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第14話 契約の娘
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第14話 契約の娘
応接室の空気が凍りつく。
銀行員たちは深く頭を下げたまま動かない。
ヴェルナー伯爵はカリスタを睨みつけていた。
「……お前か」
低い声。
怒りを押し殺した声だった。
カリスタは静かに微笑む。
「何のことでしょう」
ヴェルナーは机を叩いた。
「とぼけるな!」
「銀行を動かしたのはお前だろう!」
マルセルも声を荒げる。
「こんなことをしてただで済むと思っているの!?」
カリスタは紅茶のカップを見つめる。
床に割れたままのカップ。
広がった紅茶。
少しだけ首を傾げた。
「もったいないですね」
ヴェルナーが怒鳴る。
「カリスタ!」
カリスタはようやく視線を向けた。
「はい」
その態度が余計に腹立たしい。
ヴェルナーは言う。
「銀行を止めろ」
カリスタは答える。
「無理です」
即答だった。
マルセルが叫ぶ。
「何ですって!?」
カリスタは淡々と説明する。
「銀行は契約で動きます」
「感情では動きません」
銀行員が静かに頷いた。
まさにその通りだった。
ヴェルナーは歯ぎしりする。
「なら契約を戻せ!」
カリスタは首を振る。
「契約は終了しました」
「昨日」
沈黙。
誰もが分かっている。
舞踏会。
婚約破棄。
そして。
カリスタが言った言葉。
――契約を終了いたします
ヴァネッサの顔が青くなる。
「……あれは」
「冗談じゃなかったの」
カリスタは少しだけ笑う。
「冗談を言う場ではありませんでした」
マルセルが机を叩く。
「家族でしょう!」
「こんなこと普通しないわ!」
カリスタは静かに言う。
「家族?」
マルセルは言い返す。
「そうよ!」
「あなたはこの家で育ったのよ!」
カリスタは首を傾げた。
「それは違います」
その声は穏やかだった。
だが。
冷たい。
「私は」
「ヴァレリオン公爵家の娘です」
静寂。
ヴェルナーが低く言う。
「……伯爵家の養女だ」
カリスタは頷いた。
「契約養女です」
マルセルが眉をひそめる。
「契約?」
カリスタは銀行員に視線を向けた。
女性職員が書類を一枚差し出す。
「養子契約書」
机の上に広げられる。
ヴェルナーの手が震えた。
そこには確かに書いてある。
契約養子
そして。
契約解除条項
マルセルが呟く。
「こんなの……」
カリスタは続ける。
「伯爵家は」
「ヴァレリオン公爵家の資金援助を受ける代わりに」
「私を養女として迎えました」
ヴェルナーが黙る。
それは事実だった。
十年前。
伯爵家は財政危機だった。
その時。
ヴァレリオン公爵家が助けた。
条件は。
娘を養女として預けること。
そして。
婚約。
王太子との婚約。
マルセルが言う。
「それでも!」
「家族よ!」
カリスタは首を振った。
「いいえ」
静かな声。
「契約です」
それだけだった。
ヴァネッサが震える。
「じゃあ……」
「私たちは」
カリスタは答える。
「取引相手です」
その言葉は刃のようだった。
ヴェルナーは怒りに震える。
「王太子殿下が黙っていると思うか!」
カリスタは落ち着いていた。
「存じております」
「ですので」
少し微笑む。
「次は王宮ですね」
ヴェルナーは顔を上げた。
「……何だと」
カリスタは銀行員に言う。
「書類を」
女性職員が箱を開ける。
新しい書類。
厚い束。
カリスタはそれを机に置いた。
「これは」
「王家の借入一覧です」
沈黙。
ヴェルナーの目が見開かれる。
「……王家?」
カリスタは頷く。
「はい」
そして。
静かに言った。
「王太子殿下は」
「自分が誰に喧嘩を売ったのか」
