婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第十二話 王冠より重い沈黙

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第十二話 王冠より重い沈黙

「お嬢様、王太子派の貴族が動いております」

執事の声は低く、しかし揺らぎはない。

「動き方は?」

「基金制度が“過度に私的影響を受けている”との非公式な批判を広めております」

わたくしは窓辺に立ったまま答える。

「批判は歓迎ですわ」

一拍。

「市場が揺れなければ」

――――

数日後。

王都の上流社交界で、静かな囁きが広がる。

「あの令嬢は権力を持ちすぎている」

「王家を脅かしているのでは」

「いずれ独裁になる」

言葉は刃より鋭い。

だが。

商人は囁きでは動かない。

彼らが見るのは数字。

信用。

保証。

「市場報の反応は?」

「影響軽微でございます」

執事は淡々と答える。

「格付け変動なし。保証率変動なし」

「では問題ございませんわ」

噂は空気。

だが数字は重力。

重力の方が強い。

――――

王太子は別の手を打つ。

宗教界。

王都最大の大神殿。

「商業における過度な集中は、神の秩序に反する」

大司教がそう発言したと報じられる。

市場報は即座に対応する。

翌日、一面。

“大神殿修繕事業、基金支援により予算確保”

二面。

“孤児院への寄付、基金参加企業が主導”

三面。

“大神殿祭礼資材、安定供給”

事実のみを並べる。

基金が支援している。

神殿もまた、恩恵を受けている。

――――

大神殿。

大司教は困惑する。

「発言が強すぎた」

側近が低く言う。

「市場報が……」

「撤回声明を」

「今さらでは」

結局。

“誤解を招く表現だった”と曖昧な訂正。

市場は揺れない。

――――

屋敷。

「王太子派の貴族、三家が基金参加を保留」

「理由は?」

「様子見とのこと」

「格付けは?」

「慎重評価に変更」

慎重。

それだけで商人は距離を置く。

三家の新事業計画は、すぐに停滞する。

保証審査が厳格化。

取引先が躊躇。

数週間後。

三家とも正式に基金参加を申請。

――――

執事が報告する。

「これにより、王太子派主要貴族も基金内」

「政治と市場は別ですもの」

わたくしは穏やかに言う。

「政治で敵対しても、商売では利益を選ぶ」

――――

王城。

王太子は苛立ちを隠せない。

「なぜ誰も反旗を翻さぬ!」

側近が答える。

「翻せば、商会が止まります」

「王家が後ろ盾だと言え」

「保証は王家が出されますか」

沈黙。

王家の財政は潤沢ではない。

基金は即時保証。

王家は予算審議。

商人は待たない。

――――

屋敷。

執事が静かに問う。

「お嬢様、これで王太子派の経済基盤も基金内に入りました」

「ええ」

「王権との衝突は?」

「衝突ではございません」

わたくしは振り返る。

「共存ですわ」

一拍。

「王家が政治を担い、わたくしが市場を担う」

役割分担。

だが。

実質的な影響力は、どちらが大きいか。

それは誰も口にしない。

――――

夜。

王都の灯りは静かに揺れる。

市場は安定している。

価格は緩やか。

保証は迅速。

信用は明確。

「お嬢様」

執事が低く言う。

「王都において、基金を通さぬ事業は事実上存在しなくなりました」

「ようやくですわ」

わたくしは微笑む。

「許可は制度となり、制度は常識となる」

王太子はまだ抵抗するだろう。

だが。

王家が命令しても、市場が従わなければ意味はない。

そして市場は。

すでに選んでいる。

婚約破棄された令嬢。

王冠は持たない。

だが。

王冠より重い沈黙を、
王都に落としている。

誰も逆らわない。

逆らえない。

それが。

本当の支配。
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