婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第三十三話 戴冠なき戴冠

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第三十三話 戴冠なき戴冠

北海航路が完全に定着した。

関税を盾にしたヴァルディアは、逆に自国商人の反発を受け、王都式に近い審査制度を導入すると正式に発表する。

王都の市場は静かに沸いた。

勝利ではない。

安定の確認。

それが何よりの成果だった。

――――

王城。

「陛下、ヴァルディアより公式使節が参ります」

「目的は」

「制度監査の共同研究と、基金相互保証の提案」

王は一瞬目を閉じる。

三年前なら、これは王家の外交成果と喧伝していただろう。

だが今は違う。

「受けよう」

一拍。

「ただし市場主導で」

側近が小さく笑う。

「象徴は前に出ない、と」

王は頷く。

「象徴が前に出れば、制度が揺らぐ」

――――

屋敷。

「ヴァルディア使節団、面会を希望」

執事が告げる。

「王城ではなくこちらへ?」

「はい」

わたくしは静かに紅茶を口にする。

「対応いたします」

――――

応接室。

ヴァルディア公爵が頭を下げる。

「我らは学びたい」

率直。

虚勢はない。

「王都式は国境を越えました」

わたくしは微笑む。

「式ではございません」

「基準です」

公爵はうなずく。

「その基準を我が国にも」

「可能です」

一拍。

「ただし、干渉はいたしません」

「承知しております」

ここに征服はない。

あるのは選択。

――――

数日後。

王城で正式発表。

「王都式基金、国際相互保証協定締結」

広場は拍手に包まれる。

王は壇上で語る。

「王国は、剣ではなく信用で結ばれる」

その言葉は重い。

だが。

誰もが知っている。

信用の基準を整えた者が誰か。

――――

屋敷。

執事が静かに言う。

「王都では“戴冠なき女王”との呼び名が」

わたくしは目を細める。

「不適切ですわ」

「そうでしょうか」

「わたくしは王ではございません」

一拍。

「王はお一人」

その線は越えない。

――――

夜。

王が訪れる。

「聞いたか」

「ええ」

「戴冠なき女王」

王は苦笑する。

「私は王だ」

「存じております」

「だが民は」

「象徴と信用を混同し始めております」

沈黙。

危険な兆し。

王は静かに言う。

「私は君を称えない」

「それが正解」

「だが感謝はしている」

わたくしは扇を閉じる。

「感謝は不要です」

一拍。

「制度は個人に帰属してはなりません」

王は深く頷く。

「だから君は王になれぬ」

「ええ」

「だが王より強い」

わたくしは微笑む。

「強さではございません」

「選ばれ続けているだけ」

王冠は戴けば終わり。

信用は、毎日審査される。

――――

広場。

若い商人が語る。

「王都式は公平だ」

「誰であろうと基準通り」

それが何よりの王冠。

見えない。

だが重い。

――――

王城の塔と自由港の灯り。

並んで輝く。

競わない。

片方が消えれば、国は傾く。

婚約破棄された令嬢は、王冠を拒んだ。

だが。

世界は彼女の基準を戴冠した。

それは祝福でも支配でもない。

ただ、選ばれた結果。

戴冠なき戴冠。

影は、王より長く伸びていた。
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