32 / 39
第三十三話 戴冠なき戴冠
しおりを挟む
第三十三話 戴冠なき戴冠
北海航路が完全に定着した。
関税を盾にしたヴァルディアは、逆に自国商人の反発を受け、王都式に近い審査制度を導入すると正式に発表する。
王都の市場は静かに沸いた。
勝利ではない。
安定の確認。
それが何よりの成果だった。
――――
王城。
「陛下、ヴァルディアより公式使節が参ります」
「目的は」
「制度監査の共同研究と、基金相互保証の提案」
王は一瞬目を閉じる。
三年前なら、これは王家の外交成果と喧伝していただろう。
だが今は違う。
「受けよう」
一拍。
「ただし市場主導で」
側近が小さく笑う。
「象徴は前に出ない、と」
王は頷く。
「象徴が前に出れば、制度が揺らぐ」
――――
屋敷。
「ヴァルディア使節団、面会を希望」
執事が告げる。
「王城ではなくこちらへ?」
「はい」
わたくしは静かに紅茶を口にする。
「対応いたします」
――――
応接室。
ヴァルディア公爵が頭を下げる。
「我らは学びたい」
率直。
虚勢はない。
「王都式は国境を越えました」
わたくしは微笑む。
「式ではございません」
「基準です」
公爵はうなずく。
「その基準を我が国にも」
「可能です」
一拍。
「ただし、干渉はいたしません」
「承知しております」
ここに征服はない。
あるのは選択。
――――
数日後。
王城で正式発表。
「王都式基金、国際相互保証協定締結」
広場は拍手に包まれる。
王は壇上で語る。
「王国は、剣ではなく信用で結ばれる」
その言葉は重い。
だが。
誰もが知っている。
信用の基準を整えた者が誰か。
――――
屋敷。
執事が静かに言う。
「王都では“戴冠なき女王”との呼び名が」
わたくしは目を細める。
「不適切ですわ」
「そうでしょうか」
「わたくしは王ではございません」
一拍。
「王はお一人」
その線は越えない。
――――
夜。
王が訪れる。
「聞いたか」
「ええ」
「戴冠なき女王」
王は苦笑する。
「私は王だ」
「存じております」
「だが民は」
「象徴と信用を混同し始めております」
沈黙。
危険な兆し。
王は静かに言う。
「私は君を称えない」
「それが正解」
「だが感謝はしている」
わたくしは扇を閉じる。
「感謝は不要です」
一拍。
「制度は個人に帰属してはなりません」
王は深く頷く。
「だから君は王になれぬ」
「ええ」
「だが王より強い」
わたくしは微笑む。
「強さではございません」
「選ばれ続けているだけ」
王冠は戴けば終わり。
信用は、毎日審査される。
――――
広場。
若い商人が語る。
「王都式は公平だ」
「誰であろうと基準通り」
それが何よりの王冠。
見えない。
だが重い。
――――
王城の塔と自由港の灯り。
並んで輝く。
競わない。
片方が消えれば、国は傾く。
婚約破棄された令嬢は、王冠を拒んだ。
だが。
世界は彼女の基準を戴冠した。
それは祝福でも支配でもない。
ただ、選ばれた結果。
戴冠なき戴冠。
影は、王より長く伸びていた。
北海航路が完全に定着した。
関税を盾にしたヴァルディアは、逆に自国商人の反発を受け、王都式に近い審査制度を導入すると正式に発表する。
王都の市場は静かに沸いた。
勝利ではない。
安定の確認。
それが何よりの成果だった。
――――
王城。
「陛下、ヴァルディアより公式使節が参ります」
「目的は」
「制度監査の共同研究と、基金相互保証の提案」
王は一瞬目を閉じる。
三年前なら、これは王家の外交成果と喧伝していただろう。
だが今は違う。
「受けよう」
一拍。
「ただし市場主導で」
側近が小さく笑う。
「象徴は前に出ない、と」
王は頷く。
「象徴が前に出れば、制度が揺らぐ」
――――
屋敷。
「ヴァルディア使節団、面会を希望」
執事が告げる。
「王城ではなくこちらへ?」
「はい」
わたくしは静かに紅茶を口にする。
「対応いたします」
――――
応接室。
ヴァルディア公爵が頭を下げる。
「我らは学びたい」
率直。
虚勢はない。
「王都式は国境を越えました」
わたくしは微笑む。
「式ではございません」
「基準です」
公爵はうなずく。
「その基準を我が国にも」
「可能です」
一拍。
「ただし、干渉はいたしません」
「承知しております」
ここに征服はない。
あるのは選択。
――――
数日後。
王城で正式発表。
「王都式基金、国際相互保証協定締結」
広場は拍手に包まれる。
王は壇上で語る。
「王国は、剣ではなく信用で結ばれる」
その言葉は重い。
だが。
誰もが知っている。
信用の基準を整えた者が誰か。
――――
屋敷。
執事が静かに言う。
「王都では“戴冠なき女王”との呼び名が」
わたくしは目を細める。
「不適切ですわ」
「そうでしょうか」
「わたくしは王ではございません」
一拍。
「王はお一人」
その線は越えない。
――――
夜。
王が訪れる。
「聞いたか」
「ええ」
「戴冠なき女王」
王は苦笑する。
「私は王だ」
「存じております」
「だが民は」
「象徴と信用を混同し始めております」
沈黙。
危険な兆し。
王は静かに言う。
「私は君を称えない」
「それが正解」
「だが感謝はしている」
わたくしは扇を閉じる。
「感謝は不要です」
一拍。
「制度は個人に帰属してはなりません」
王は深く頷く。
「だから君は王になれぬ」
「ええ」
「だが王より強い」
わたくしは微笑む。
「強さではございません」
「選ばれ続けているだけ」
王冠は戴けば終わり。
信用は、毎日審査される。
――――
広場。
若い商人が語る。
「王都式は公平だ」
「誰であろうと基準通り」
それが何よりの王冠。
見えない。
だが重い。
――――
王城の塔と自由港の灯り。
並んで輝く。
競わない。
片方が消えれば、国は傾く。
婚約破棄された令嬢は、王冠を拒んだ。
だが。
世界は彼女の基準を戴冠した。
それは祝福でも支配でもない。
ただ、選ばれた結果。
戴冠なき戴冠。
影は、王より長く伸びていた。
1
あなたにおすすめの小説
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※短編です。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4800文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語
つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。
物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか?
王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか?
これは、めでたしめでたしのその後のお話です。
番外編がスタートしました。
意外な人物が出てきます!
婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる