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第七話 依存の構造
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第七話 依存の構造
「恐れは一時的ですわ」
わたくしは静かに言う。
「恐怖だけでは、人は逃げ道を探します」
執事が頷く。
「では、次は」
「依存ですわ」
――――
市場報の発行から一月。
王都の商人たちは、すでに朝一番に“市場報”を確認する習慣を身につけていた。
原料価格。
保証率。
信用格付け。
わたくしが監修する紙一枚が、その日の取引を決める。
だがそれは、まだ“情報”の支配。
わたくしが目指すのは、その先。
「お嬢様、“商業調整基金”の設立案でございます」
執事が書類を差し出す。
「ええ」
基金。
名目は“王都産業安定化支援”。
実態は――
わたくしの管理下で運用される資金プール。
景気が不安定なとき、
市場が冷え込んだとき、
“救済”として融資や補助を出す。
条件はただ一つ。
「基金参加契約への署名」
その契約書には、こう記されている。
・価格決定会議への参加義務
・市場報データの共有
・保証審査の共同化
・緊急時の生産調整協力
共同。
協力。
美しい言葉。
だが実質は――
指揮命令系統の一本化。
――――
商業ギルド会議。
幹部たちは疲れた顔で集まっている。
「このままでは、取引先が流出する」
「市場報の影響が大きすぎる」
「保証率が重い」
そこへ届く、正式提案。
“商業調整基金への参加案内”。
ギルド長は低く言う。
「参加しなければ」
「信用格付けは据え置きのまま」
「参加すれば?」
「格付け改善、保証率軽減」
沈黙。
「……選択肢がない」
――――
屋敷。
参加署名が次々に届く。
「染色ギルド、参加」
「紡績ギルド、参加」
「香料組合、参加」
執事が報告する。
「これで王都主要産業の七割が基金参加」
「七割」
わたくしは紅茶を置く。
「市場は七割で動きますわ」
――――
参加したギルドには、すぐに“恩恵”が与えられる。
信用格付け引き上げ。
保証率引き下げ。
市場報での“安定企業”表示。
商人は安堵する。
「参加してよかった」
「取引が戻った」
安堵は、甘い。
一度その味を覚えれば――
抜けられない。
――――
王太子側の商会。
彼らも基金参加を打診される。
だが王太子は拒否する。
「我が名で立ち上げた商会だ。従属するつもりはない」
結果。
信用格付け、据え置き。
保証率、重い。
市場報。
「王太子系商会、取引慎重姿勢続く」
商人は動かない。
「殿下の商会と組むのは不安だ」
「保証が高い」
「格付けが」
商売は信用。
信用は数字。
数字は、わたくしが動かす。
――――
王城。
王太子が苛立つ。
「なぜだ!我が名があれば信用は十分のはず!」
側近が低く答える。
「市場は……殿下の名ではなく、格付けで動いております」
「誰が格付けを決めている」
沈黙。
「……あの女でございます」
王太子の拳が震える。
――――
屋敷。
執事が報告する。
「王太子商会、主要取引二件破談」
「当然ですわ」
わたくしは静かに言う。
「恐れは逃げ道を探す」
一拍。
「依存は逃げ道を閉ざす」
基金に参加したギルドは、もはや抜けられない。
抜ければ、格付けが落ちる。
保証率が上がる。
市場報に“不安定”と書かれる。
「依存の完成でございます」
執事が言う。
「いいえ」
わたくしは首を振る。
「まだですわ」
「まだ?」
「王都のすべてが基金に参加するまで」
――――
数日後。
ついに商業ギルド本体が、正式に基金参加を申し出る。
ギルド長は低く言う。
「安定のためだ」
わたくしは微笑む。
「ええ、安定のため」
契約書に署名がされる。
王都最大ギルドが、基金の一員となった。
――――
夜。
窓から王都を見下ろす。
灯りは変わらない。
だが流れは変わった。
基金参加なしに、大口契約は難しい。
格付けなしに、保証は通らない。
市場報なしに、取引は成立しない。
「これで王都の八割が依存」
執事が言う。
「八割では足りませんわ」
「では」
「十割」
わたくしは静かに微笑む。
「新事業を起こすなら、最初に挨拶に来る」
一拍。
「そういう街にするのです」
婚約破棄された令嬢。
だが今や、
王都の呼吸を調整する者。
王太子はまだ抵抗している。
だが時間の問題。
依存は、静かに広がる。
