『働いたら負けだと思ったので、何もしなかったら勝手に勝ちました』

ふわふわ

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第33話 それでも巻き込もうとする人々

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第33話 それでも巻き込もうとする人々


---

 中心にしない、という結論が出てもなお、
 人は簡単には諦めない。

 むしろ――
 諦めきれない者ほど、やり方を変える。


---

「お嬢様、
 最近“偶然”が増えております」

 朝食後、マリエが控えめに告げた。

「偶然?」

「ええ。
 散歩の時間に限って誰かと鉢合わせたり、
 馬車の行き先で“たまたま”会合があったり……」

 ファワーリスは、パンを一口かじってから答えた。

「必然ですわね」

「……やはり」

「正面から頼めない相手には、
 人は“巻き込む”という手段を選びます」

 その声は、
 呆れでも怒りでもなかった。

 ただの分析。


---

 その日の昼、
 ファワーリスは庭園で読書をしていた。

 そこへ――
 “偶然”を装った貴族が現れる。

「おや、
 ここにいらっしゃったとは」

「ええ。
 日当たりが良いので」

「実は、
 ちょうど話題になっている件がありまして……」

 来た。
 いつもの流れ。

 ファワーリスは、視線を本から離さずに言う。

「私は、
 その話題の当事者ではありません」

「ですが、
 お名前だけでも出していただければ……」

 彼女は、静かに本を閉じた。

「それは、
 私を責任の輪に
 無断で引き込む行為です」

 貴族は、言葉を失った。


---

「……そんなつもりは」

「ええ。
 皆さま、
 “そんなつもり”はありません」

 穏やかな声で続ける。

「ですが結果として、
 私を使おうとしている」

「使う、だなんて……」

「では、
 なぜ私なのですか?」

 問いは、
 あまりにも率直だった。

 答えられる者はいない。


---

 貴族は、
 気まずそうに退いた。

 マリエが、そっと囁く。

「角が立ちませんでしたか?」

「立っても構いません」

 即答だった。

「境界線を踏まれて、
 何も言わない方が問題です」


---

 夕方、
 公爵が娘に声をかけた。

「……それでも、
 人はお前を巻き込みたがる」

「ええ」

「嫌ではないのか?」

 一瞬、
 ファワーリスは考えた。

「嫌、というより……」

 そして、静かに答える。

「分かりやすいですわ」

「分かりやすい?」

「はい。
 自分で責任を負う覚悟がない人ほど、
 “巻き込み”を選びます」

 公爵は、
 苦笑しながら頷いた。


---

 夜。

 書斎で、
 ファワーリスは日記を開く。

『巻き込み』

 そう書いて、
 少しだけペンを止める。

 人は、
 自分の問題を
 誰かの問題にしたがる。

 だが、
 それを受け取らなければ、
 問題は自然と
 元の持ち主に戻っていく。


---

 ファワーリス・シグナスは、
 今日も何もしなかった。

 誰かの会合にも出ず、
 誰かの名義にもならず、
 誰かの盾にもならない。

 それでも、
 巻き込もうとする人々は現れる。

 だが彼女は知っている。

 巻き込まれない、という選択こそが、
 最も明確な拒否だということを。

 何もしない。
 それは、
 逃げではない。

 自分の人生を、
 他人の都合に
 差し出さないという、
 静かで確かな意思表示だった。
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