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ストーカー

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 1時間だけ飲むのも気が引けて、コンビニエンスストアの中に入った凌太は入り口近くの雑誌コーナーに立った。 

 店内の時計をちらりと見ると、てっぺんに差し掛かるところだ。セナは今最後の客の接客をしているのであろう。そう思うと黒い気持ちが心の中でどんどん膨らんでいった。見たこともない、そして見たくもないセナの客に対して抱くこの気持ちは名前をつけるならズバリ嫉妬であろう。 

 男性の目を引く言葉が並ぶ雑誌が目に入った。ふと今まで考えを及ぼすことのなかったセナの職業について考えてみた。

 男を喜ばせるための仕事を行うセナ。自信を持って人に言えるような一般的な職業では無いだろう。しかし、凌太からすると風俗という仕事にさほど壁を感じる部分が無かった。

 人間の三大欲求の一つである性欲を満たすための仕事は、この世界に必要な仕事だろうと思う。人類最古の職業は売春だという説もある事だし。

 太古の昔から人間の性欲を慰める職業が存在した事に驚きだが、そのおかげで今現在恩恵を享受しているのだから有難い事この上ない。

 さらにセナやルカの働くあの店はある種の専門性がある。凌太のように新たな目覚めを与える場所でもあり、普段吐露できない性癖のはけ口として顧客の心を満たしてくれる数少ない場所でもあった。

 他の男の陰茎を握った同じ手で握られてるという事も、冷静になって考えてみるとそんなにおかしな事でも無い気がしてくる。

 そもそも男同士だから、そういう関係になれば棒は二本である。自慰行為をしたことが無い成人男性はほぼ存在しないだろうから、自分のを握った手で凌太のを握っている、と考えると興奮さえしてくる。

 ただ、一つだけ懸念があるとすればキスだ。あの唇が沢山の男の唇に触れたのかと思うと言いようの無い気持ち悪さがあった。手と手が触れあうのと少し部位が違うだけなのに、どうしてキスにはこんなにも重要に考えてしまうのだろうか。

 他の男の陰茎を握るより、他の男にキスをしていると思う方が胸が苦しくなった。

 今時の風俗店はネットでリアルタイムで情報を見ることが出来る。

 そういえば、部長は誰を選んだのだろうと本日完売となっているキャストを見るため、ページをリロードするとセナの名前の下に案内終了の表示が現れた。

 この店に通い詰めた凌太は、この表示が何を意味するのかを知っていた。接客が終わり、もうすぐ帰るという事だ。

 あの店はキャストも黒服も客も、皆一つの扉から出入りする作りになっている事もセナとの会話で知っていた。と言う事は、ここで待っていれば、帰宅するセナに会える可能性があると言う事だ。いわゆる出待ちである。

 一般的に嫌われる行為だが、自分ならセナも悪い顔をしないのではないだろうかという謎の自信があった。セナが出てくるまで数分はかかるだろうと、ドリンクを一本購入し、イートインスペースに座って植木で見えにくい出入口あたりを注視している事に決めた。
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