婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第十三話 王命という紙切れ

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第十三話 王命という紙切れ

「お嬢様……王命が出ました」

執事の声は、これまでになく低かった。

わたくしはゆっくりと顔を上げる。

「内容は?」

「王都における経済統制権は王家に帰属する、と明文化されました。
基金は王室監督下の補助機関とする、と」

沈黙。

ついに来た。

命令。

政治の最終手段。

「公布は?」

「三日後。王城前広場にて」

わたくしは静かに立ち上がる。

「よろしいわ」

「……よろしいのでございますか」

「ええ」

窓の外を見る。

王都は今日も動いている。

命令が出たところで。

市場は止まらない。

――――

王城前広場。

王太子が高らかに宣言する。

「経済は国家の柱である!
よって、王都基金は王家の監督下に置く!」

拍手はまばら。

貴族たちは静かに聞く。

商人は無言。

命令は出た。

だが。

――――

翌日。

市場報、一面。

“王命公布。基金は王室監督補助機関へ”

二面。

“現行契約・保証・格付け制度に変更なし”

三面。

“市場安定維持を最優先”

事実のみ。

変更なし。

商人はそれを見る。

「保証は?」

「変わらぬ」

「格付けは?」

「そのまま」

「原料は?」

「通常通り」

市場は動く。

通常通りに。

――――

王城。

王太子が報告を受ける。

「……何も変わらぬだと?」

「はい。基金は形式上、王室監督下となりましたが、運営は従来通り」

「命令したのだぞ!」

「基金参加企業はすべて既存契約を優先しております」

王太子は理解する。

命令は出した。

だが。

市場は“従っていない”のではない。

“変わる必要がない”だけ。

――――

屋敷。

執事が問う。

「王命を事実上無力化なさいました」

「無力化などしておりませんわ」

わたくしは穏やかに言う。

「王命は尊重しております」

「しかし実態は」

「変える必要がないだけです」

一拍。

「王命は“監督”」

視線を落とす。

「運営は“契約”」

契約は双方合意。

合意は依存。

依存は制度。

制度は習慣。

習慣は力。

――――

数日後。

王室財務局から通達。

“基金の安定運営を高く評価する”

実質的な追認。

王太子はそれを見て、拳を握る。

「父上は……」

老王は静かに言う。

「市場が安定している以上、崩す理由はない」

「だが!」

「統治とは、現実を受け入れることだ」

沈黙。

王太子は何も言えない。

――――

夜。

屋敷のバルコニー。

王城の塔が遠くに見える。

「お嬢様、王命が出ても市場は揺れませんでした」

「当然ですわ」

わたくしは静かに答える。

「命令は上から降ります」

一拍。

「市場は下から動きます」

命令があっても。

商人が安心している限り。

変化は起きない。

――――

翌週。

名門伯爵が訪れる。

「新規鉄道敷設事業を検討しております」

「素晴らしいですわ」

「王命の件で不安が……」

「契約は有効でございます」

伯爵は安堵する。

「では、基金参加前提で」

署名。

また一つ、動きが加わる。

王命が出た直後でさえ。

商人は許可を求めてくる。

王太子ではない。

わたくしに。

――――

執事が静かに言う。

「王命より契約が重い。
それが確定いたしました」

わたくしは微笑む。

「王は法を作る」

一拍。

「わたくしは現実を作る」

王家は王冠を戴く。

だが。

王都の経済は。

王命では動かない。

婚約破棄された令嬢。

今や。

王命さえも、市場の前では紙切れにできる存在。

王城に王はいる。

だが。

王都を動かす力は、
すでに別の場所に根を張っている。
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