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一章
義兄、登場
しおりを挟む「ようこそ、ここが我が家だ」
顔合わせから数ヶ月後、ついに邸にお迎えしてもらえることになった。
なんだか早速すごい体験をしてしまった。馬車があんなにふかふかだとは思わなかった。実は王宮から借りた馬車ですとか言われても、へ~そうなんだ~! になる乗り心地だった。
俺が呆然と馬車に乗っている間にも、ガルシア伯爵は時折何か確認するように俺を見つつ手際良く周りに指示を飛ばしていた。
これがやり手伯爵か……。なのに俺と一緒に断罪されるのか……。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ご苦労。騎士や使用人達にはまた改めて挨拶をさせる。ソフィアとリアムを呼んでくれ」
「かしこまりました」
屋敷に到着すると、家令と思わしき男性とメイドが出迎えてくれた。洗練された動きである。すごい。魔法士の道がぽしゃったら俺も侍従とか目指そうかな。
「シャノン君が落ち着いた時にでも使用人達は紹介しよう。それでいいかい?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
なるべく人好きのする笑みに見えるように口角を上げる。礼儀もわからない孤児の俺は、とりあえず顔を使うしかない。
ついでに傲慢フラグもへし折っておく。伯爵! 俺は人のものを何でもかんでも欲しがったりしませんからね!! この純粋な瞳を見てください!!
ふと、視界の端に自分の髪が映った。前髪以外しばらく切っていなかったから胸まで伸びてしまっている。これ、場合によっては女の子に見えるんじゃないかなあ?
漫画のシャノンもここまで伸びてなかった気がするけど……良いか。似合うしな。
「お待たせして申し訳ございません。旦那様、お呼びですか」
しばらく待つと人の気配が増え、ガルシア伯爵がソフィアと呼ぶ方が視界に入る。
彼女が伯爵夫人だろう。おっとりとした垂れ目に柔らかそうな髪。優しげな雰囲気を纏いつつ、凛としている。
……彼女も漫画通りならシャノンを甘やかしすぎたせいで断罪される。こんなしっかりとしていそうな女性を?
シャノン、怖くね? 悪魔?
「……」
でもな~、俺が俺である限り、俺が特別何かしなくてもこの二人は断罪とかされそうにないけどなあ。
盲目な馬鹿親とかじゃなさそうだし。ちょっとだけ肩の力抜けたかも。
……ん?
「…………」
不意に伯爵夫人以外の影をもうひとつ感じ、視線を動かす。
……動かし、固まってしまった。
毛先に向かって段々と白が混じっていく不思議な色合いをしたアメジストの髪の毛。
解いたらきっと腰上あたりまであろうそれは緩く三つ編みされ片方の肩にかけられている。
クロッカスが咲く瞳は澄んでいるのに感情がよく見えない。右の黒目の下にひとつある黒子がどことなく色っぽい。
まごうことなき美青年だった。
(主人公! 主人公だ! 確かにこういう見た目だった! 現実主人公すっごい美形だな!)
芸能人を生で見たみたいな気分になりちょっと興奮さえしているが、表情にでないように頬の内側を噛んでにやけそうになる口元を正す。
見れば見るほど整った顔をしていらっしゃる。ガン見は失礼だと分かっていても思わず見ちゃうくらい。
俺がじーっと見つめている間、主人公も俺にじっと視線を返していた。
彼の表情に浮かんでいる感情は、なんというか……『無』。怪訝そうでもないし嬉しそうでもない。なんだろう。
「私の妻のソフィアと、長男のリアムだ。――二人とも、前々から話していた子を連れてきた。シャノン君、何かひとこと挨拶できるかい?」
伯爵の声を聞き、はっと視線をリアムから外す。
第一印象は大事だ! 誠実さを全面にアピールするんだ!!
