征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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インド洋作戦

第38話 二航戦艦爆隊

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 第二航空戦隊の「蒼龍」それに「飛龍」から出撃した第一次攻撃隊は、東洋艦隊を視認する前に鼻先の尖った戦闘機の迎撃を受けた。
 左から十数機、右からは一〇機程の編隊が第一次攻撃隊を挟み込むようにして迫ってくる。

 これに対し、菅波政治大尉率いる「蒼龍」戦闘機隊が左に、岡島清熊大尉の「飛龍」戦闘機隊が右へと機首を向け加速、敵編隊へと突っ込んでいく。
 一方、日本側から向かって左から迫るのはA部隊の「インドミタブル」と「フォーミダブル」、右のほうはB部隊の「ハーミーズ」から発進した機体で、そのいずれもがハリケーン戦闘機を艦上機化したシーハリケーンだった。

 インド洋上空で液冷の機体と空冷の機体が混交する。
 このうち「飛龍」戦闘機隊のほうは数がほぼ互角だったことでシーハリケーンの拘束に成功する。
 一方、「蒼龍」戦闘機隊のほうは相手の数が五割以上も多かったことで完全阻止には至らない。
 零戦の防衛網を突破した二機のシーハリケーンが九九艦爆に取り付く。

 それら二機はセオリー通り、最も僚機の支援を受けにくい編隊最後尾のカモ番機にその照準を定める。
 ドイツ空軍との熾烈な生存競争を勝ち抜いてきた中でも、さらに狭い飛行甲板に離着艦ができる搭乗員の銃撃は正確を極める。
 シーハリケーンが両翼を閃かせるたび、狙われた九九艦爆が炎と煙を吐き出しながらインド洋の海面へと墜ちていく。

 一方、九九艦爆隊のほうは機体を密集させつつ後方機銃を振りかざして必死の反撃を試みる。
 しかし、七・七ミリ機銃の威力が足りないのか、あるいは射撃そのものが不正確なのかは分からないが、いずれにせよシーハリケーンを撃退するには至らない。
 逆に、九九艦爆のほうは防弾装備が貧弱なことで、ただの一連射を食らっただけでそれがあっさりと致命傷になってしまう。

 そのことで、ごく短い時間の間に「蒼龍」第二中隊第三小隊が全滅し、さらに第二中隊第二小隊三番機が食われてしまう。
 それら四機が失われた時点で、しかし九九艦爆隊はようやくのことで二群からなる東洋艦隊をその視野に収めることに成功する。

 ほぼ同時、自分たちに執拗にまとわりついていたシーハリケーンが離れていく。
 おそらくは、味方の対空砲火に巻き込まれるのを嫌ったのだろう。

 剣呑極まりない襲撃者がいなくなったことに安堵を覚えつつ、第一次攻撃隊指揮官の江草少佐は前方を行く艦隊にその機首をもっていく。
 その彼の目には左右に合わせて一〇隻あまりの中小型艦と、さらにその中央に四隻の戦艦とそれに続く一隻の空母が映っていた。

 小ぶりな船体に、煙突を含む巨大な艦橋がいかにもアンバランスに映るその空母は「ハーミーズ」と見て間違いなかった。
 旧式小型の「ハーミーズ」は、新型の「イラストリアス」級とは違い、飛行甲板に本格的な装甲は施されていない。
 九九艦爆が投じる二五番でも十分に打撃を与えることができる。

 「目標を指示する。『蒼龍』隊それに『飛龍』隊ともに空母を狙う。攻撃は『蒼龍』隊、次に『飛龍』隊とする」

 江草少佐は全体命令を発し、さらに少し間を置いて直率する「蒼龍」隊に突撃隊形をつくるよう命じる。
 「蒼龍」艦爆隊が襲撃者から身を守るための緊密隊形を解き、次に斜め一本棒の形にその姿を変えていく。

