婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

文字の大きさ
8 / 39

第八話 許可という名の檻

しおりを挟む
第八話 許可という名の檻

「お嬢様、新規商会設立の届け出が増えております」

執事の報告に、わたくしは静かに目を細めた。

「増えている?」

「はい。基金参加後、市場が安定したと見て、新規参入を試みる者が」

「当然ですわね。安定は呼び水になりますもの」

安定した市場は、挑戦者を呼び込む。

だが。

「……安定は、わたくしの管理下でのみ有効ですわ」

――――

王都では、商会を立ち上げる際、ギルド登録が必要。

かつてはギルドが独占していたその登録権限。

だが今は違う。

基金参加規約の条文の中に、こうある。

“王都市場安定のため、一定規模以上の新規商業活動は基金審査を経るものとする”

審査。

美しい言葉。

だが実態は――

許可制。

――――

応接室。

若い貴族令嬢が、緊張した面持ちで座っている。

「このたび、香水商会を立ち上げたく……」

名門家の紋章が胸元に輝いている。

「素晴らしい志ですわ」

わたくしは穏やかに微笑む。

「原料の確保は?」

「東方の商人と直接契約を」

「保証は?」

「……これから申請を」

執事が静かに書類をめくる。

「市場報によれば、現在香料価格は上昇傾向。保証率も高めでございます」

令嬢の顔色が変わる。

「ですが、私の家は公爵家の……」

「爵位は保証を軽くしませんわ」

わたくしは柔らかく言う。

「市場は数字で動きます」

沈黙。

「基金参加をご検討なさっては?」

令嬢の手が震える。

「参加すれば……」

「信用格付け優遇、保証率軽減、原料調達支援」

一拍。

「ただし」

「……ただし?」

「市場安定協定への同意。価格調整会議への参加義務」

令嬢は理解する。

自由ではない。

「それは……実質的に」

「共同運営ですわ」

わたくしは微笑む。

「王都のために」

数秒の沈黙。

「……参加いたします」

署名がなされる。

また一つ、檻が閉じる。

――――

数日後。

基金参加拒否の商人が現れる。

中堅商会主。

「俺は従わん」

「保証は?」

「自前でなんとかする」

結果。

保証組合は審査を厳格化。

銀行は信用評価を慎重姿勢へ。

市場報にはこう載る。

“新規商会、保証体制不透明”

数日で、主要取引が消える。

一週間で資金が詰まる。

二週間で、彼は基金参加を申し出る。

――――

屋敷。

執事が報告する。

「拒否者、三名とも参加」

「当然ですわ」

「新規設立は、すべて事前にお嬢様へ挨拶が来ております」

わたくしは窓辺へ歩く。

王都の灯りが整然と並んでいる。

「挨拶」

わたくしは静かに呟く。

「許可を求める儀式ですわ」

――――

王太子側の商会。

新事業案を立ち上げる。

宝飾品事業。

王家の威光を利用しようとする。

だが。

原石の調達。

保証の取得。

物流契約。

すべてで“審査待ち”。

市場報。

“王太子商会、新規事業準備難航”

王太子は怒りを露わにする。

「妨害だ!」

側近は低く答える。

「公式な妨害はございません。審査基準に則った結果でございます」

「誰が基準を作った」

沈黙。

――――

屋敷。

「王太子殿下、面会を求めております」

「お断りいたしますわ」

「理由は?」

わたくしは穏やかに言う。

「あら、私、そんなもの望んでおりませんわ」

執事が一瞬だけ目を伏せる。

「一度決めたことを簡単に撤回しようとなさるとは、失礼ながら殿下を信用するわけには、いかなくなりました」

王太子が何を求めているのか。

和解。

基金参加。

特例審査。

だが。

「望み?殿下の婚約者でなくなることです。なのでもうかなってます」

わたくしは淡々と言う。

――――

数日後。

王太子商会の宝飾事業、正式に延期。

原石の調達が遅延。

保証審査、再審査。

物流契約、未確定。

王都の商人たちは理解する。

王家の名でさえ、通らない。

基金の外では、動けない。

――――

夜。

王都を見下ろす。

「お嬢様」

執事が言う。

「現在、新規商会設立の九割が事前に挨拶へ参っております」

「九割」

「残る一割は地方商人」

「時間の問題ですわ」

わたくしは静かに微笑む。

「王都で商売をするなら、まず挨拶」

一拍。

「それが常識になります」

恐怖は薄れ、依存は深まり、
そして今、制度となる。

許可。

許可なくして商売なし。

婚約破棄された令嬢。

だが今や、

王都の許可を出す者。

王太子でさえ、
わたくしを通さねば事業を始められない。

王都は気づいている。

王城に王はいる。

だが市場の王は、別にいることを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語

つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。 物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか? 王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか? これは、めでたしめでたしのその後のお話です。 番外編がスタートしました。 意外な人物が出てきます!

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓
恋愛
 子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。  激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。  婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。  婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。  翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

処理中です...