婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第十四話 静かな戴冠

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第十四話 静かな戴冠

王命が公布されてから、一月。

王都は、拍子抜けするほど静かだった。

暴動もない。
抗議もない。
市場の混乱もない。

「お嬢様、王命以降の取引量は微増でございます」

執事が報告する。

「王命の影響は?」

「数字上、確認できません」

わたくしは頷く。

「それが答えですわ」

王命は出た。

だが市場は揺れなかった。

それはつまり。

王命が、経済にとって“不要”であったということ。

――――

王城。

王太子は沈黙していた。

「監督権を得たはずだ」

側近が答える。

「はい。形式上は」

「だが、何も変わらぬ」

「基金の契約網が広範すぎます」

王太子はようやく理解し始める。

力とは。

命令の強さではない。

依存の深さ。

王家は命令できる。

だが基金は――

選ばれている。

――――

屋敷。

新しい書類が山のように積まれている。

「地方都市より、基金制度導入の打診が三件」

「王都外から?」

「はい。王都の安定を見て」

わたくしは目を細める。

「王都が前例になりましたのね」

「制度輸出でございます」

わたくしは紅茶を一口含む。

「急ぎません」

一拍。

「王都の基盤を完全に固定してから」

固定。

それは、誰も疑問を抱かなくなる状態。

――――

王都商業連合会議。

かつては商業ギルドが主導していた場。

今や。

基金評議会が中心。

議題は価格調整。

保証率改定。

信用基準更新。

議長は商業ギルド長。

だが実質の決定権は――

基金運営代表。

つまり、わたくし。

「異議は?」

静まり返る会議室。

誰も異議を唱えない。

唱える理由がない。

利益は安定している。

損失は減った。

倒産は激減。

商人は満足している。

満足は最強の鎖。

――――

夜。

王都の灯りは、まるで整列した星のように揺れる。

「お嬢様」

執事が静かに言う。

「王太子殿下は、別の方法を模索しておられます」

「軍?」

「いえ。婚姻」

わたくしは振り向く。

「婚姻?」

「隣国の公女との縁談を急いでおります。
外資導入による市場対抗策を狙っているかと」

わたくしは小さく笑う。

「外資」

一拍。

「王都で事業をするなら、挨拶が必要ですわ」

隣国であろうと。

王族であろうと。

制度は変わらない。

――――

数日後。

隣国商人団が王都へ到着。

豪奢な衣装。

自信に満ちた態度。

だが。

港湾使用許可。

保証申請。

原料調達契約。

すべてに――

基金審査。

「殿下の後ろ盾がある!」

商人団は主張する。

だが商務官は淡々と答える。

「基金規約に従います」

数日後。

彼らは屋敷を訪れる。

「王都で事業を始めるにあたり、ご挨拶を」

わたくしは穏やかに微笑む。

「ようこそ」

王太子の計画は、最初の段階で基金に吸収される。

外資も。

王族も。

例外はない。

――――

執事が報告する。

「王都における全大規模商業活動、基金経由率百パーセント」

わたくしは静かに立ち上がる。

「百」

一拍。

「ようやくですわ」

王命が出た。

対抗策も試みられた。

だが。

市場は動かなかった。

動いたのは。

制度に従った者だけ。

――――

舞踏会。

貴族たちが集う。

誰も声高に称賛はしない。

だが視線は一方向。

王太子が近づく。

以前の怒りはない。

代わりに、疲労と理解。

「……認めざるを得ぬ」

「何をでございましょう」

「王都は、お前の制度で回っている」

わたくしは穏やかに答える。

「皆さまの選択の結果ですわ」

一拍。

「わたくしは強制しておりません」

王太子は低く笑う。

「それが最も恐ろしい」

音楽が流れる。

誰も宣言しない。

誰も王冠を掲げない。

だが。

王都の経済は、完全に固定された。

婚約破棄された令嬢。

王位は持たない。

王冠もない。

だが。

王都の産業すべてが、
彼女の許可を経て動く。

それは戴冠式もない。

拍手もない。

だが確実な――

静かな戴冠。
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