【R18】月に叢雲、花に風。

蒼琉璃

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陸、愛欲の罪と罰―其の伍―

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 光明によってその手を解かれ、両の手首を両手で掴まれると毒々しい妖艶な花のような表情で覗き込まれる。
頬を染め羞恥にきゅっと両目を閉じる若菜を見ると口端につり上がった笑みを浮かべ、無垢な濡れた桜色の花弁へと指先を忍ばせた。そしてその感触を楽しむように指の腹で閉じられた花弁を撫でる。ゆっくりと若菜の菊門を前後すると、朔の艶やかな甘い吐息と若菜の愛らしい歓声が響き渡る。

「っ…………はぁ、姉さん……っ、きっつ…はぁ……っ、………はぁ………っ、絡みついて……くるっ」

「あっっ、やぁんっあっ、朔ちゃんはぅ…やぁんっ…ぁ、あっ、変な感じ、する、こんなの……っ、はぁ……あっぅ、や、光明さ、やっ…!」

「おやおや、菊門を朔の摩羅で突かれて、女陰が濡れてきましたね……? 尻穴でも感じてるのか…お前は本当に淫らな娘だ……」

 緋色の唇を舌なめずりするようにして、光明は甘く毒々しく呟いた。その間も滑らかに菊門を陰茎が出入りし凹凸な肉厚を感じる腸内を擦った。腰を引く瞬間に、擦られ、を突き上げられると溜まらず若菜は甘い声をあげた。
 そして細長い光明の二本の指先が、秘唇に蜜を纏って挿入されると、ぬちゅ、ぬちゅ、と淫靡な音を立てて淫らにかき混ぜ出し入れを繰り返す。赤面しながら若菜は光明の指を止めようとするが、意図も簡単にその手を左手で抑え込まれた。朔は視覚的な興奮から溜まらず腰の動きを早めると、菊門の粘膜が絡み付き、じんわりと胸板に汗が滲んだ。
 若菜の体も徐々に馴染み、膣内とは異なる快楽を感じ初めて、朔は目を細めた。

「っ………はぁ、姉さんの菊門…っ、……締まって……擦れる……気持ちいい……のか?」
「あっっ! やっやっやっ、あっ、あんっっ…はぁ、はぁっ、や、や、やだ、お尻でいっちゃっ…あっ、やぁぁぁん!」

 不意に光明が、若菜の花芯を親指で撫でた瞬間朔の陰茎を締め付け絶頂に達した。湧水のように光明の指の間から愛液が溢れると、溜まらず朔も、菊門から陰茎を抜き若菜の花弁の亀裂に向けて精液を飛び散らせた。

「はぁ……はぁ………………っ……」

 花弁に垂れる精液と若菜の呼吸を乱す姿に、またしても朔は、己の陰茎が固くなるのを感じた。光明は若菜の蜜を舐めとると、若菜をゆっくりと抱き起こす。

「二人とも素直で宜しい。さて、私もそろそろお前の菊門を味わうとしましょうか……だが、朔の摩羅も天を仰ぐようだ。さてどうしたものか――――そうですね、この愛らしい花を愛でる役をお前に与えましょう」

 光明は若菜の肩に顎を置くと怪しく微笑み、若菜の亀裂をパックリと開けた。まだ菊門の処女を失ったばかりで、慣れない義姉にそんな無理はさせられない。だが、薄桃色の愛らしく淫らに濡れた花弁を見ると理性が失われてしまう。

「――――光明様、姉に……そんなことは」 
「まだ早すぎると? 心にも無いこと。クックックッ、お前の摩羅は反り返っていますが?」
「……? なぁに…?」

 若菜は一体何をされるのか理解できずに、少し不安そうに首を傾げた。無理もない、彼女にはそんな知識すら無いだろう。 光明は若菜を抱き上げ、自分に股がらせると十分に潤滑剤を陰茎に塗り込み、若菜の小さな菊花に陰茎を挿入した。

