婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第十六話 国境の向こう側

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第十六話 国境の向こう側

王位を拒んだ翌週。

王都は静かだった。

まるで何も起きていないかのように、市場は動き、馬車は走り、商人は帳簿をめくる。

だが、水面下では新たな流れが生まれていた。

「お嬢様、隣国の商業評議会より正式書簡が届いております」

執事が差し出す封蝋付きの書状。

「内容は?」

「王都基金制度の詳細開示と、導入協議の申し入れ」

わたくしは小さく微笑む。

「早いですわね」

王都の安定は、噂を越えて“結果”として広がっている。

隣国は理解した。

王都が揺れない理由。

それは王家ではなく、市場制度にあると。

――――

執事が机上に地図を広げる。

「隣国は現在、二大商業派閥の対立で不安定」

「価格戦争?」

「ええ。倒産も増加しております」

「だから安定を求める」

わたくしは静かに頷く。

「ですが、急ぎません」

「制度輸出は危険も伴います」

「ええ」

一拍。

「王都を揺るがす可能性がある」

制度は強い。

だが拡張は慎重でなければならない。

――――

王城。

王太子は報告を受ける。

「隣国が基金制度を求めている?」

「はい」

「……あの女の影響力が国外に及ぶ」

側近は慎重に言う。

「王都の成功を見れば、自然な流れでございます」

王太子は歯を食いしばる。

国内で抑え込めなかった。

ならば国外で広がる。

それは、王家の権威を相対的に弱める。

「外交は王家の専権だ」

「経済は市場でございます」

沈黙。

――――

屋敷。

隣国の商業使節団が訪れる。

豪奢な衣装。

だが態度は慎重。

「王都基金制度を導入したい」

代表が言う。

「目的は?」

「安定」

わたくしは穏やかに答える。

「制度は道具です」

一拍。

「依存を受け入れる覚悟がなければ、意味はございません」

代表は理解している。

王都が安定している理由。

それは“共同管理”ではなく。

中心が一つだから。

「導入条件は?」

「王都基金との相互格付け連動」

室内が静まる。

それはつまり。

隣国の商業活動が、王都の基準に影響されること。

「独立性は」

「維持できます」

わたくしは微笑む。

「ただし、信用は共有されます」

信用の共有は、依存の共有。

代表は長く息を吐く。

「検討する」

――――

数日後。

隣国で基金制度試験導入決定。

王都との信用連動は限定的。

だが第一歩。

「お嬢様、国外への影響力が始まりました」

執事が静かに言う。

「まだ影響ではございません」

わたくしは首を振る。

「連動です」

一拍。

「市場は国境を越えます」

――――

王城。

老王が静かに言う。

「王家の外交よりも早い」

王太子は拳を握る。

「市場が外交を先導する」

「時代の流れかもしれぬ」

老王は遠くを見る。

「国境は政治が引く。
だが流通は無視する」

――――

屋敷。

夜。

王都の灯りは変わらぬ。

だが地図の外側に、細い線が伸び始めている。

「お嬢様」

執事が問う。

「王位を望まぬと言いながら、影響は拡大しております」

わたくしは静かに答える。

「王になる必要はございません」

一拍。

「王が存在する限り、王は責任を負う」

視線を遠くへ。

「わたくしは流れを整えるだけ」

王都の産業は完全掌握。

王命は形式。

王位は拒否。

そして今。

市場は国境を越え始めた。

婚約破棄された令嬢。

王冠を持たず。

だが。

王都の外へ、静かに広がる。

それは征服ではない。

侵略でもない。

ただ。

安定という名の依存。

そしてその中心に。

彼女は、変わらず立っている。
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