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第三十四話 名前を消すという選択
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第三十四話 名前を消すという選択
“戴冠なき女王”。
その呼び名は、止めたはずだった。
王は否定した。
市場も個人崇拝を避けた。
だが噂というものは、消そうとすればするほど形を変える。
「お嬢様、商人組合の一部が」
執事が言葉を選ぶ。
「基金の正式名称を“エルゼ式”に改める動きがございます」
わたくしは紅茶の手を止める。
「……却下ですわ」
即答。
一瞬の迷いもない。
「制度は個人に属さない」
それを崩せば終わる。
――――
王城。
「陛下、商人らが制度を個人名で呼び始めています」
側近が報告する。
王はわずかに眉を寄せる。
「危険だな」
「はい」
王家にとっても。
制度にとっても。
一人に帰属した瞬間、それは“対抗勢力”と見なされる。
王は静かに言う。
「本人は」
「否定しております」
王は小さく息を吐く。
「ならば守らねばならぬ」
――――
屋敷。
商人代表が訪れる。
「我らは感謝を形にしたい」
「不要ですわ」
「ですが」
「感謝は行動で示してください」
一拍。
「基準を守ること」
それ以上はいらない。
商人は戸惑う。
英雄を作りたい。
象徴を欲しがる。
だが。
わたくしは首を振る。
「制度は、誰でも運用できねばならない」
「もしわたくしが消えたら、どうなりますか」
沈黙。
それが答え。
――――
王城。
王は公式声明を出す。
「王都基金は、王国商法に基づく制度である」
「個人に帰属するものではない」
淡々と。
だが明確に。
市場は理解する。
英雄化は禁物。
――――
夜。
王が訪れる。
「名前を消すのか」
「当然です」
「民は象徴を求める」
「それが危ういのです」
一拍。
「象徴はお一人で十分」
王は苦笑する。
「私は象徴だ」
「ええ」
「だが君は」
わたくしは言葉を遮る。
「基準の管理者」
それだけ。
王は静かに言う。
「君がいなければ、この制度は生まれなかった」
「ですが今は、わたくしがいなくても回ります」
沈黙。
それが完成。
――――
数日後。
基金名称は正式に「王都基準基金」と統一。
個人名は消えた。
商人たちは最初こそ不満げだったが、すぐに慣れる。
重要なのは名前ではない。
審査が公平であること。
それだけ。
――――
夜の書斎。
執事が静かに言う。
「お嬢様は、名を残さないのですね」
わたくしは微笑む。
「名は争いを呼びます」
一拍。
「基準は静かでよろしい」
王は王として戴冠した。
制度は制度として根付いた。
そして。
婚約破棄された令嬢は。
自らの名を消す。
それは敗北ではない。
完成。
名前を消したとき。
制度は本当に、国のものになる。
影は薄くなった。
だが。
基準は、誰よりも強く残った。
“戴冠なき女王”。
その呼び名は、止めたはずだった。
王は否定した。
市場も個人崇拝を避けた。
だが噂というものは、消そうとすればするほど形を変える。
「お嬢様、商人組合の一部が」
執事が言葉を選ぶ。
「基金の正式名称を“エルゼ式”に改める動きがございます」
わたくしは紅茶の手を止める。
「……却下ですわ」
即答。
一瞬の迷いもない。
「制度は個人に属さない」
それを崩せば終わる。
――――
王城。
「陛下、商人らが制度を個人名で呼び始めています」
側近が報告する。
王はわずかに眉を寄せる。
「危険だな」
「はい」
王家にとっても。
制度にとっても。
一人に帰属した瞬間、それは“対抗勢力”と見なされる。
王は静かに言う。
「本人は」
「否定しております」
王は小さく息を吐く。
「ならば守らねばならぬ」
――――
屋敷。
商人代表が訪れる。
「我らは感謝を形にしたい」
「不要ですわ」
「ですが」
「感謝は行動で示してください」
一拍。
「基準を守ること」
それ以上はいらない。
商人は戸惑う。
英雄を作りたい。
象徴を欲しがる。
だが。
わたくしは首を振る。
「制度は、誰でも運用できねばならない」
「もしわたくしが消えたら、どうなりますか」
沈黙。
それが答え。
――――
王城。
王は公式声明を出す。
「王都基金は、王国商法に基づく制度である」
「個人に帰属するものではない」
淡々と。
だが明確に。
市場は理解する。
英雄化は禁物。
――――
夜。
王が訪れる。
「名前を消すのか」
「当然です」
「民は象徴を求める」
「それが危ういのです」
一拍。
「象徴はお一人で十分」
王は苦笑する。
「私は象徴だ」
「ええ」
「だが君は」
わたくしは言葉を遮る。
「基準の管理者」
それだけ。
王は静かに言う。
「君がいなければ、この制度は生まれなかった」
「ですが今は、わたくしがいなくても回ります」
沈黙。
それが完成。
――――
数日後。
基金名称は正式に「王都基準基金」と統一。
個人名は消えた。
商人たちは最初こそ不満げだったが、すぐに慣れる。
重要なのは名前ではない。
審査が公平であること。
それだけ。
――――
夜の書斎。
執事が静かに言う。
「お嬢様は、名を残さないのですね」
わたくしは微笑む。
「名は争いを呼びます」
一拍。
「基準は静かでよろしい」
王は王として戴冠した。
制度は制度として根付いた。
そして。
婚約破棄された令嬢は。
自らの名を消す。
それは敗北ではない。
完成。
名前を消したとき。
制度は本当に、国のものになる。
影は薄くなった。
だが。
基準は、誰よりも強く残った。
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