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第三十二話 国境の火種
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第三十二話 国境の火種
王都が安定を取り戻してから三か月。
自由港は活況を維持し、王都基金と地方基金の相互保証は完全に定着した。
だが、国の外は静かではなかった。
「隣国ヴァルディアが関税を引き上げました」
執事の報告は短い。
「対象は」
「王都経由の鉄材と織物」
わたくしは地図に目を落とす。
ヴァルディアは王都式基金を模倣した国。
だが模倣は成功していない。
審査基準は形だけ。
信用はまだ薄い。
自国産業を守るための関税。
それは防御でもあり、焦燥でもある。
――――
王城。
「報復すべきです」
軍務卿が強く言う。
「経済封鎖を」
財務卿が眉をひそめる。
「市場が混乱します」
王は静かに聞いている。
「彼らは我らの制度を学びながら、競争に負けた」
一拍。
「だから壁を作った」
「黙って見過ごせと?」
王は首を振る。
「戦は最後の手段だ」
視線を窓の外へ向ける。
「まずは市場に問う」
――――
屋敷。
「王城から協議要請」
執事が言う。
「経済的対抗策について」
わたくしはゆっくり頷く。
「当然ですわね」
会議室。
王と対面する。
軍務卿、財務卿も同席。
「関税に対抗する案を」
王が言う。
わたくしは即答しない。
「二つございます」
「申せ」
「一つ目、同等の関税を課す」
軍務卿が頷く。
「それでよい」
わたくしは首を振る。
「短期的には」
「だが長期的には価格が上がり、民が苦しみます」
沈黙。
「二つ目は」
「自由港の範囲を拡張し、ヴァルディアを迂回する交易路を確立」
地図に新航路を示す。
「北海経由で第三国へ」
財務卿が目を見開く。
「時間はかかる」
「ええ」
「だが一度確立すれば、彼らの関税は無意味」
王は静かに言う。
「壁を越えるのではなく、壁の外を回る」
「はい」
――――
数週間。
王都は動く。
造船所が拡張。
北海航路の商会と契約。
基金が新航路事業を保証。
商人たちは迷わない。
王家は象徴として後押し。
軍は護衛を強化。
戦は起きない。
だが経済は動く。
――――
ヴァルディア。
関税による効果は限定的。
王都経由の交易は減るが、第三国経由で回り始める。
自国商人が困惑する。
「我らの関税は意味を失う」
焦燥が広がる。
――――
王城。
「関税引き下げの打診が」
側近が報告。
王は微笑む。
「戦わずして」
「信用で勝ちました」
軍務卿は不満げだが、結果は明白。
市場は混乱しなかった。
価格は安定。
民は平穏。
――――
屋敷。
執事が言う。
「お嬢様、国境を越えました」
わたくしは静かに答える。
「越えたのは制度」
一拍。
「わたくしではございません」
影は伸びる。
だが名はない。
――――
夜。
王が訪れる。
「戦わずに済んだ」
「それが最善です」
「私は一瞬、力で押さえようと思った」
「それが王の責任」
一拍。
「ですが市場は剣では守れません」
王は頷く。
「信用が盾になるとはな」
わたくしは微笑む。
「信用は、最も重い鎧でございます」
――――
王都の灯りは変わらない。
国境の火種は消えた。
戦は起きなかった。
婚約破棄された令嬢は、剣を持たない。
だが国境を越えて影を落とす。
王は王として立つ。
制度は基準として広がる。
火種は消えた。
だが。
王国の影は、さらに遠くへ伸び始めていた。
王都が安定を取り戻してから三か月。
自由港は活況を維持し、王都基金と地方基金の相互保証は完全に定着した。
だが、国の外は静かではなかった。
「隣国ヴァルディアが関税を引き上げました」
執事の報告は短い。
「対象は」
「王都経由の鉄材と織物」
わたくしは地図に目を落とす。
ヴァルディアは王都式基金を模倣した国。
だが模倣は成功していない。
審査基準は形だけ。
信用はまだ薄い。
自国産業を守るための関税。
それは防御でもあり、焦燥でもある。
――――
王城。
「報復すべきです」
軍務卿が強く言う。
「経済封鎖を」
財務卿が眉をひそめる。
「市場が混乱します」
王は静かに聞いている。
「彼らは我らの制度を学びながら、競争に負けた」
一拍。
「だから壁を作った」
「黙って見過ごせと?」
王は首を振る。
「戦は最後の手段だ」
視線を窓の外へ向ける。
「まずは市場に問う」
――――
屋敷。
「王城から協議要請」
執事が言う。
「経済的対抗策について」
わたくしはゆっくり頷く。
「当然ですわね」
会議室。
王と対面する。
軍務卿、財務卿も同席。
「関税に対抗する案を」
王が言う。
わたくしは即答しない。
「二つございます」
「申せ」
「一つ目、同等の関税を課す」
軍務卿が頷く。
「それでよい」
わたくしは首を振る。
「短期的には」
「だが長期的には価格が上がり、民が苦しみます」
沈黙。
「二つ目は」
「自由港の範囲を拡張し、ヴァルディアを迂回する交易路を確立」
地図に新航路を示す。
「北海経由で第三国へ」
財務卿が目を見開く。
「時間はかかる」
「ええ」
「だが一度確立すれば、彼らの関税は無意味」
王は静かに言う。
「壁を越えるのではなく、壁の外を回る」
「はい」
――――
数週間。
王都は動く。
造船所が拡張。
北海航路の商会と契約。
基金が新航路事業を保証。
商人たちは迷わない。
王家は象徴として後押し。
軍は護衛を強化。
戦は起きない。
だが経済は動く。
――――
ヴァルディア。
関税による効果は限定的。
王都経由の交易は減るが、第三国経由で回り始める。
自国商人が困惑する。
「我らの関税は意味を失う」
焦燥が広がる。
――――
王城。
「関税引き下げの打診が」
側近が報告。
王は微笑む。
「戦わずして」
「信用で勝ちました」
軍務卿は不満げだが、結果は明白。
市場は混乱しなかった。
価格は安定。
民は平穏。
――――
屋敷。
執事が言う。
「お嬢様、国境を越えました」
わたくしは静かに答える。
「越えたのは制度」
一拍。
「わたくしではございません」
影は伸びる。
だが名はない。
――――
夜。
王が訪れる。
「戦わずに済んだ」
「それが最善です」
「私は一瞬、力で押さえようと思った」
「それが王の責任」
一拍。
「ですが市場は剣では守れません」
王は頷く。
「信用が盾になるとはな」
わたくしは微笑む。
「信用は、最も重い鎧でございます」
――――
王都の灯りは変わらない。
国境の火種は消えた。
戦は起きなかった。
婚約破棄された令嬢は、剣を持たない。
だが国境を越えて影を落とす。
王は王として立つ。
制度は基準として広がる。
火種は消えた。
だが。
王国の影は、さらに遠くへ伸び始めていた。
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