そして王都は気づく。
自由に商売をする時代は、
終わったのだと。
「恐れは一時的ですわ」
わたくしは静かに言う。
「恐怖だけでは、人は逃げ道を探します」
執事が頷く。
「では、次は」
「依存ですわ」
――――
市場報の発行から一月。
王都の商人たちは、すでに朝一番に“市場報”を確認する習慣を身につけていた。
原料価格。
保証率。
信用格付け。
わたくしが監修する紙一枚が、その日の取引を決める。
だがそれは、まだ“情報”の支配。
わたくしが目指すのは、その先。
「お嬢様、“商業調整基金”の設立案でございます」
執事が書類を差し出す。
「ええ」
基金。
名目は“王都産業安定化支援”。
実態は――
わたくしの管理下で運用される資金プール。
景気が不安定なとき、
市場が冷え込んだとき、
“救済”として融資や補助を出す。
条件はただ一つ。
「基金参加契約への署名」
その契約書には、こう記されている。
・価格決定会議への参加義務
・市場報データの共有
・保証審査の共同化
・緊急時の生産調整協力
共同。
協力。
美しい言葉。
だが実質は――
指揮命令系統の一本化。
――――
商業ギルド会議。
幹部たちは疲れた顔で集まっている。
「このままでは、取引先が流出する」
「市場報の影響が大きすぎる」
「保証率が重い」
そこへ届く、正式提案。
“商業調整基金への参加案内”。
ギルド長は低く言う。
「参加しなければ」
「信用格付けは据え置きのまま」
「参加すれば?」
「格付け改善、保証率軽減」
沈黙。
「……選択肢がない」
――――
屋敷。
参加署名が次々に届く。
「染色ギルド、参加」
「紡績ギルド、参加」
「香料組合、参加」
執事が報告する。
「これで王都主要産業の七割が基金参加」
「七割」
わたくしは紅茶を置く。
「市場は七割で動きますわ」
――――
参加したギルドには、すぐに“恩恵”が与えられる。
信用格付け引き上げ。
保証率引き下げ。
市場報での“安定企業”表示。
商人は安堵する。
「参加してよかった」
「取引が戻った」
安堵は、甘い。
一度その味を覚えれば――
抜けられない。
――――
王太子側の商会。
彼らも基金参加を打診される。
だが王太子は拒否する。
「我が名で立ち上げた商会だ。従属するつもりはない」
結果。
信用格付け、据え置き。
保証率、重い。
市場報。
「王太子系商会、取引慎重姿勢続く」
商人は動かない。
「殿下の商会と組むのは不安だ」
「保証が高い」
「格付けが」
商売は信用。
信用は数字。
数字は、わたくしが動かす。
――――
王城。
王太子が苛立つ。
「なぜだ!我が名があれば信用は十分のはず!」
側近が低く答える。
「市場は……殿下の名ではなく、格付けで動いております」
「誰が格付けを決めている」
沈黙。
「……あの女でございます」
王太子の拳が震える。
――――
屋敷。
執事が報告する。
「王太子商会、主要取引二件破談」
「当然ですわ」
わたくしは静かに言う。
「恐れは逃げ道を探す」
一拍。
「依存は逃げ道を閉ざす」
基金に参加したギルドは、もはや抜けられない。
抜ければ、格付けが落ちる。
保証率が上がる。
市場報に“不安定”と書かれる。
「依存の完成でございます」
執事が言う。
「いいえ」
わたくしは首を振る。
「まだですわ」
「まだ?」
「王都のすべてが基金に参加するまで」
――――
数日後。
ついに商業ギルド本体が、正式に基金参加を申し出る。
ギルド長は低く言う。
「安定のためだ」
わたくしは微笑む。
「ええ、安定のため」
契約書に署名がされる。
王都最大ギルドが、基金の一員となった。
――――
夜。
窓から王都を見下ろす。
灯りは変わらない。
だが流れは変わった。
基金参加なしに、大口契約は難しい。
格付けなしに、保証は通らない。
市場報なしに、取引は成立しない。
「これで王都の八割が依存」
執事が言う。
「八割では足りませんわ」
「では」
「十割」
わたくしは静かに微笑む。
「新事業を起こすなら、最初に挨拶に来る」
一拍。
「そういう街にするのです」
婚約破棄された令嬢。
だが今や、
王都の呼吸を調整する者。
王太子はまだ抵抗している。
だが時間の問題。
依存は、静かに広がる。
そして王都は気づく。
自由に商売をする時代は、
終わったのだと。
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