「ひぁっっ……!! あっっっ、はぁんっ」

 若菜の両足を開かせるよう座らせた光明は、背中を反らして頬を染め喘いだ若菜の耳元に唇を寄せると舌先で耳朶を淫靡に舐めた。羞恥に頬を染め、眉根をしかませて若菜は喘がないように唇を紡ぐと、淫らな笑みを口元に浮かべ絡み付く肉の壁を割くように淫らに腰を動かす。

「はぁ、なんと……これはこれは……若菜、お前の女陰に比べれば……劣るものの……っ……尻の方も甘くて……蕩けそうなほど…心地良い…です……ねっ……はぁ、女人では……っ、はぁ……あまり試さないが……クックックッ……中々どうして、はぁ、ほら、我慢は体に毒ですよ」

「……っ、……っ……あっっ、はぁんん!?…や、やぁ…!やだ、我慢なんて、はぁん、あっっ、やんっ……やぁ……やぁん、はぁっん、朔ちゃん見ないで!」

 挿入された陰茎が徐々に動かされると、若菜の薄桃色のふっくらとした唇から、心に反して翻弄される快楽に甘い歓声が上がりそして愛している人の前で犯される悲しみで涙がポタポタと頬を伝う。そんな若菜に胸が痛み、どうにも出来ない己の霊力の弱さと悔しさ、嫉妬で朔は若菜の涙に口付け、そして唇を塞いだ。
 唇の隙間から絡まる舌先が唾液を交換する。
菊花を陰茎で突き上げられる度に上がる愛らしい声が隙間から漏れた。

「んっ……んんっ! はぁっ、ちゅっっ、はぅんん、朔ちゃん…あっ、あんんっんんっ」
「若菜……んっ……はぁ、はぁ……若菜……俺は、ここにいる……はぁ、ん……」

 その様子にニヤリと笑みを浮かべ、華奢な若菜を胸板に寄せそのまま布団に寝転ぶと、二人の唇は離され自分の体の上に若菜を乗せたまま腰を激しく動かした。心地好く狭い肉壁がヒクヒクと波打って刺激を繰り返してくる。華奢な腰を抱きながらじっくりと背徳的な禁断の果実を味わった。潤滑油が摩羅を巻き込む、淫らな音は響き渡り太股同士がぶつかり合う音が部屋に反響した。

「――――!? はぁんんっ、やっやっやぁ、こうめい、さま、やぁぁんっ、はぁっっ、あっ、あうっ、や、こんなのだめ、だめなのっあっあっあっ!」
「はぁ……っ……はぁ……あっ、朔……っ、ほら、若菜の女陰がお前を待ちわびて居ますよ……っ……はぁ」

 快楽と興奮で荒い息を放つ光明を醜く感じながらも、朔は若菜の濡れた薄桃色の亀裂に亀頭を擦り付け極上の蜜壺にゆっくりと挿入すると、若菜だけを見つめて切なく甘い吐息を漏らした。花弁にまで挿入された若菜は瞳を見開き耳まで赤くなって圧迫感と快楽に甘い声を漏らす。
朔もまた、腰が抜けそうな程の快楽に唇を噛み締めた。巾着の二段構えの締め付け、さざ波のように蠕動する壁、亀頭を刺激する粒。愛しさと、おぞましい男の牙にかかっているジレンマで彼女を壊したくなってくる。

「や、ま、まって、うそ…っはぁっっ、あっっっ、はぁっ……朔ちゃん、やっやっ、抜いて……やだぁっ」
「っ …………はぁ、はぁ……若菜、っ……俺だけ見てろ」

 菊門を刺激する快楽から、若菜の膣内は狭く吸い付いてくる。そして花弁に満たされる快楽で菊門が蠕動する。三人の快楽は高まり密室の中で甘い喘ぎ声と三人の荒い息が響いていた。
若菜の花弁から香る狂わし程の上質で高貴な甘い天上華の匂いと、淫靡な蜜音が二人の男を狂わせていく。