 第二航空艦隊の艦爆隊が小隊ごとに投弾するよう戦技を変更したのに対し、第一航空艦隊のほうは従来の一機ごとに投弾するスタイルのままだった。
 それは、一航艦がこれまで対空能力の貧弱な敵を相手取ってきたのがその理由だった。
 被弾する確率が低い相手であれば、被害軽減よりも命中率重視で臨むほうが理にかなっている。

 江草少佐は「ハーミーズ」の後方から降下を開始する。
 戦艦列の最後尾にある「ハーミーズ」を狙うのであれば、やはり僚艦の援護を受けにくい後方から接近するのが妥当だ。

 江草少佐はダイブブレーキを効かせつつ、「ハーミーズ」の上空五〇〇メートルまで接近、そこで腹に抱えていた二五番を切り離す。
 さらに「蒼龍」第一中隊第一小隊の二番機、三番機が投弾、そのすぐ後に第二小隊、第三小隊もこれに続く。
 五機に撃ち減らされた第二中隊もまた、仲間の仇とばかりに相次いで二五番を投じていく。

 一方、狙われた「ハーミーズ」のほうは必死の回頭で爆弾を躱そうとする。
 そのことで、投弾までに撃墜された九九艦爆は一機も無かった。
 いかに優秀な射撃照準装置をもっていたとしても、しかし艦が回避運動を続ける最中にあっては十分な射撃精度が維持できないのだろう。

 その「ハーミーズ」の両舷に相次いで水柱が立ち上り、さらにそれを上回る数の爆煙が飛行甲板から噴き上がる。
 一万トンをわずかに超える小型空母には耐え難い打撃だ。

 致命傷に近い損害を被った「ハーミーズ」に「飛龍」艦爆隊がとどめを刺しにかかる。
 すでに「ハーミーズ」が脚を衰えさせていることもあって、こちらは「蒼龍」艦爆隊を上回る命中率を叩き出した。
 二〇発を超える二五番を食らった「ハーミーズ」は盛大に煙を吐き出し、ほどなく洋上停止する。

 (撃沈確実だな)

 当初目標を達成したことで、江草少佐は胸中で安堵の息を吐く。
 ただ、「ハーミーズ」を撃沈した割には、それを素直に喜ぶことが出来ていないことも自覚している。

 その理由ははっきりしていた。
 「蒼龍」艦爆隊は敵戦闘機によって四機が犠牲となり、さらに投弾後の離脱途中にさらに一機が撃墜されてしまった。
 たった一度の戦いで全体の三割近い損害を被ってしまったのだ。
 機体とともに失われた搭乗員は、そのいずれもが一騎当千のベテランばかりであり、その補充は容易ではない。

 (相手が正規部隊であれば、これほどまでに血を流さなければならないのか)

 江草少佐は、今さらながらに二航艦艦爆隊の戦技変更について、その理由を理解する。
 九九艦爆のような脆弱な機体で、対空能力に優れた相手に肉薄攻撃を繰り返せば、それこそあっという間に機体と搭乗員を失ってしまう。
 そのことを、二航艦の連中はその身をもって太平洋艦隊に思い知らされていたのだ。

 (一航艦の艦爆隊もまた、二航艦のそれに倣う必要が有るのかもしれんな)

 そのようなことを思いつつ、江草少佐は帰投のために「蒼龍」艦爆隊それに「飛龍」艦爆隊に集合するよう命令する。
 おそらく、「蒼龍」第二中隊に大打撃を与えた二機のハリケーンが送り狼よろしく待ち伏せているはずだ。
 他にも零戦との戦いから離れ、自分たちに向かってくる機体があるかもしれない。
 もし、少数機でバラバラになって帰投すれば、それこそそういった連中の餌食となってしまう。
 だからこそ、艦爆隊が一丸となって戦場からの離脱を図らなければならない。

 (これ以上は、決して部下をやらせはしない)

 そう決意しつつ、江草少佐は機首を母艦のほうへと向けた。
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