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第十話 王都の王
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第十話 王都の王
「お嬢様、最後の未参加組合が正式に基金参加を申請いたしました」
執事の報告は、まるで天気の話のように淡々としていた。
「最後?」
「はい。水運組合。これで王都の主要産業はすべて基金参加となります」
わたくしは静かに紅茶を置く。
「そう」
一拍。
「ようやく、形が整いましたわね」
――――
王都の地図が机上に広げられている。
港湾。
市場。
工房地区。
商館街。
すべてに、細い線が引かれている。
原料は銀行を通り、
保証は基金を通り、
情報は市場報を通り、
そして許可は――
わたくしを通る。
執事が低く言う。
「王都の流通量の九割八分が、基金関連企業によるものでございます」
「二分は?」
「零細個人商人。影響は限定的」
「放置で構いませんわ」
零細は象徴であって脅威ではない。
脅威になるのは――
独立した大資本。
それは、もう存在しない。
――――
王城。
王太子は報告を受ける。
「水運組合まで……」
側近がうなずく。
「港湾使用契約の更新が基金基準に連動しております」
「つまり、港もあの女の意向次第か」
沈黙。
「王家の徴税権はどうだ」
「徴税も、基金参加企業が大半でございます。
税収安定のため、王室財務局も基金との協調姿勢を表明しております」
王太子は椅子に深く沈む。
王家は統治者。
だが。
統治は金で回る。
金は市場で回る。
市場は――
あの女が握っている。
――――
屋敷。
「王室財務局より、共同税収安定協定の提案が届いております」
執事が報告する。
「王室も基金を正式に認めると」
「当然ですわ」
わたくしは穏やかに言う。
「税収が安定すれば、誰も文句は申しませんもの」
協定の内容は単純。
・税収予測データの共有
・大型公共事業の資材優先供給
・緊急時の基金支援
名目は協力。
実態は。
国家財政の一部が、基金依存となる。
――――
応接室。
名門侯爵が頭を下げる。
「新規鉱山事業を立ち上げたく……」
「素晴らしいですわ」
「基金参加は当然として、初期融資のご相談を」
侯爵家。
かつては王家に次ぐ勢力。
今は。
許可を求めている。
わたくしは微笑む。
「条件は同じでございます」
侯爵は迷わず署名する。
もう誰も、抵抗しない。
――――
夜。
王都を見下ろす。
灯りは整然と並び、揺らぎがない。
市場は安定している。
物価は急変しない。
保証は迅速。
信用は明確。
商人は安心して商売をする。
だが。
その安心は――
わたくしが許しているから。
「お嬢様」
執事が静かに問う。
「これで、王都の全産業が管理下に入りました」
「管理下?」
わたくしは首を傾げる。
「協調体制ですわ」
一拍。
「皆さまが望んだ安定の結果」
執事はわずかに微笑む。
「では、次は」
「何もいたしません」
「何も?」
「支配は、動かないときが最も強いのです」
無理に締めれば反発が生まれる。
だが今。
王都は自ら従っている。
――――
数日後。
王城での舞踏会。
貴族たちが集う。
かつて、婚約破棄が行われた場。
今。
名門貴族たちが次々とわたくしに挨拶に来る。
「新規事業を……」
「基金参加を前提に……」
「保証条件の確認を……」
王太子は遠くからそれを見る。
近づいてくる。
「……随分とご盛況だな」
「市場が安定しておりますもの」
「王都の王にでもなったつもりか」
わたくしは静かに答える。
「王は殿下でございましょう」
一拍。
「わたくしはただ、市場の調整を」
王太子は低く言う。
「違うな」
視線が交差する。
「誰もお前に逆らえぬ」
わたくしは微笑む。
「逆らう必要がございませんもの」
舞踏会の音楽が流れる。
貴族たちの視線は王太子ではなく、わたくしへ。
王家の名は重い。
だが。
商売は王家の名では回らない。
王都で事業を始めるなら。
まず、わたくしに挨拶。
それが常識となった。
婚約破棄された令嬢。
今や。
王太子でさえ、商会を立ち上げるにあたり。
わたくしの許可を必要とする。
王都は静かに理解している。
