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ストーカーは推しに貢ぎたい①
しおりを挟む心地よい音律が聴こえてくる。
エルストンは無意識に笑みを浮かべ、その音の方へ向かう。
そこには、漆黒のグランドピアノと真っ白なグランドピアノが並んでいた。ここは例のごとく、いつの間にか屋敷に作られていた音楽ホール。壁にはヴァイオリン、オーボエ、フルート、トランペットなどと様々な楽器が掛けられている。
最近、ここの屋敷の持ち主のアインズ・フォン・フェルゼン辺境伯すら卒倒することの無くなった増築。彼はただ「ヌッコ様の思し召しでしょう」となにやら感慨深げに言っている。訳が分からない。
ヌッコというのは潰れまんじゅうの猫に似た謎の生き物だ。日向ぼっこをする雑食の生物。逃げ足はとんでもなく早い。何故か近年、フェルゼン領で神の使いとして崇められている。そのせいか、フェルゼン領はヌッコグッズに溢れている。先日、クッションかと思ったらリアルヌッコを持ち上げてしまった。綿入りヌッコクッションより、リアルヌッコのほうがマシュマロボディでずっと柔らかかった。
(……できることなら、また触りたいものなのだが)
ヌッコは逃げ足が速い。触ろうと思って触れるものではない。
良く芝生の上や屋根の上など屋敷でも見るが、触れるのは難しいのだ。
楽し気に連弾をするロヴェルとアリエッタ。その楽譜は、最近帝都で流行りの『ロイヤル☆ラヴァーズ・リヴサーラ』の最新楽曲であったりする。知らないエルストンは、幸せだった。色々な意味で。
「お兄様、一緒に協奏しましょう!」
エルストンに気づいたロヴェルが、眩しい程の笑顔で手を振ってくる。
フェルゼン領に来て、ますます弟妹達は明るくなった。
たまに「妖精さんを探しに行きます!」と二人で屋敷を歩き回っている。
ついでに言うと、その妖精さんはたまにアリエッタを外に連れ出す。
最初、その報告を聞いたときは椅子から腰が浮きかけたが、笑顔のアリエッタが「ホワイトベリーを摘みましたの」と、余りに嬉しそうに報告するのだから何も言えない。
ちなみに、そのホワイトベリーは三つ山を越えた向こうの、断崖絶壁で怪鳥が飛び交う場所だと聞いて卒倒しかけた。
その日の夕方、屋敷内のトランクルームに人と魚の中間のような頭に、鳥の翼と足がついた妙なモンスターがみっちり詰まっていた。
どれも損傷が少なく、一撃で仕留められた玄人の仕業だった。
ちなみにその鳥のモンスターは羽、爪、皮、そして肉に至るまで稀少な素材となる。また、断崖に主に生息しているので倒すと落下して殆ど潰れてしまうことが多いそうだ。
無傷に近い状態は本当に希少で、かなりの財となったようだ。
妖精さん武闘派説がフェルゼン邸に駆け巡る出来事だった。
(……となると、もしや今までのワイバーンやブラッディボアやイーヴィルフィッシュもその妖精が捕まえたのか……?)
エルストンの中で、妖精さんマッチョ説が浮上した。
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