「あはっ、はぁっ、あっあっあっあっ!やぁぁ、あっ、ひぅっ、両方で擦れて、あっあっ、やぁ、おかしくなっちゃ、らめぇっ……っ」

「はぁ、はぁ! 姉さん…っ、あっ…あくっ、両方から攻められて……蕩けた顔してる……っはぁ、俺と光明……様、どっちが……あぁっ……はぁ、気持ちいいんだ…?」
「あっあっ、らめ、はげしっ……!!」

 朔は吐息を漏らしながら、体を揺らし若菜の一番弱い部分を亀頭で擦り付けながら勃起した小さな桃色の花芯を親指で優しく下から撫でると頭の天辺まで快楽の電流が走りたまらず眞液を飛び散らせて絶頂に達した。巾着に絞られミミズ千匹のように蠕動する膣内なかに射精しても尚、まだ固い陰茎はビクビクと波打ってる。

「やっ、―――――っ、あぁぁん!!……はっ、はっ、はぁ…やぁ、さね、触り……はぁ……ながら…お夜伽された、はぁ、もう変になっちゃう……はぁ…っ、ひやぁ??」

不意に若菜の乳房を弄り、耳朶を舐めながら光明が腰の動きを早める。

「っはぁ……朔、私に嫉妬ですか?……っはぁ、無理もない、私の可愛い……愛弟子は……っはぁ、尻の穴で感じているのです……からね……ねぇ? 若菜、良く解れてきましたよ、気持ちいいですか……っはぁ… !」

 溢れた眞液が新たな潤滑油となり、程よく解れ始めたきついピッタリしっとりと密着する壁を味わうように子宮の裏から突き上げると若菜は溜まらず震える声をあげる。

「あぁあっ、あぁぁっ!光明さっまっ、やっやっやっ、いやぁ、お尻でいっちゃ、らめぇ、あっあっ、やぁぁ、だめだめ、はげしっ……おむね触っ、あっ、ちゃ、あぁ、いっっ――!!」

 若菜を追い詰めるように激しく腰を動かし、可愛い乳輪を両方の指で背後から撫で、きゅっと摘まむと溜まらず若菜は絶頂に達してビクビクと華奢な体を腹上で震わせる。光明の精液がドクドクと菊門に注がれ溢れ返るのを感じた。

「はぁ………はぁ、はぁっ、はぁ、はぁ」

ぐったりとする若菜の中で未だ光明と朔の陰茎は勃起したまま、固く熱い。朔はゆっくりと優しく陰茎を抜き光明もまた陰茎を抜くと安堵した若菜の肩越しにニヤリと朔に目配せする。
男だけ、または女を交えて乱行するのは初めてではない。この男の淫蕩な遊びには嫌と言うほど付き合わされているので、彼が何を言わんとしているかがわかった。幾つもの体位、また色んな組み合わせで楽しむのだ。

「若菜、まだ終わってませんよ……クックックッ……お前があんまり淫らなだから、私達の摩羅も、中々収まりがつかない。さぁ四つん這いにおなり」
 
「ふぁ……はぁ、光明さま、も、もう、許してくださ……あっ……や、朔ちゃん!」

 朔は若菜の華奢な体を抱き上げ、自らの体の上に乗せると、その上で四つん這いになるように促した。その間に光明は長い髪を淫らに括り伽羅の香りのする手拭いで胸板の汗を拭くと、酒を煽る。

「姉さん、これで最後だから…俺に体を預けて………俺だけに集中するんだ…な?」
「…………んっ」

 両頬を大きな両手で包み込んでやると、汗ばんで妖艶な表情を見せる黒豹は、優しく耳元で囁いた。それだけで若菜はこの淫らな狂宴にも気が楽になり、愛してる人を見つめて潤んだ瞳のままこくんと頷いた。

