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19 幸せ
しおりを挟む彼と共に来たのは、一軒の家。彼の持っている家の一つだと言って、リビングに通された私は、ソファに座って息をついた。
「ここは港に近いので、海がよく見えますよ。3階・・・ま、屋根裏部屋ですね。そこからの景色が一番美しいです。」
「屋根裏部屋って聞くとワクワクするね。後で見てもいい?」
「もちろんです。今から行きますか?」
「うーん、もう少し休憩したいかな。」
「わかりました。では、何か入れましょう。」
すっと、紙を手渡されて、それを見た私は笑ってしまった。
「お店みたい。」
「ご注文はお決まりですか?お嬢様。」
「そうね。」
彼から渡されたメニューは、几帳面な字で紅茶やコーヒーなどの飲み物の名がずらりと書かれていた。紅茶もピーチティーなどのフレーバーティーがあり、全て制覇したいと思う。
「ふっ。」
上から順に見ていた私は、またもや笑わせられた。
「青汁って、あなたが飲むの?」
「いいえ。でも、用意はしていますよ?飲みますか?」
「遠慮しとく。ちょっと興味はあるけど、飲めるかわからないし。」
「なら、青汁にしましょう。大丈夫です、苦手なら残りは僕が飲みますから。」
残したらもったいないと言う前に、先手を打たれた。でも、少し気になっていたので好都合なのかもしれない。
「何事も経験です。僕も飲んでみたかったんですよ。」
「私もあなたも飲めなかったらどうするの?」
「僕は飲めますよ。」
「でも、飲んだことないんだよね?」
「そうですが、薬湯などは飲むので、さすがにそれよりはまずくはないでしょうから。」
「薬湯?」
ものすごく苦そうだ。でも、なぜそんなものを飲んでいるのだろうか?疑問を口にする前に、彼は部屋を出て行く。
後で聞けばいいか。
青汁を結局彼に飲んでもらった私は、紅茶で口直しをした後、屋根裏部屋へと来た。もちろん彼も一緒だ。
もうすでに夕方だ。夕焼けが美しい海の景色を眺める。それは、初日に見た公園の塔から見た景色を思い出す。あれから数か月がたった。私は、まだここにいることを望んでいる。
「まだ。」
「え?」
小さな声で彼が言った。
「・・・まだ、あなたは不幸ですか?」
こちらを見た彼は、真剣な瞳をこちらに向けて聞いてきた。でも、その疑問に首をかしげる?
「不幸ってどういうこと?」
「・・・そうですね。あなたは、不幸ではない。そうでした。」
目を伏せた彼は、夕日に目を向ける。私もそれにならって、美しい景色を見なおしたが、彼がこちらを見たので、私も彼を見た。
「どうしたの?」
「・・・聞きたいことがあります。」
「いいよ、何でも聞いて。」
「ずっと・・・あなたに聞きたいと思っていたことがあります。でも、聞くのが怖くて聞けませんでした。」
彼は、こちらに近づき、一拍置いた後に聞いてきた。
「幸せですか?」
あぁ、そういうことか。私は納得した。
これは、先ほどの質問と同じだ。私は、質問の内容に疑問を持って、彼に答えていなかった。
考えるまでもなく、私の答えは決まっている。けど、それだけしか伝えないのは味気がない。だから、私は、彼に伝えたいことを伝えることにした。
「私を、幸せにしてくれてありがとう。」
「・・・いいえ、こちらこそありがとうございます。」
彼は、今まで見たことがない、泣き笑いという表情を見せてくれた。よかった。やっと、伝えられた・・・
やっと?
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