。
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