婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ

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第8話 王太子の婚約発表

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第8話 王太子の婚約発表

王宮の謁見の間。

高い天井に王家の紋章が掲げられ、赤い絨毯が中央をまっすぐに伸びている。

国王は玉座に座り、重々しい表情で前方を見下ろしていた。

その前に立つのは、王太子ディオン。

そしてその隣には、ヴァネッサ。

昨日の舞踏会からまだ一日も経っていないが、すでに王宮は動いていた。

ディオンは堂々とした声で言う。

「父上」

「正式に報告いたします」

国王は低く答えた。

「聞いている」

「舞踏会での騒ぎのことだろう」

その声には、わずかな苛立ちが混じっていた。

ディオンは構わず続ける。

「私はカリスタ・ヴァレリオンとの婚約を破棄しました」

「そして」

ヴァネッサの手を取る。

「ヴァネッサ・ヴァレリオンを新たな婚約者といたします」

謁見の間に並ぶ貴族たちがざわめく。

昨日の出来事はすでに広まっていたが、王宮で正式に宣言されるのはこれが初めてだ。

国王はしばらく黙っていた。

やがて低く言う。

「理由は」

ディオンは即答する。

「カリスタは義妹を毒殺しようとしました」

その言葉に、ざわめきが広がる。

国王の目が細くなる。

「証拠は」

ヴァネッサが一歩前に出た。

「陛下」

震える声だった。

「私は……お姉様を責めるつもりはありません」

涙を浮かべる。

「ですが……」

言葉を詰まらせる。

「食事の後、体調を崩して……」

その姿は、まさに被害者だった。

周囲の貴族たちは頷く。

「気の毒に」

「やはり噂は本当だったのか」

ディオンは胸を張る。

「このような女を王太子妃にするわけにはいきません」

「よって私は、彼女を追放しました」

国王はゆっくりと息を吐いた。

「……軽率だな」

その一言に、ディオンの眉が動く。

「父上?」

国王は言った。

「ヴァレリオン家は公爵家だ」

「それも、この国でもっとも力のある家の一つだ」

ディオンは笑う。

「それがどうしました」

「王家に逆らえるわけがありません」

ヴァネッサも言う。

「お姉様は昔から我儘でした」

「きっと反省します」

国王は二人を見た。

そしてゆっくりと目を閉じる。

「……そうか」

その時だった。

謁見の間の扉が開く。

一人の役人が慌てて入ってきた。

「陛下!」

息を切らしている。

国王は眉をひそめた。

「何事だ」

役人は膝をつく。

「財務局から緊急報告です!」

ディオンが苛立った。

「今は会議中だ」

だが国王は手を上げた。

「言え」

役人は震える声で言う。

「ヴァレリオン銀行が」

「王宮とのすべての契約を停止しました」

謁見の間が静まり返る。

ディオンが叫ぶ。

「だから何だ!」

役人は続けた。

「さらに」

「ヴァレリオン商会も」

「すべての貿易を停止しました」

貴族たちの顔色が変わる。

「貿易……?」

「まさか」

役人は言った。

「港の船が止まりました」

「軍需の支払いも止まっています」

ディオンの顔が引きつる。

「……嘘だ」

国王は静かに言った。

「理由は」

役人は書類を差し出した。

「こちらです」

国王が目を通す。

そしてゆっくり言った。

「……契約終了」

ディオンが叫ぶ。

「そんなこと出来るはずがない!」

役人は答える。

「出来ます」

「ヴァレリオン家ですから」

その言葉は重かった。

謁見の間の誰もが知っている。

ヴァレリオン家。

王国最大の銀行。

王国最大の商会。

そして。

王国最大の資産家。

ディオンは拳を握った。

「カリスタ……!」

ヴァネッサが慌てて言う。

「嫌がらせです!」

「すぐ止めさせましょう!」

だが国王はゆっくり首を振った。

「止めさせる?」

低い声だった。

「どうやってだ」

ディオンは言い返す。

「王命です!」

国王は静かに答えた。

「契約は契約だ」

「破棄されたものは戻らん」

そしてディオンを見た。

その視線は冷たかった。

「……お前は」

「何をしたのか」

ようやく理解し始めていた。

王太子の婚約破棄は。

ただの恋愛問題ではない。

王国そのものを揺るがす事件だったのだ。
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