婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第十一話 王権の影

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第十一話 王権の影

舞踏会の翌朝。

王都はいつもと変わらぬ顔をしていた。

市場は開き、
工房は槌音を響かせ、
商館は帳簿をめくる。

だが、水面下では確実に一つの変化が広がっていた。

「お嬢様、王城より正式書簡が届いております」

執事が銀盆に載せて差し出す。

王家の紋章入り。

わたくしは封を切らずに問う。

「内容は予測できますわね?」

「おそらく、基金の権限整理に関するものかと」

王太子は、昨日の舞踏会で理解したはず。

視線の向き。

人の流れ。

誰に挨拶が集中していたか。

「開けてちょうだい」

執事が静かに封を切る。

「……王都経済秩序維持のため、基金制度の王室監督下への再編を検討する、と」

わたくしは小さく笑った。

「監督、ですって?」

一拍。

「ようやく“危機”を感じたのですわね」

――――

王城。

王太子は父王と対峙している。

「このままでは、王家が形式だけになる」

老王は静かに答える。

「税収は安定しておる」

「だが、経済の決定権があの女にある」

「商人が望んだ結果だ」

「望ませたのだ!」

沈黙。

老王は深く息を吐く。

「……力を持つ者は常に現れる。
それをどう扱うかが統治だ」

王太子は拳を握る。

「監督下に置く」

「できるか?」

問いは重い。

基金に参加しているのは、王都のほぼ全産業。

それを強制的に再編すれば――

市場が揺れる。

税収が落ちる。

商人が反発する。

王家は政治を司る。

だが。

市場は感情で動く。

――――

屋敷。

「王室監督案に対する対応は?」

執事が問う。

「拒否いたしません」

「承諾なさると?」

「いいえ」

わたくしは微笑む。

「歓迎いたします」

執事の眉がわずかに動く。

「歓迎?」

「監督とは、責任を持つということ」

一拍。

「責任は重い」

――――

数日後。

王城での公式会議。

王太子、財務官、商務官。

そして、わたくし。

「基金は王都経済の根幹だ」

王太子が言う。

「ゆえに王室監督下に置く」

わたくしは穏やかに答える。

「素晴らしいご提案ですわ」

一瞬、室内がざわめく。

「ただし」

わたくしは続ける。

「監督には、財務責任が伴います」

財務官が眉をひそめる。

「責任?」

「基金が市場安定のために行っている保証補填、緊急融資、価格調整費用」

書類を差し出す。

「これらを王室が正式に引き受ける場合、年間予算は現在の三倍になります」

沈黙。

「さらに、格付け基準変更の際には、信用毀損による市場損失補償も」

財務官が低く言う。

「それは……国庫が持たぬ」

「監督とは、責任を持つこと」

わたくしは静かに微笑む。

「わたくしはその責任を負っております」

王太子の表情が固まる。

「脅しだな」

「事実でございます」

一拍。

「監督なさるなら、責任も」

沈黙。

老王が口を開く。

「……基金は現行のままとする」

王太子が振り返る。

「父上!」

「市場が安定しておる。
それを崩す理由はない」

会議は終わる。

――――

屋敷へ戻る馬車の中。

執事が低く言う。

「王太子殿下は諦めておりません」

「当然ですわ」

「次は」

「別の形で来るでしょう」

権力は単純ではない。

直接奪えぬなら、周囲から削る。

貴族派閥。

世論。

宗教。

どこからでも揺さぶれる。

だが。

基金は制度。

制度は依存で成り立つ。

依存は、すでに王都全体に広がっている。

――――

夜。

王都を見下ろす。

灯りは揺るがない。

「お嬢様」

執事が静かに問う。

「王権との衝突は避けられませぬ」

「衝突?」

わたくしは首を傾げる。

「わたくしは王位を望んでおりません」

一拍。

「王家が望むのは安定」

視線を遠くへ。

「わたくしが与えております」

王太子はまだ理解していない。

王家の力は命令。

わたくしの力は選択。

商人は命令に従わない。

利益に従う。

婚約破棄された令嬢。

今や。

王権の影に立つ者。

王が決めるのは法。

だが市場が決めるのは現実。

そしてその現実は。

すでに、わたくしの掌の上にある。
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