愛しい義姉を熱っぽい瞳で見つめると、若菜の濡れた亀裂に亀頭を擦り付けると、天高く直下する陰茎をゆっくりと挿入する。

「ふぁっ……! あっ………ぁ、っ、やぁ…入ってきちゃう…」

 絶頂に達したばかりの花弁は敏感で、挿入されると溜まらず蕩けた甘い声が上がり、ほどよく胸板の厚い彼にすがるような両手を添えると朔は若菜の背中を撫でながら感嘆のため息を漏らして目を細めた。不意に若菜の臀部を両手で少しあげた光明が嗜虐的な笑みを浮かべる。

「今日は随分とお前達に優しくしていると思いませんか? 若菜。私は、慈悲深いですからねぇ。お前の極上の花弁を朔に譲っているのですよ。それにしても……フフフ…お前の菊門は陰間よりも具合が良い……気に入りましたよ」

「……ぁっっ……ぅぅ……」

 若菜の尻穴に向けて、潤滑油を垂らすと冷たさに若菜はビクンッと体を震わせた。羞恥と愛する人の前で被虐の言葉に頬を染め体を震わせた。傷ひとつない臀部を撫でると処女を失い少し紅くなった菊花に摩羅をゆっくりと挿入すると背後で震える吐息が漏れた。

「姉さん、動くぞ……っ、はぁ…」
「はぁっ…っ、あっっ、やぁっ、やぁんんっ…あっあっあっ、ひぅぅ、朔ちゃ、ぐりぐりだめ、んんっ…んぅぅ!」

 朔は、光明の戯れ言に胸の奥底から感じる嫉妬と怒りの醜い炎を感じながら、若菜の気持ちを此方に向けさせるように、朔は下からゆっくりと円を描くようにして上下に花弁を突き上げる。愛液が淫らに男根に絡み付き、ふっくらとした薄桃色の唇の隙間から舌先を差し入れ唇を深く絡ませた。深い口付けの合間に若菜のゾクゾクと嗜虐芯を煽る甘い鈴音のように美しい声が鼓膜に響いて心地好い。朔が淫らに動けば、光明まで届き若菜が尻を動かしているような形になり前後に摩羅を擦りつけていた。
 随分と若菜の菊門を気に入った光明は吐息を乱しつつ若菜の花芯へと手を伸ばす。
 朔の男根に擦られ濡れた亀裂の上に咲く膨らんだ蕾を引っ掻くように指の腹で刺激を繰り返すと、女陰と菊門が同時にきゅっときつく締まり二人の男が呻いた。

「はぁ、やっやっあっあっ、はぁぁんっ、ら…めっ、ほんと、に、おかしくなっち………ゃう、抜いてっ、あぁっ、許して、あっあっあっ…やん…いっちゃう、いっちゃう」

 唇を離して背中を反り返えらせる、若菜の羞恥と快楽に蕩けた表情に甘い懇願の歓声は二人の男の欲情を煽った。朔の鍛えられ程よく筋肉のついた肉体が汗ばみ、若菜の腰を抱いて、乳房に舌先を這わせ、勃起した薄桃色の乳頭に舌を絡めながら貪るように激しく動かした。

「はぁっ……はぁ、姉さん……っ、ほら、姉さんが好きな胸も……舐めてやる……俺を……もっと感じて……くれ……っ、はぁ、何度でもイケよ……っはぁ……っ…」
「はぁっ、はぁ……快楽でおかしく…なる位…感じているのか…お前は清楚な顔をしているが、……はぁ、感じやすい淫乱な混血娘ですねぇ…はぁ、くっ」

 溜まらず光明が後ろから突き上げると、緩く束ねていた髪がほどけて体に絡み付く。綺麗な白い臀部を撫でながらしっとりときつい菊花の内部を堪能する。菊門と花弁から同時に巻き起こる快楽に若菜は体を固くして二人の間で絶頂に達した。若菜の愛液が溢れると更に室内に淫靡な音が響き渡る。

「やぁぁぁぁっ……はぁ、あぁ、あっ、あっ、あっっ、また、きちゃう、また、やっやっやっ、もうだめ、だめ、いっちゃうの止まらな……!」

 がくがくと両腕を奮わせ溜まらず朔の胸板に頬を寄せて快楽の涙を流し口端から銀糸を垂らすと貯まらず二人の動きが激しくなる。

「はぁ……、私の……摩羅もっ、はぁ、限界のようだ…はぁ、はっ、朔……三人でイキますよ…?」
「はぁ、はぁ……俺も……っ、もうもたない、いっ……!」
「あっあっあっ、いっ、いく、いく、はぁぁん、いっっちゃ――――――ッッ!」

 若菜の甘い歓声と共に、朔の弾けとんだ欲望が若菜の子宮に放たれ、光明は菊門から己の摩羅を抜くと上から臀部と菊花に向けて精液を垂らした。淫らに流れ落ち、また朔がゆっくりと花弁から陰茎を抜くと精液が溢れて流れ落ち、 その様子を満足げに光明は見ていた。若菜はぐったりと荒い息をついて朔の胸板に体を預けた。

「はぁ、はぁ…はぁ……ん……はぁ……はぁ……」

 一気に気だるさと共に眠気が襲ってきた若菜はうとうとし始めた。もう着物を着る体力すら残っていない。

「はぁ……はぁ……フフフ、やれやれ…若菜お前はまた眠ってしまいそうになっていますね。今日は私のしとねで眠っても構いませんよ…」
そう言いながら光明は柔らかな稲穂色の髪を指に絡めると口元に寄せて口づける。

「はぁ、はぁ……」
「はぁ、……姉さん体を綺麗にしないと……連れて帰ります」

 何時もならば部屋に帰るよう促す光明だが、珍しく若菜を手元におきたいようだ。そうなれば必然と彼女をまた手にかける。それに……光明の義姉への執着が気にかかった。服を着込んだ朔は、眠そうにする若菜に一先ず着物を着せると抱き上げる。
               
「おやおや…お前ここに居て良いのですよ?」

 淫らに服を着こんで喉の乾きを癒すように酒を飲みながら皮肉じみた笑みを浮かべた。 
だが、引き留める様子はない。今宵は少々激しく戯れたようだ。

「いえ、光明様もお疲れでしょう……。今宵は失礼致します」

不満そうにするものの図星だったのか頷いた光明の反応から見てとれた。

✤✤✤✤✤

 丑三つ時の廊下には美しい月明かりが差し込み神秘的だ。ただ、何処と無くこの御殿がほの暗い翳りを感じるのは自分だけなのだろうか。
討伐依頼が立て込み、魔の気配が強くなっている事も関係しているかもしれない。

「朔ちゃん……私の、お部屋にいくの?」

 疲労と余韻で眠そうな表情をした若菜は朔を見上げた。今日は部屋に戻りたくない。
 由衛や吉良に心配をかけたくないのもあるが、他の男性に会うのが怖かった。それに朔と離れたくなかった。そんな若菜を察してか、義弟は優しい声音で言った。

「俺の部屋で構わないか?」

 若菜は頷くとぎゅっと彼の首に抱きついた。
朔は目を閉じて彼女の温もりを感じると、部屋へと入っていった。既に敷かれた寝床に若菜を降ろす。湯殿まで行く元気も無い若菜の体を水で濡らした手拭いで体を綺麗にすると、若菜は白樺の香りのする布団へと体を横たえた。

「姉さん、大丈夫か?」
「う、うん……少し痛いけど……大丈夫」

 若菜がそう言うと、朔は戸棚から薬の木箱を取り出した。そして貝殻の中に入った塗り薬を手渡す。

「これを、菊門に塗ると楽になる」

 若菜はそれを受けとると、ぎゅっと握りしめた。この薬は恐らく彼が行為をした後に愛用しているものだろう。切なくなって目を伏せると、子供の頃のように布団をポンポンと叩いた。思わず苦笑しつつ、頭をかいて布団に寝転ぶ。

「なんだよ、子供みたいに……って……!」

 唐突に若菜は朔を胸に抱き締めた。そして頭を撫でる。幼いとき、朔が怖い夢を見て起きてしまったら一人隔離された部屋に寝起きしていた姉の所まで行き、決まってこうして抱き締めて貰っていた。