優雅……とは言えないだろうけれど、なるべく慌ただしくないように立ち上がり頭を下げる。
「お初にお目にかかります。ガルシア伯爵にお声掛けいただきました、シャノンと申します。僕は魔法もマナーも何も分からない若輩者ですが、ご縁をいただいた分きちんとお返しできるように努力します! どうぞよろしくお願いします」
マナーや文法がめちゃくちゃだったとしても、とにかくまともな人間であることをアピールするために殊更丁寧な口調を心がけてみる。
普通に胃が痛い。伯爵と初対面の時の比じゃないくらい冷や汗もかいている。
俺は愛想もいいしそこそこコミュ強だと思っていたが全然そんなことはないかもしれない。
あれはあくまで気負わない平民相手とかシスター相手だったからだ。貴族様相手に太刀打ちできる気がしない。は、反応が怖い!
「あら、まあまあまあ。顔をあげてちょうだいな。あなたの噂はかねがね聞いていますよ。わたくし達も会えるのを楽しみにしていたの。ソフィアよ、よろしくね」
「…………」
「…………リアム?」
そろりと顔を上げて夫人を見る。俺の魔力なんて噂になるほどなのだろうか。何か特別な魔法とかぶっ放してたわけじゃないのにな……。
親しげな夫人の言葉に内心安堵する。その隣でリアムが変わらず俺を見つめているが、彼は何も言葉を発さない。
夫人も怪訝そうにリアムに声をかけていた。
「…………母上、申し訳ありません」
「……貴方、緊張しているの? 珍しい」
「いえ、そんなことは……。……リアムだ。君の義兄になる。どうぞよろしく」
リアムは簡潔に挨拶を口にすると、伯爵と夫人に許可を取り部屋から退出した。なんだか忙しそう。
……にしてもクールだなあ。大雑把な内容しか漫画について思い出せないけど、確かに漫画のリアムは冷静沈着な人だった気がする。
そんな性格じゃないと感情論で暴走する義弟を断罪なんてできないよな。
「シャノン君、ごめんなさいね。リアムは優秀なのだけどあんまり人当たりの良いほうじゃなくて……。貴方個人だけに対してああいう態度なわけじゃないの。ごめんね」
すまなそうに謝る夫人。
ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。
「いえ、そんな! 悪い気分になったわけじゃないので大丈夫です! 彼、ええと、リアム様……兄上? にもご予定があるでしょうし! 全然全く! 気にしてません!」
リアムの態度を悪くいう気はないのでめちゃくちゃ焦って否定した。
「まあ、優しいのね」
「リアムには嫡子として厳格に接していたから、君みたいに、なんと言ったらいいか……。こうやって接していいのは私たちにとっても貴重なんだ。どうか私たちに君の未来のサポートをさせて欲しい。シャノン君、こちらこそよろしく」
なんだか嬉しそうな表情で俺と握手をする伯爵と夫人。
……彼らがシャノンのわがままを聞きまくっていた理由がちょっと分かってしまったかもしれない。
この人たち、きっと小さい頃からリアムに厳しく接していたから、アムに対して今更どうやって飴を与えたらいいか分からないんじゃないだろうか……。
貴族として息子や娘を厳しく育てるのはある意味当たり前のことだと思うけど、多分この人たちは嫡子として育て上げた息子に優しくしてやりたいと願っても優しくできないのだ。やり方も加減もわからないから!
その点俺はこの家を継ぐことはないし、生まれながらの貴族じゃないから礼儀やマナーもきっとどう頑張っても本物の貴族には及ばない。
シャノンは甘やかしていい存在として認識され、息子に与えたかったはずのそれを、息子の代わりとしてシャノンに渡してしまうんじゃないだろうか?
……そりゃあ確かに親子間の溝も深まりまくってしまうなあ!!!!
俺が暴走さえしなければ家庭崩壊なんて起きないだろうと思っていたけど、前言撤回だ。
俺が彼らの親子関係を取り持たないと、どのみち親も子どももお互いの信頼を手に入れられなさそうである!
だって伯爵と夫人がいくら俺を甘やかしたところで、彼らが本来優しく接してあげたいのは血の繋がった息子なんだ。俺じゃない。
俺が一肌脱いで彼らの関係を良い方向に修正しよう、と心に決め、笑顔で握手を返す。
ちょっと口が引き攣ったけどバレていないことを祈る。
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