24 / 39
第二十五話 王太子の誤算
しおりを挟む
第二十五話 王太子の誤算
王家公認局の統合から半月。
王都は安定を取り戻していた。
王家と基金が共同で発表する審査結果は、市場に安心を与える。
だが、その裏で静かな違和感が広がっていた。
「殿下が動いております」
執事の報告は、いつもより低い。
「どのように」
「地方の有力貴族を集め、独自の連携構想を」
わたくしは地図を広げる。
王都から少し離れた港町。
鉱山地帯。
農業都市。
「地方包囲、ですわね」
王太子は理解した。
王都を制する彼女を、王都の外から囲む。
王都の制度が届かぬ場所で、新たな経済圏を築く。
決して愚策ではない。
むしろ、正攻法。
――――
王城、密室。
「王都の商人は彼女に従う」
王太子が言う。
「ならば、王都を外から縛る」
地方貴族たちは静かに頷く。
「港湾税を引き上げ、王都経由を不利に」
「鉱石供給を地方経由に一本化」
「農産物も直送へ」
王太子の目に、光が戻る。
王都を締め付ければ、基金も揺らぐ。
――――
屋敷。
「地方港が新規契約を締結」
「鉱山も」
執事が報告を並べる。
「殿下の策でございます」
わたくしは扇を閉じる。
「面白いですわ」
焦燥ではない。
冷静な攻勢。
ようやく、正しい盤面を読んだ。
――――
三日後。
王都に小さな混乱が起きる。
鉄材の納期遅延。
穀物価格の上昇。
商人たちがざわめく。
「基金の保証はあるが、物が届かぬ」
市場は不安を感じ始める。
――――
執事が静かに言う。
「対応を」
わたくしは首を振る。
「まだです」
「ですが価格が」
「揺らぎは必要ですわ」
一拍。
「依存は安定の中では育ちません」
――――
王太子は手応えを感じる。
「王都の商人が困っている」
「基金も揺らいでおります」
側近が告げる。
「焦るだろう」
王太子は低く言う。
彼女が王都を握るなら。
自分は王国を握る。
――――
五日目。
王都商人連盟が屋敷に押し寄せる。
「お嬢様、地方からの供給が」
「存じております」
「対策を」
わたくしは静かに告げる。
「港湾税の引き上げは、地方港のみですわね」
「はい」
「では王都港を自由港といたします」
沈黙。
「税を半減。三か月限定」
「ですが財源が」
「基金が保証」
市場は即座に反応する。
地方港を経由するより、王都港の方が安い。
商人たちは流れを変える。
――――
さらに。
「鉱山の直送契約は王家保証付き」
「ならば王家保証の融資を基金が共同保証」
王太子は気づく。
自分の策が、逆に王都制度を拡張する材料になっていることに。
――――
王城。
「なぜだ」
王太子が低く呟く。
「殿下の策は正しかった」
側近は言う。
「だが彼女はそれを吸収した」
地方包囲は失敗ではない。
だが。
王都港はさらに発展した。
自由港の実績が生まれた。
基金の保証範囲が広がった。
地方商人も結局、王都制度を通す。
王太子は椅子に沈む。
誤算だった。
彼女は攻撃を恐れない。
攻撃を利用する。
――――
屋敷。
「殿下は?」
「静観しております」
わたくしは静かに言う。
「殿下は賢い方です」
一拍。
「だからこそ、誤算が痛い」
焦っていない。
怒っていない。
それが一番厄介。
――――
数日後。
王太子が再び訪れる。
「地方包囲を見抜いていたな」
「ええ」
「なぜ止めなかった」
わたくしは穏やかに答える。
「止める理由がございませんもの」
「……」
「殿下の策で、王都港は自由港となりました」
「結果的に、だ」
「結果がすべてですわ」
沈黙。
王太子はゆっくりと言う。
「私は、まだ足りぬか」
わたくしは扇を閉じる。
「足りぬのではなく」
一拍。
「戦い方が違うだけです」
王太子は目を伏せる。
彼は王。
象徴と政治。
彼女は制度。
数字と信用。
盤面が違う。
――――
王都の夜。
自由港の灯りが一層明るい。
地方包囲は失敗ではない。
だが。
彼女はすべてを制度に吸収する。
王太子の誤算は一つ。
彼女が守りに入ると思ったこと。
彼女は守らない。
動く。
そして。
揺らぎを糧に、さらに強くなる。
王太子はようやく理解する。
彼女は敵ではない。
だが。
決して追い越せない存在だと。
王家公認局の統合から半月。
王都は安定を取り戻していた。
王家と基金が共同で発表する審査結果は、市場に安心を与える。
だが、その裏で静かな違和感が広がっていた。
「殿下が動いております」
執事の報告は、いつもより低い。
「どのように」
「地方の有力貴族を集め、独自の連携構想を」
わたくしは地図を広げる。
王都から少し離れた港町。
鉱山地帯。
農業都市。
「地方包囲、ですわね」
王太子は理解した。
