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第十五話 王位という選択肢
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第十五話 王位という選択肢
王都は、これ以上ないほど安定していた。
倒産件数は減少。
税収は上昇。
失業率は低下。
王室財務局の報告書にさえ、こう記される。
“基金制度は王都経済の安定に著しく寄与している”
「お嬢様、王都の財政黒字幅、過去二十年で最大でございます」
執事の声はいつも通り静かだ。
「素晴らしいですわね」
わたくしは微笑む。
「王家もお喜びでしょう」
――――
だが。
安定は、次の欲を生む。
王城では、囁きが広がり始めていた。
「いっそ、基金を王室直属機関に正式昇格させては」
「彼女を正式に顧問に」
「いや……」
別の声。
「彼女を王妃に迎えれば」
沈黙。
婚約破棄されたはずの名が、再び議題に上る。
王太子はそれを聞き、机を叩く。
「あり得ぬ!」
だが老王は静かに言う。
「王家と市場が一体になれば、国は磐石だ」
王太子は顔を歪める。
「それは王位の譲渡と同じだ!」
「違う」
老王は低く言う。
「現実の承認だ」
――――
屋敷。
「お嬢様、王室より非公式な打診が」
執事が静かに告げる。
「内容は?」
「王太子殿下との復縁、もしくは政治的婚姻の再検討」
わたくしはゆっくりと瞬きをする。
「復縁」
一拍。
「遅いですわね」
「返答はいかがなさいますか」
「決まっております」
わたくしは静かに言う。
「望み?殿下の婚約者でなくなることです。
なので、もうかなってます」
執事は深く一礼する。
「そのようにお伝えいたします」
――――
数日後。
王太子が直接訪れる。
今度は怒りではなく、覚悟の顔。
「……条件を提示する」
「条件?」
「王妃の座だ」
応接室の空気が凍る。
「基金を王室直属とし、お前を正式顧問に」
わたくしは穏やかに微笑む。
「私、そんなもの望んでおりませんわ」
「王妃だぞ」
「王妃は王城におります」
一拍。
「市場は王城にございません」
王太子の眉が動く。
「王位に興味はないと?」
「ございません」
「ならばなぜここまで」
わたくしは静かに答える。
「必要だったから」
婚約破棄。
あの夜。
わたくしに残されたものは、名誉でも地位でもない。
ただ。
自由。
「王位は縛りですわ」
わたくしは淡々と言う。
「わたくしは、制度を動かす側でありたい」
王太子は沈黙する。
「……お前は王になれる」
「なりません」
一拍。
「王を支配する気もございません」
視線が交差する。
「ただ」
わたくしは微笑む。
「王が市場を動かそうとしない限り、共存できますわ」
王太子は長く息を吐く。
理解したのだ。
わたくしは王位を望まない。
だが。
市場を手放さない。
――――
王城。
老王が呟く。
「王位は象徴になりつつある」
側近が答える。
「象徴でも国は回ります」
「市場が安定している限りな」
老王は窓の外を見る。
王都の灯りが揺れている。
「……時代は変わる」
――――
屋敷。
執事が静かに問う。
「お嬢様、本当に王位に興味は?」
わたくしは首を振る。
「王冠は重いですわ」
一拍。
「責任と制約で動けなくなる」
「では今の立場は」
「自由」
わたくしは窓辺に立つ。
王城の塔が遠くに見える。
「王は国を治める」
一拍。
「わたくしは流れを治める」
流れは命令では止まらない。
力で縛れば反発する。
だが依存で固めれば。
自ら従う。
――――
婚約破棄された令嬢。
王位を提示される。
だが拒む。
王にならず。
王を倒さず。
王を超えもしない。
ただ。
王都のすべての産業が。
彼女の許可を経て動く。
それで十分。
王冠はない。
だが。
王冠より重い力が。
静かに、その手の中にある。
王都は、これ以上ないほど安定していた。
倒産件数は減少。
税収は上昇。
失業率は低下。
王室財務局の報告書にさえ、こう記される。
“基金制度は王都経済の安定に著しく寄与している”
「お嬢様、王都の財政黒字幅、過去二十年で最大でございます」
執事の声はいつも通り静かだ。
「素晴らしいですわね」
わたくしは微笑む。
「王家もお喜びでしょう」
――――
だが。
安定は、次の欲を生む。
王城では、囁きが広がり始めていた。
「いっそ、基金を王室直属機関に正式昇格させては」
「彼女を正式に顧問に」
「いや……」
別の声。
「彼女を王妃に迎えれば」
沈黙。
婚約破棄されたはずの名が、再び議題に上る。
王太子はそれを聞き、机を叩く。
「あり得ぬ!」
だが老王は静かに言う。
「王家と市場が一体になれば、国は磐石だ」
王太子は顔を歪める。
「それは王位の譲渡と同じだ!」
「違う」
老王は低く言う。
「現実の承認だ」
――――
屋敷。
「お嬢様、王室より非公式な打診が」
執事が静かに告げる。
「内容は?」
「王太子殿下との復縁、もしくは政治的婚姻の再検討」
わたくしはゆっくりと瞬きをする。
「復縁」
一拍。
「遅いですわね」
「返答はいかがなさいますか」
「決まっております」
わたくしは静かに言う。
「望み?殿下の婚約者でなくなることです。
なので、もうかなってます」
執事は深く一礼する。
「そのようにお伝えいたします」
――――
数日後。
王太子が直接訪れる。
今度は怒りではなく、覚悟の顔。
「……条件を提示する」
「条件?」
「王妃の座だ」
応接室の空気が凍る。
「基金を王室直属とし、お前を正式顧問に」
わたくしは穏やかに微笑む。
「私、そんなもの望んでおりませんわ」
「王妃だぞ」
「王妃は王城におります」
一拍。
「市場は王城にございません」
王太子の眉が動く。
「王位に興味はないと?」
「ございません」
「ならばなぜここまで」
わたくしは静かに答える。
「必要だったから」
婚約破棄。
あの夜。
わたくしに残されたものは、名誉でも地位でもない。
ただ。
自由。
「王位は縛りですわ」
わたくしは淡々と言う。
「わたくしは、制度を動かす側でありたい」
王太子は沈黙する。
「……お前は王になれる」
「なりません」
一拍。
「王を支配する気もございません」
視線が交差する。
「ただ」
わたくしは微笑む。
「王が市場を動かそうとしない限り、共存できますわ」
王太子は長く息を吐く。
理解したのだ。
わたくしは王位を望まない。
だが。
市場を手放さない。
――――
王城。
老王が呟く。
「王位は象徴になりつつある」
側近が答える。
「象徴でも国は回ります」
「市場が安定している限りな」
老王は窓の外を見る。
王都の灯りが揺れている。
「……時代は変わる」
――――
屋敷。
執事が静かに問う。
「お嬢様、本当に王位に興味は?」
わたくしは首を振る。
「王冠は重いですわ」
一拍。
「責任と制約で動けなくなる」
「では今の立場は」
「自由」
わたくしは窓辺に立つ。
王城の塔が遠くに見える。
「王は国を治める」
一拍。
「わたくしは流れを治める」
流れは命令では止まらない。
力で縛れば反発する。
だが依存で固めれば。
自ら従う。
――――
婚約破棄された令嬢。
王位を提示される。
だが拒む。
王にならず。
王を倒さず。
王を超えもしない。
ただ。
王都のすべての産業が。
彼女の許可を経て動く。
それで十分。
王冠はない。
だが。
王冠より重い力が。
静かに、その手の中にある。
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