婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

文字の大きさ
9 / 39

第九話 王の名より重いもの

しおりを挟む
第九話 王の名より重いもの

「王太子殿下が、再度、公式に商会設立許可を申請なさいました」

執事の声は静かだったが、その奥にはわずかな含みがあった。

「宝飾部門を分離し、王室直轄事業として登録するとのこと」

わたくしはゆっくりと紅茶を口に運ぶ。

「王室直轄……ですか」

一拍。

「焦っていらっしゃるのね」

王家の名を前面に出せば、
誰も拒めないと考えたのだろう。

だが。

「基金規約第七条」

わたくしは淡々と言う。

「王都で一定規模以上の商業活動を行う場合、
信用評価および保証審査を経ること」

「王家であっても」

「王家であっても」

執事は静かに頷く。

――――

王城・会議室。

王太子は声を荒げる。

「王家の名が通らぬなど、前例がない!」

商務官が慎重に答える。

「基金参加企業との取引を前提とする場合、
信用評価が基準になります」

「王家の信用では足りぬというのか」

沈黙。

王家の威光は、政治においては重い。

だが商売は違う。

商人が見るのは――

利益と保証。

そして格付け。

「現在、殿下の商会は基金未参加のため、
保証率が高く設定されております」

「参加すればよいのだろう!」

その言葉に、室内が凍る。

参加。

つまり――

あの女の管理下に入ること。

王太子の拳が震える。

――――

屋敷。

「殿下側近より非公式打診。
基金参加条件の緩和を求めております」

執事が報告する。

「緩和?」

「王家特例を」

わたくしは微笑む。

「特例はございませんわ」

「そのように返答いたします」

「ええ」

一拍。

「わたくしは対等な関係を望んでおりません」

執事はわずかに目を伏せる。

「存じております」

――――

数日後。

王太子自らが面会を求める。

今回は断らない。

応接室。

王太子は以前より痩せて見える。

「……随分とやってくれるな」

「何のことでしょう」

「我が商会が立ち上がらぬ」

「審査が未了と聞いております」

「審査基準を決めているのは貴様だろう」

わたくしは静かに首を傾げる。

「市場が決めておりますわ」

沈黙。

王太子は低く言う。

「条件を言え」

「条件?」

「参加すればよいのだろう」

「基金は自由参加です」

「……特例は」

「ございません」

視線が交差する。

王太子は理解している。

参加すれば――

格付け改善。
保証軽減。
原料供給安定。

だが同時に。

価格決定会議への参加義務。
生産調整協定への署名。

実質的な従属。

「王家が、貴様の下に入れというのか」

「王家ではございません」

わたくしは穏やかに言う。

「商会が、です」

一拍。

「王家は政治をなさるのでしょう?」

沈黙。

王太子の瞳に怒りと屈辱が混じる。

「……いずれ後悔するぞ」

「かもしれませんわ」

わたくしは微笑む。

「ですが今、後悔なさっているのはどなたかしら」

王太子は言葉を失う。

――――

数日後。

王太子商会、正式に基金参加。

王城からの公式発表。

“王都市場安定のため、王室も協力”

市場報。

“王太子商会、格付け改善”

商人たちは動く。

「これで安心だ」

「保証が軽くなった」

「取引再開」

王家の名よりも、

格付け改善の方が響く。

――――

屋敷。

執事が報告する。

「これにより、王都主要産業の九割五分が基金参加」

「残りは?」

「小規模零細商人のみ」

「時間の問題ですわ」

わたくしは窓辺に立つ。

王城の塔が遠くに見える。

「王太子でさえ、基金に参加」

一拍。

「これで確定です」

「何が、でございますか」

「王都で商売を始めるなら」

わたくしは静かに言う。

「まず挨拶に来るしかない」

王家でさえ。

名門貴族でさえ。

基金の外では、動けない。

王の名は重い。

だが。

市場の信用は、もっと重い。

婚約破棄された令嬢。

今や。

王太子が事業を立ち上げるにも、

わたくしを通さねばならない。

王都は理解した。

王は王城にいる。

だが経済の王は、
別の場所に座っていることを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語

つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。 物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか? 王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか? これは、めでたしめでたしのその後のお話です。 番外編がスタートしました。 意外な人物が出てきます!

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓
恋愛
 子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。  激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。  婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。  婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。  翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

処理中です...