王城に王はいる。
だが。
経済の王は、
この場に立っているのだと。
「お嬢様、最後の未参加組合が正式に基金参加を申請いたしました」
執事の報告は、まるで天気の話のように淡々としていた。
「最後?」
「はい。水運組合。これで王都の主要産業はすべて基金参加となります」
わたくしは静かに紅茶を置く。
「そう」
一拍。
「ようやく、形が整いましたわね」
――――
王都の地図が机上に広げられている。
港湾。
市場。
工房地区。
商館街。
すべてに、細い線が引かれている。
原料は銀行を通り、
保証は基金を通り、
情報は市場報を通り、
そして許可は――
わたくしを通る。
執事が低く言う。
「王都の流通量の九割八分が、基金関連企業によるものでございます」
「二分は?」
「零細個人商人。影響は限定的」
「放置で構いませんわ」
零細は象徴であって脅威ではない。
脅威になるのは――
独立した大資本。
それは、もう存在しない。
――――
王城。
王太子は報告を受ける。
「水運組合まで……」
側近がうなずく。
「港湾使用契約の更新が基金基準に連動しております」
「つまり、港もあの女の意向次第か」
沈黙。
「王家の徴税権はどうだ」
「徴税も、基金参加企業が大半でございます。
税収安定のため、王室財務局も基金との協調姿勢を表明しております」
王太子は椅子に深く沈む。
王家は統治者。
だが。
統治は金で回る。
金は市場で回る。
市場は――
あの女が握っている。
――――
屋敷。
「王室財務局より、共同税収安定協定の提案が届いております」
執事が報告する。
「王室も基金を正式に認めると」
「当然ですわ」
わたくしは穏やかに言う。
「税収が安定すれば、誰も文句は申しませんもの」
協定の内容は単純。
・税収予測データの共有
・大型公共事業の資材優先供給
・緊急時の基金支援
名目は協力。
実態は。
国家財政の一部が、基金依存となる。
――――
応接室。
名門侯爵が頭を下げる。
「新規鉱山事業を立ち上げたく……」
「素晴らしいですわ」
「基金参加は当然として、初期融資のご相談を」
侯爵家。
かつては王家に次ぐ勢力。
今は。
許可を求めている。
わたくしは微笑む。
「条件は同じでございます」
侯爵は迷わず署名する。
もう誰も、抵抗しない。
――――
夜。
王都を見下ろす。
灯りは整然と並び、揺らぎがない。
市場は安定している。
物価は急変しない。
保証は迅速。
信用は明確。
商人は安心して商売をする。
だが。
その安心は――
わたくしが許しているから。
「お嬢様」
執事が静かに問う。
「これで、王都の全産業が管理下に入りました」
「管理下?」
わたくしは首を傾げる。
「協調体制ですわ」
一拍。
「皆さまが望んだ安定の結果」
執事はわずかに微笑む。
「では、次は」
「何もいたしません」
「何も?」
「支配は、動かないときが最も強いのです」
無理に締めれば反発が生まれる。
だが今。
王都は自ら従っている。
――――
数日後。
王城での舞踏会。
貴族たちが集う。
かつて、婚約破棄が行われた場。
今。
名門貴族たちが次々とわたくしに挨拶に来る。
「新規事業を……」
「基金参加を前提に……」
「保証条件の確認を……」
王太子は遠くからそれを見る。
近づいてくる。
「……随分とご盛況だな」
「市場が安定しておりますもの」
「王都の王にでもなったつもりか」
わたくしは静かに答える。
「王は殿下でございましょう」
一拍。
「わたくしはただ、市場の調整を」
王太子は低く言う。
「違うな」
視線が交差する。
「誰もお前に逆らえぬ」
わたくしは微笑む。
「逆らう必要がございませんもの」
舞踏会の音楽が流れる。
貴族たちの視線は王太子ではなく、わたくしへ。
王家の名は重い。
だが。
商売は王家の名では回らない。
王都で事業を始めるなら。
まず、わたくしに挨拶。
それが常識となった。
婚約破棄された令嬢。
今や。
王太子でさえ、商会を立ち上げるにあたり。
わたくしの許可を必要とする。
王都は静かに理解している。
王城に王はいる。
だが。
経済の王は、
この場に立っているのだと。
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