「こう言うのも、たまには良いでしょ?」
「―――もう、俺はガキじゃないぞ、姉さん。全く…… 」

 ため息をつくものの、力が抜けるような安心感がある。柔らかな体も体温も、この世にひとつしかない安住の地のようだった。華奢な体に腕を回して、目を伏せふと朔が呟いた。

「必ず俺が陰陽頭になって、こんな茶番は終わらせる。陰陽師と貴族とそして……幕府の後ろ楯でな。此処を姉さんが誰からも後ろ指さされたり酷い目に合わない、苦しまなくていい場所にするから」

 この京で朝廷に仕えつつも幕府からも討伐頼を受けている陰陽寮…土御門光明の目を欺いて逃げ切れない。裏切ればどうなるか、今日の様子を見て背筋が寒くなった。恐らく自分二人だけでなく式神達も処罰されるだろう。
 今晩、光明に力を見せつけられ、霊力ではやはり勝てない事は理解した。だが、陰陽寮内でも光明に反発する者達がおり、また貴族でも良く思わぬ者達がいる。そして若輩ながら着々と築き上げてきた幕府の後ろ楯だ。幼い頃から政を見ていた聡明な彼は徐々に力をつけ初めていた。敵対関係にあった幕府とも、此方から交渉をし長い時間をかけて信頼関係を結んだのは朔の功績だ。

若菜は驚きつつも彼を見つめた。
これは内部分裂であり、裏切り行為だ。失敗しすれば命は無いだろう。

「うん。朔ちゃんを信じる。だけど、気を付けて…絶対に無理だけはしないで。私も絶対朔ちゃんを守るから。一人じゃないよ」

 心配するように若菜は念を押すと、朔は口端に笑みを浮かべ頷き、そのまま若菜を抱き締めたまま二人は深い眠りと誘われた。

✤✤✤✤✤✤

 目が覚めた時には、外は既に明るくなっていた。朔の部屋で夜を過ごす時は、夜明け前に部屋を出て自室に戻っていた。この広い陰陽邸宅で個室をもつ陰陽師達は時々良い仲の女中を部屋に招き入れたり、恋仲の陰陽師見習いや、芸子、陰間等を招き入れたりするのだと噂には聞いた。
 土御門光明は、仕事と忠誠心には厳しいが、休日の遊びや色恋に関しては「過ぎない」程度に甘く見ている。所謂ガス抜きをさせているようだ。とはいえ、流石に姉が弟の部屋を寝巻きで訪れているのは体裁が悪かろう。

「朔ちゃん、あの、私、そろそろお部屋に戻るね」
「若菜……もう少し……ん……」  
「んっ、……もう、朔ちゃん寝起き悪いんだから」

 寝惚けて若菜を引き寄せ頬に口付ける朔の腕から慌てて逃れると服を整え部屋をそっと出た。陰陽師達はまだ部屋から出て来て居ないようだった。足早に長い廊下を歩いていると、朔の部屋から暫く行った先で、お鶴に出くわした。
盆を持っている所を見ると朝餉あさげの用意だろう。

 光明、朔、琥太郎はまず食堂で他の陰陽師達とは食事はしない。女中に朝昼晩と用意をさせ個別で部屋で食事をする。若菜が朔に夜食を作ってあげたり、手料理を振る舞う時は女中が仕事を終えた後で自分の為にと偽って場所を借りた。元々あまり良く思われて居ないのは、直接言われずとも素っ気ない雰囲気で気が付いていた。

 けれど、この陰陽寮に来た時も周りの人々はだいだい同じような反応だった。素っ気ない人、あからさまに皮肉を言う差別的な人。
 それでも根気強く挨拶を交わし、徐々に普通に接してくれる人も現れた。おそらく皆、この容姿が見慣れず怖くて避けてしまうのだろう。
 そんな事もあって少し緊張ぎみに、身を構えた。この姿で相手はお鶴………朔と関係のあった女中だ。だが既に対面してしまっているので素通りしては返って怪しまれる。

