婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ

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第13話 伯爵家の借金

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第13話 伯爵家の借金

ヴァレリオン銀行の馬車は、静かに伯爵邸の門をくぐった。

黒い車体。

銀の紋章。

ヴァレリオン家の家紋が、はっきりと刻まれている。

門番たちは何も言えなかった。

銀行の紋章。

それは王都で最も強い権威の一つだからだ。

馬車が玄関前で止まる。

扉が開く。

降りてきたのは二人。

黒い服の男と、書類箱を抱えた女性。

二人とも落ち着いた表情だった。

まるで。

ここで何が起きても驚かないかのように。

執事が迎える。

「どのようなご用件でしょうか」

男は丁寧に一礼した。

「ヴァレリオン銀行でございます」

「本日は正式な通知に参りました」

その声は穏やかだった。

だが冷たい。

執事はすぐに理解した。

これは。

良い話ではない。

「こちらへ」

応接室に案内される。

すぐにヴェルナー伯爵が現れた。

怒りを隠そうともせず。

「何の用だ」

男は微笑みもせず答える。

「正式な債務通知でございます」

伯爵の眉が動く。

「債務?」

女性が箱を机に置いた。

中から大量の書類を取り出す。

「伯爵家の借入金について」

「整理を行う必要がございます」

ヴェルナーは鼻で笑う。

「借金なら返している」

「何の問題もない」

男は淡々と答える。

「はい」

「今までは」

その言葉に、空気が変わる。

男は書類を一枚差し出した。

「本日をもって」

「すべての契約が終了いたしました」

「よって」

「残債の一括返済をお願いいたします」

ヴェルナーの顔が固まる。

「……一括?」

男は頷く。

女性が別の書類を広げた。

「現在の残債」

「金貨二十五万枚」

沈黙。

ヴェルナーは思わず言った。

「馬鹿な」

マルセルが声を上げる。

「そんな大金!」

男は冷静だった。

「長年の借入の累積でございます」

「屋敷改装」

「新農地開発」

「馬の購入」

「王都の別邸」

女性が補足する。

「さらに近年の事業投資」

「すべてヴァレリオン銀行の融資です」

ヴェルナーは汗をかき始めた。

確かに借りていた。

だが。

返済期限はまだ先だった。

「……期限は十年後のはずだ」

男は答える。

「契約終了の場合」

「即時返済条項が適用されます」

ヴェルナーは机を叩いた。

「そんな条項は聞いていない!」

女性が静かに言う。

「契約書にございます」

書類の一行を指差す。

ヴェルナーの手が震える。

確かに書いてある。

小さな文字。

だが。

間違いなく契約だ。

マルセルが叫ぶ。

「そんなの無効よ!」

男は首を振る。

「合法です」

「署名もございます」

ヴェルナーは唸る。

「払えるわけがない」

男は即答した。

「存じております」

その言葉が重く落ちた。

男は続ける。

「ですので」

「担保の差し押さえを行います」

ヴェルナーが顔を上げる。

「担保……」

女性が書類をめくる。

「伯爵領の農地」

「王都別邸」

「倉庫」

「港の権利」

「すべて担保設定済みです」

ヴェルナーの血の気が引いた。

それは。

伯爵家の資産のほとんどだった。

マルセルが椅子から立ち上がる。

「待ちなさい!」

「こんなの横暴よ!」

男は冷たい目で見た。

「契約です」

その言葉は何度も繰り返された。

契約。

それだけ。

ヴェルナーは歯を食いしばる。

「王太子殿下に訴える」

男は少しだけ笑った。

初めての表情だった。

「どうぞ」

そして言った。

「ですが」

「王家も当銀行の顧客でございます」

沈黙。

その意味は明白だった。

ヴァレリオン銀行は。

王家にも金を貸している。

マルセルが小さく呟く。

「そんな……」

その時。

応接室の扉が静かに開いた。

全員が振り向く。

そこに立っていたのは。

カリスタだった。

落ち着いた表情。

いつもと同じドレス。

そして静かな声で言った。

「お話は終わりまして?」

銀行員たちはすぐに立ち上がる。

深く頭を下げた。

「お嬢様」

ヴェルナーが叫ぶ。

「カリスタ!」

カリスタは微笑む。

だがその目は冷たい。

「契約通りです」

それだけだった。

だが。

伯爵家にとっては。

宣告だった。
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