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01 夢で見たあの子
しおりを挟む都立新川高校では夏の期末考査の最終科目が終わり、学校全体が安堵と浮かれた空気に包まれていた。
二年一組の葉山理沙も、ようやく終わった長いテスト期間と、思いがけず手ごたえのあった出来を振り返り、ホッとしながら帰り支度を始めていた。
「リサ、これからみんなでカラオケ行かない?」
同じクラスの仲良しグループの友達が3人、連れだってやってきた。
「ごめん、私パス。これから生徒会の集まりなんだ」
友人の誘いを断りながら、理沙はそっと、窓際の一番後ろの席に座る笹山雪を見ていた。
クラスの誰とも話すことなく、淡々と片付けを進めている。ペンケースを鞄にしまおうとしている笹山の、細く白い手指が目に入った。
「リサ、何見てるの? …ああ、笹山さん?」
「ああ、うん…」
まるで盗み見るような視線を見破られて、理沙は少し気恥ずかしくなった。
「笹山さん、なんか変わった子だよね。友達とかもいなさそうだし」
「お母さんと二人暮らしなんだっけ。お父さんを早くに亡くしたって、同中の子が言ってたけど」
「そうなんだ…」
どうして笹山さんのことが気になるのか。それには理由がある。
今朝、彼女が夢に出てきたからだ。
これまでほとんど会話すらしたことがなかった笹山さんが、まさか自分の夢に出てくるなんて。そんなことは今まで一度もなかったから、理沙は余計に気になっていた。
しかも…。
(すっごく綺麗なお姫様だったんだ。)
色白で、まっすぐな百合の花みたいに凛としていて。顔は黒いベールに包まれていたけれど、 たしかに一瞬だけ見えたのだ。
姫と呼ばれていたあの女の子は、笹山さんだった。
生徒会室に向かいながら、理沙は朝見た夢を反芻していた。
それにしても、どうして笹山さんの夢を見たんだろうか。ほとんど接点なんてなかったんだけど。そんなイメージで彼女を見ていたということなのかな。
生徒会室の扉を開けると、書記の立花郁也が先に着席していた。理沙たち他メンバーの到着を待ちながら、大学入試用の参考書を解いているようだった。
「立花君、お疲れさま。期末テスト、どうだった?」
「期待外れだ。もう少しひねりのある問題が出ると思っていたんだが」
細いフレームの眼鏡を指で押し上げながら無表情で話す立花は、理系クラスの最優等生だった。手元の参考書には、日本最高学府の大学名が題されている。
そんなに勉強で忙しいのなら、なんで書記なんてやってるの? と理沙は前に聞いたことがある。「学校全体の様子を俯瞰で眺められるだろう、人間関係は一種の科学反応のようなものだから、勉強の気分転換になるんだ。」と、よくわからない答えだった。
「諏訪君は? 同じクラスでしょ?」
「会長は職員室に寄ると言っていたから、もうすぐ来るんじゃないか」
手持ち無沙汰になった理沙が窓の外に目をやると、下校していく笹山雪の姿が見えて、ハッとした。自分がいる生徒会室があるのは三階で、けっこう離れた距離なんだけどな。しかも笹山さんは後ろ姿なのに、どうして彼女だと分かるんだろう。
そうか、彼女の佇まいだと理沙は気づいた。周りを歩く他の子たちの誰よりもまっすぐ歩く姿勢が凛としていて、遠くからでも笹山さんだと分かる。
歩きながら、華奢な肩より少し上で切り揃えられた真っ黒な髪がサラリと揺れていた。夏の日差しに照らされて、彼女の白いうなじが見えたり隠れたりしていた――。
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