上 下
16 / 62
魔王の言い分

魔王と執事と人質と酒。4

しおりを挟む
「忠告しておくが、こちらの魔王様との恋愛は勧めないぜ」

フェンリルは恭しくサイファを手のひらで示した。

「わ。執事にナンパを邪魔された。なんてこったい」

「アホ言わんでください。冗談ならともかく、本気で勇者の女を寝取るつもりか。女一人で戦争がまた五百年長引くぞ」

「えー」と肩を竦めるサイファ。どこまで本気なのかわからない……ではなく、すべてが冗談に見える。

正しくは『勇者が女と思っている女』だ。訂正しないけど。

ハルが召集されたとき、勇者は五百年に一人と聞いた。世間的にはそろそろじゃないか?と囁かれてはいたけれど、まさかハルが選ばれるとは。

「おい、いいか?」

フェンリルが厳しい顔で私を指差す。

「お前にはここで魔物についてよぉく理解してもらう。そして勇者を説得してもらう。最後に結婚しろ。結婚式のスピーチは魔王様だ。箔がつくな。これで全て予定通りの円満解決だ」

「えっ……?誘拐……監禁……洗脳……逆スパイ……?」

こっわい。

思わず椅子からのけぞって二人の顔を見てしまう。本当に乱暴な手段はとらないよね?綺麗な顔して腹の中に悪魔飼ってないよね……?

「こらフェン。そういう言い方するから勘違いされるんだよ。まあ二人ともそうまちがってはないけど」

こっっっわい!やっぱり魔物は魔物か!私どうなっちゃうの!痛いのは嫌!

媚びとこ。ここの一番トップにゴマすりしとこ!

「暴力はナシでお願いします……嫁入り前なものですから、どうぞご慈悲を……」

サイファに向けて両手を合わせる。と、苦笑が返された。

「大丈夫大丈夫。連れてきたのは無理矢理だったけど、正式に招待したって来るわけないだろう。国王にも手紙出したことあるんだよ?」

「まあ、来ないわな」

「お客様……というより、レミィちゃんはもう友達かな。友達を迎えるつもりで準備してるからさ。まあ楽しんでってよ」

じっと目を見る。この垂れ目、わりと澄んでる。やっぱり悪いやつじゃない気がする。

「……わかった。ただ、したくないことはできないからね?」

「もちろん。レミィちゃんの思った通りにしてよ。僕たちが変だと思ったら、それでもいい」

ちゃんと真っ直ぐ目が合う。真摯だ。ふざけてない。

「よし。サイファのこと信じるよ」

「やったね。僕も気持ちに答えなくちゃな」

しかと握手する。

体温が低くて、爬虫類を触っているような感じがした。普通にいそうだけど、人間っぽくない印象を受けた。

いい人たちでよかったなー。改めて実感だ。もしこれで相手が暴力的だったら、生きて帰れてもお嫁に行けなくなるところだったかもしれない。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

堅物君とチャラ男君の遊び

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:57

逆NTR~妻の友人のチャラ男に寝取られた僕~

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:303

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,140pt お気に入り:16,095

子犬だと思っていた幼馴染が実は狼さんだった件

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,282

興味本位で幼なじみ二人としたら開発されたんだけど

BL / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:78

レースで飾った可愛い俺を愛してよ

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:102

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:88

処理中です...