「まだご存じありません」
応接室の空気が。
ゆっくりと冷えていった。
応接室の空気が凍りつく。
銀行員たちは深く頭を下げたまま動かない。
ヴェルナー伯爵はカリスタを睨みつけていた。
「……お前か」
低い声。
怒りを押し殺した声だった。
カリスタは静かに微笑む。
「何のことでしょう」
ヴェルナーは机を叩いた。
「とぼけるな!」
「銀行を動かしたのはお前だろう!」
マルセルも声を荒げる。
「こんなことをしてただで済むと思っているの!?」
カリスタは紅茶のカップを見つめる。
床に割れたままのカップ。
広がった紅茶。
少しだけ首を傾げた。
「もったいないですね」
ヴェルナーが怒鳴る。
「カリスタ!」
カリスタはようやく視線を向けた。
「はい」
その態度が余計に腹立たしい。
ヴェルナーは言う。
「銀行を止めろ」
カリスタは答える。
「無理です」
即答だった。
マルセルが叫ぶ。
「何ですって!?」
カリスタは淡々と説明する。
「銀行は契約で動きます」
「感情では動きません」
銀行員が静かに頷いた。
まさにその通りだった。
ヴェルナーは歯ぎしりする。
「なら契約を戻せ!」
カリスタは首を振る。
「契約は終了しました」
「昨日」
沈黙。
誰もが分かっている。
舞踏会。
婚約破棄。
そして。
カリスタが言った言葉。
――契約を終了いたします
ヴァネッサの顔が青くなる。
「……あれは」
「冗談じゃなかったの」
カリスタは少しだけ笑う。
「冗談を言う場ではありませんでした」
マルセルが机を叩く。
「家族でしょう!」
「こんなこと普通しないわ!」
カリスタは静かに言う。
「家族?」
マルセルは言い返す。
「そうよ!」
「あなたはこの家で育ったのよ!」
カリスタは首を傾げた。
「それは違います」
その声は穏やかだった。
だが。
冷たい。
「私は」
「ヴァレリオン公爵家の娘です」
静寂。
ヴェルナーが低く言う。
「……伯爵家の養女だ」
カリスタは頷いた。
「契約養女です」
マルセルが眉をひそめる。
「契約?」
カリスタは銀行員に視線を向けた。
女性職員が書類を一枚差し出す。
「養子契約書」
机の上に広げられる。
ヴェルナーの手が震えた。
そこには確かに書いてある。
契約養子
そして。
契約解除条項
マルセルが呟く。
「こんなの……」
カリスタは続ける。
「伯爵家は」
「ヴァレリオン公爵家の資金援助を受ける代わりに」
「私を養女として迎えました」
ヴェルナーが黙る。
それは事実だった。
十年前。
伯爵家は財政危機だった。
その時。
ヴァレリオン公爵家が助けた。
条件は。
娘を養女として預けること。
そして。
婚約。
王太子との婚約。
マルセルが言う。
「それでも!」
「家族よ!」
カリスタは首を振った。
「いいえ」
静かな声。
「契約です」
それだけだった。
ヴァネッサが震える。
「じゃあ……」
「私たちは」
カリスタは答える。
「取引相手です」
その言葉は刃のようだった。
ヴェルナーは怒りに震える。
「王太子殿下が黙っていると思うか!」
カリスタは落ち着いていた。
「存じております」
「ですので」
少し微笑む。
「次は王宮ですね」
ヴェルナーは顔を上げた。
「……何だと」
カリスタは銀行員に言う。
「書類を」
女性職員が箱を開ける。
新しい書類。
厚い束。
カリスタはそれを机に置いた。
「これは」
「王家の借入一覧です」
沈黙。
ヴェルナーの目が見開かれる。
「……王家?」
カリスタは頷く。
「はい」
そして。
静かに言った。
「王太子殿下は」
「自分が誰に喧嘩を売ったのか」
「まだご存じありません」
応接室の空気が。
ゆっくりと冷えていった。
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