魔王なアイツは遠すぎて......。嫌われモノの俺 戦えない俺の異世界転生生活

やまくる実

文字の大きさ
28 / 73
第三章 再会、幼馴染の変貌

第28話 今すぐ側に行きたいのに! なんでこんなに忙しいんだ! (タイアン視点)

しおりを挟む


 いつかはその時が来ると覚悟はしていた。

 そうやって育てられたから。
 いくら抗っても俺は親父の息子だし、俺が魔王になるんだと幼い時から言われていた。

 だけど……。

 何も今じゃなくてもいいんじゃないだろうか?


 俺は何よりも大事な存在ができてしまった。

 今の俺は魔王に相応しくない。
 魔王は何に変えても魔国の人々を守らなければならない。

 好きな相手とかそんな事、言ってられない。


 魔国は問題を抱えている。
 魔国民はいつも見えない恐怖に怯え戦っている。

 何故、どんなタイミングで魔国民が地上に放り出されてしまうのか、その理由もまだ掴めていない。

 だけどショウに逢って、希望も見えた。

 もしかしてショウに手伝ってもらえたら、ショウの力を借りることができたら、魔国民も地上に出ても魔物にならずに済むかもしれない。

 元に俺はショウの側では獣にも、魔物にも変化しないで素のままでいることができる。

 親父ですら、地上ではありのままの姿ではいられない。
 理性は保てていても地上では魔物の親玉のような姿になってしまう。
 だから地上人は親父の魔物に変化した姿を魔王だと思っている。

 だけど……。

 ショウは俺の事を何1つ知らない。

 魔王だと知らない。

 今までは魔王ではなく魔王の息子だった。
 少なくとも魔王ではなかった。

 ショウがその事を知ってしまったら、きっと今までの様にはいられない。
 当たり前の様にショウに協力してもらえるかの様に思ってしまっていたが、ショウは魔国にとって救世主だと言われている黒髪ではあるが地上人だ。

 俺が魔王だと知られた途端、拒絶されてしまうかもしれない。

 前回逢った時、ショウにあんな事をしてしまった。
 だけどショウの心もこちらに向いている様にも見えた。

 お互いに興奮し一瞬だけでも心が繋がったかの様にも見えた。

 だが俺は何1つショウに気持ちを伝えていない。

 あの日の朝も……挨拶も交わさずに帰ってしまった。
 親父からの連絡があったと言うのもあったが、すぐ近くにショウが寝返りを打った時、眠っているショウの可愛すぎる寝顔を見続け、ふと体が触れた時、俺の欲望の象徴は大きく膨らみ暴走しなかったことが奇跡に思えるほどだった。

 あのまま朝、会話してしまったら、確実に襲いかかってしまっていたと思う。


 だけど……こんな未来が待っているなら、欲望に身を任せ抱いて仕舞えばよかった。

 いやいやあれで良かったんだ。
 何も考えずに行動し、ショウの身に何かあったらどうすると言うのだ。

 だけど、俺は魔王になるという定めから逃れられなかった。


 本当は俺の予定では、こんなに早く魔王になってしまう予定なんてなかったから、これからも獣としてもこの人の形である素の姿ででもショウに頻繁に逢いに行き、交流を深め少しずつ距離をつめるつもりでいた。

 俺はなかなか素直にショウに優しい言葉をかける事も出来ないから、態度で示すしかないと思っていた。

 そんな時に、こんな事になってしまった。

 親父は隠居生活になったのだが、と言ってもあんな中途半端に魔物に変化したまま、自身で結界を張っているあの部屋に閉じこもっている。

 しかも中に入れるのは今の所、俺しかいない。

 必然的に親父の世話も俺がする事になる。

 親父の部屋にキッチンを導入したり、部屋内にトイレも導入したり、俺が親父の世話をする時間を減らすため工夫はしているが、そうは言ってもその作業すら俺しかすることができない。

 部屋の中に俺しか入れないのだから……。


 書類仕事はこちらに俺が運び込み親父にしてもらってはいるが、親父の中にある濃い邪気を含む魔力が付着した書類をそのまま持ち込むと他のもの達に良くない影響を与える可能性もある。

 よって他の部屋で一定時間保管する必要もある。


 まあ俺に邪気の影響がほぼ出ないのは、ショウとあの時触れ合えたおかげであろう。

 しかしあの出来事で余計にショウに逢いたくなる気持ちがつのってしまった。

 なのに今の俺はショウの顔すら見に行くことができない。

 ショウの唇、あの柔らかい唇に触れた時、俺の中でショウによって生まれ変わらせてもらった魔力とショウの質の違う綺麗すぎる魔力といっていいんだか分からないその力とが混じり合い、その事が俺達の中の力を変化させた。

 そしてその事が影響してかショウが耳に魔道具を引っ掛けた時、俺がそれと対に成っている魔道具をつけている時、ショウの現在の状況が、今まで以上に鮮明に見える様になってきた。


 つまりだ。

 ショウが別の男の体に触れたり(マッサージの施術をしているだけだが)、その男に笑いかけたりするのが全て見えるようになってしまったのだ。


 それなのに俺はこんなに忙しくてショウの元に行く事ができない。


 そんな俺だったが、もう最近はショウ不足で限界を迎えていた。

 親父の側にいることが増えて強い邪気に毎日触れている。
 いくら俺には効かないとは言っても全く影響がない訳ではない。
 俺の中にも微かだがまだ邪気を含む魔力がある。
 
 それが影響されてしまう。


 それに見たくない映像が見えたのだ。

 ショウの前に金髪の男が現れた時、そいつと顔が近づいた時、そいつに手を握られた時、ショウが明らかに動揺していることが分かった。

 ショウが知らない男に笑いかける姿を見ても腹は立ったしそんな顔を見せたくないという衝動にかられたが、ショウの様子が、俺と接している時の方がもっと感情を出していたとか、俺に笑いかけていた笑顔の方がもっと可愛かったとか、何を根拠に言っているかわからないが、とにかく自分の中でソイツよりもショウに思われている自信があったんだ。


 だけど、コイツの顔を見た時の切なそうな表情、明らかにショウはコイツの事を特別視している事が見てとれた。

 そしてコイツが触れた時、ショウの耳のリングを通じて俺の耳の魔道具にまでコイツの強い邪気が伝わってきた。

 耳の魔道具はショウの危険を俺に知らせてくれる。


『ショウ、やっぱりショウなんだよな? 8年経つのに見た目が変わっていないとか、どうしてその髪色なのか、聞きたい事だらけだ。後で話がある』

 その男がショウの脳内に直接語りかけてきた言葉が俺の脳内にも響いた。

 その声は俺自身が危機感を持ってしまうほど狂気に満ちた執着を含んだ声に聞こえた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...