「おはようございます、お鶴さん」

 鉢合わせたお鶴は若菜を見るなり、美しい眉をヒクリと動かした。それは若菜が寝巻きでこの先の廊下から現れたからだ。数名の女中の間では光明の愛人ではないかと噂されていた。
 それは光明が美しく聡明でそして妖艶であると言う事もあるから、女泣かせ、男泣かせの噂は女中達の噂の的となっていた。彼女達はその様々な噂で自分と美しい筆頭と自分との逢瀬を重ねているのだろう。何故なら彼の目に止まり愛人になれば、贅沢な暮らしができると夢を見ているからだ。

 だが、お鶴は違う。
 お鶴は朔が若菜に対して姉以上の感情を抱いている事に薄々感ずいていた。そして若菜もまた、朔に恋心を抱いているのも、女の勘で察していた。それは彼女が朔に対して情愛の念を抱いているからこそ気付くものだった。

「こんな朝早くにどうなさいました? この先の廊下は棟梁と朔のお部屋でござんしょう」

 お鶴は挨拶は返さず、どうにも刺のある言葉で呟く。若菜は体を強張らせると、生唾を飲んだ。

「少し………。祈祷の事で」

 嘘が下手な若菜を鼻で笑うと、美しい流し目で冷たく言う。

「白々しいねぇ。そんな格好で朝帰りなんて、生娘でも事情はわかるわ…。女の武器使って棟梁に取り入ってるって、噂になってますよ」

 その言葉に目を見開き傷付いたように目を伏せた。少なくとも、直弟子として選ばれたのは厳しい修行と功績のお陰だ。自ら光明にも取り入っている訳ではない。修行として夜伽あんなことをされても、自分の意思には反しているが自ら進んで彼を誘惑した訳ではない。
 だが、そう言われてしまえば何も返す言葉はなくなり口籠った。

「ち、違います、そんな、事はしてません」

「棟梁の部屋から出て来た訳じゃないなら、まさか弟の部屋じゃないでしょうねェ……だって…男色の琥太郎様の部屋じゃございませんでしょ?」

 ゆっくりと若菜の横まで体を付ける。
美味しそうな香りのするあさげは、三人どちらかのものだろう。若菜は動揺したように彼女を見ると、美しい顔が嫉妬と侮蔑に歪んでいる。  こんな風に敵意を見せられるのは自分の母親以来で心臓がズキズキと痛くなった。

「あんたと朔が腹違いだって事は聞いてるわ。あんたと朔は似ても似つかない毛唐だものね……アッチの女は自分の弟と寝るくらいふしだらなのかしら……気持ち悪い」

 その言葉に、刀で刺されたような痛みを感じて堪らずその場から若菜が逃げ出そうとした時不意に声が掛けられた。

「お鶴、何をしている?」

 訝しげに眉を潜めて現れたのは、寝起きの朔だ。寝巻きを少し開いた艶のある彼にお鶴は驚きつつもうっとりとして見つめた。

「いやね、あんたにあさげを持っていく途中で若菜様に出会ったんで挨拶していただけさ」

 取り繕うように、お鶴は美しい笑顔で答えた。隣にいる若菜の表情を見ると強ばっていて目を伏せている。この表情は、幼い頃彼女が母親に罵倒されている時に良く見た記憶がある。

「姉さん、昨日は朝まで看病してくれてありがとう。―――風邪引かないようにな」

「う、うん……またね、朔ちゃん」

 朔の優しい声と気遣いに少し気持ちが楽になり笑みを浮かべて頷いた。今はこの場から離れたくて踵を返して自室へと向かった。若菜の背中を心配そうに見守っていた朔に近付くと、お鶴は彼を見上げる。これから自分の部屋にあさげを持っていくつもりなのだろう。

「水臭いじゃない、看病なら今度からアタシを呼んでちょうだい。何時だってなんなら今からでも、あんたの世話をしてあげるわ――――下の方までね」

 美しいお鶴だったが、表情はとても下品に見え、朔は嫌悪感を感じた。世の男達は美人との淫靡な会話を鼻を伸ばして楽しむのだろうが、若菜と結ばれてからは受け流していたその言葉も、堪らなく煩わしいものだった。朔の部屋に向かうお鶴の腕をやんわりと握ると冷たく見下ろして言う。

「お前が俺にどんな感情を抱こうが、どうでもいい。一切興味はない。だがその事で、若菜に構うな……いいな?」

 お鶴はきゅっと唇を噛みしめ、自分の誘いを侮辱された悔しさで顔を真っ赤にした。まず自分の誘いをこんなにはっきりと断る男なんて、今までお目にかかったことが無いからだ。

「なんなのさ朔…! アンタ、あの毛唐の血を引く娘に惚れているのかい!? アンタの姉貴じゃない!」

捲し立てるお鶴を表情ひとつ変えずに続けて言う。 

「――――だったらなんだ? お前には関係ない。二度とその蔑称で若菜を呼ぶな。膳を置いてさっさと仕事にもどれ。この間の俺の返事はこれだ、お前とよりを戻す気はない」

お鶴は般若のような表情で無言のまま腕を振り払うと仕事へと戻っていった。


 ―――――若菜は長い廊下を歩き、丁度何時もの生活圏に戻ると、体の緊張を解いた。ここなら、寝巻きでも厠に向かったと思われるだけだ。陰陽師や、女中と軽い挨拶を交わして部屋に戻ろうとすると、部屋の前に由衛が仁王立ちしていた。
 まるで門限を破って帰ってきた娘を待つ母親のような様子で一瞬固まる。
 師匠の元へ行くというと何時もこうして部屋の前で心配して待っている。

「ゆ―――――」
「姫――――!!心配しました」

 駆け寄ると子供のように若菜をぎゅっと抱きしめ、耳を立てると狐の白い尻尾をパタパタと揺らした。

「く、苦しい。大丈夫だよ、心配かけてごめんね」

 ふと、由衛は若菜の首筋から光明と朔の香りがするのを感じて眉間にシワを寄せた。若菜から少し体を離すと、ふと顎を掴み顔をあげさせた。金色の瞳が鋭くまるで嫉妬するように細められ少し戸惑う。蜜色の瞳を飲み込むような鋭い視線だった。

「なに? 由衛」
「――――姫、御体を清めないといけませんね」

 不思議そうにする若菜の唇に唇を近付けられ若菜は慌てて彼の胸板に手を置く。

「ゆ………っ」
「早くひとっぷろ浴びてこねェか、あさげが無くなっちまうぞ、若菜」

 不意に背後の障子が開くと聞きなれた狗神の吉良の声が響いた。ふと小さく舌打ち目の端で男の姿を確認すると、余計なことをするなと視線で諌めたが、吉良は当然ながら全く動じなかった。

「う、うん! お風呂入ってくるね」
「姫、お風呂上がりに冷たいお茶を用意しておきますね」

 手を止めた由衛の腕から逃れると、若菜は頷き部屋に戻り、用意をすると湯殿へと足早に向かった。 チッ、と小さく舌打った由衛は振り返り吉良を軽く睨んだ。 扉を開け放ったまま、腕を組み呆れたように見つめる狗神と暫く睨み合った。

「――――ええところやったのに、毎回邪魔しやがって腹立つ狗やな」  
「てめぇの執着は若菜を主人と思ってねェ証拠だろ。全く、狐の狡猾さは油断も隙もねェな」

 フン、と鼻を鳴らせして由衛は障子を開け放って吉良の真横をすり抜け部屋に入った。吉良なりの遠回しな忠告だったが、全く動じず若菜の為にお茶を用意している。ため息をついた狗神は、後ろ姿を狐の同僚しきがみを心配し、また若菜を心配するように小さくなった背中を見つめた。
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