王都を制する彼女を、王都の外から囲む。
王都の制度が届かぬ場所で、新たな経済圏を築く。
決して愚策ではない。
むしろ、正攻法。
――――
王城、密室。
「王都の商人は彼女に従う」
王太子が言う。
「ならば、王都を外から縛る」
地方貴族たちは静かに頷く。
「港湾税を引き上げ、王都経由を不利に」
「鉱石供給を地方経由に一本化」
「農産物も直送へ」
王太子の目に、光が戻る。
王都を締め付ければ、基金も揺らぐ。
――――
屋敷。
「地方港が新規契約を締結」
「鉱山も」
執事が報告を並べる。
「殿下の策でございます」
わたくしは扇を閉じる。
「面白いですわ」
焦燥ではない。
冷静な攻勢。
ようやく、正しい盤面を読んだ。
――――
三日後。
王都に小さな混乱が起きる。
鉄材の納期遅延。
穀物価格の上昇。
商人たちがざわめく。
「基金の保証はあるが、物が届かぬ」
市場は不安を感じ始める。
――――
執事が静かに言う。
「対応を」
わたくしは首を振る。
「まだです」
「ですが価格が」
「揺らぎは必要ですわ」
一拍。
「依存は安定の中では育ちません」
――――
王太子は手応えを感じる。
「王都の商人が困っている」
「基金も揺らいでおります」
側近が告げる。
「焦るだろう」
王太子は低く言う。
彼女が王都を握るなら。
自分は王国を握る。
――――
五日目。
王都商人連盟が屋敷に押し寄せる。
「お嬢様、地方からの供給が」
「存じております」
「対策を」
わたくしは静かに告げる。
「港湾税の引き上げは、地方港のみですわね」
「はい」
「では王都港を自由港といたします」
沈黙。
「税を半減。三か月限定」
「ですが財源が」
「基金が保証」
市場は即座に反応する。
地方港を経由するより、王都港の方が安い。
商人たちは流れを変える。
――――
さらに。
「鉱山の直送契約は王家保証付き」
「ならば王家保証の融資を基金が共同保証」
王太子は気づく。
自分の策が、逆に王都制度を拡張する材料になっていることに。
――――
王城。
「なぜだ」
王太子が低く呟く。
「殿下の策は正しかった」
側近は言う。
「だが彼女はそれを吸収した」
地方包囲は失敗ではない。
だが。
王都港はさらに発展した。
自由港の実績が生まれた。
基金の保証範囲が広がった。
地方商人も結局、王都制度を通す。
王太子は椅子に沈む。
誤算だった。
彼女は攻撃を恐れない。
攻撃を利用する。
――――
屋敷。
「殿下は?」
「静観しております」
わたくしは静かに言う。
「殿下は賢い方です」
一拍。
「だからこそ、誤算が痛い」
焦っていない。
怒っていない。
それが一番厄介。
――――
数日後。
王太子が再び訪れる。
「地方包囲を見抜いていたな」
「ええ」
「なぜ止めなかった」
わたくしは穏やかに答える。
「止める理由がございませんもの」
「……」
「殿下の策で、王都港は自由港となりました」
「結果的に、だ」
「結果がすべてですわ」
沈黙。
王太子はゆっくりと言う。
「私は、まだ足りぬか」
わたくしは扇を閉じる。
「足りぬのではなく」
一拍。
「戦い方が違うだけです」
王太子は目を伏せる。
彼は王。
象徴と政治。
彼女は制度。
数字と信用。
盤面が違う。
――――
王都の夜。
自由港の灯りが一層明るい。
地方包囲は失敗ではない。
だが。
彼女はすべてを制度に吸収する。
王太子の誤算は一つ。
彼女が守りに入ると思ったこと。
彼女は守らない。
動く。
そして。
揺らぎを糧に、さらに強くなる。
王太子はようやく理解する。
彼女は敵ではない。
だが。
決して追い越せない存在だと。
1
あなたにおすすめの小説
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※短編です。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4800文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語
つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。
物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか?
王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか?
これは、めでたしめでたしのその後のお話です。
番外編がスタートしました。
意外な人物が出てきます!
婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる