婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第三十六話 継承されるもの

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第三十六話 継承されるもの

北部の騒動が収束してから、王都は再び落ち着きを取り戻した。

剣は鞘に収まり、秤は静かに揺れ続ける。

だが、どれほど安定しても。

時間だけは止まらない。

「お嬢様、地方基金の責任者が高齢にて退任を希望しております」

執事の報告は、穏やかだが重い。

「後任は」

「適任者はおりますが、最終判断を仰ぎたいと」

わたくしは書類を閉じる。

制度は人で動く。

人が去れば、揺れる。

「審査基準の理解度は」

「十分」

「ならば承認」

迷いはない。

だが、ふと。

「……継承の仕組みは、整っておりますか」

執事は一瞬だけ視線を上げる。

「お嬢様のことをお考えで?」

わたくしは答えない。

――――

王城。

「地方基金の責任者が代替わり」

側近が告げる。

王はうなずく。

「問題はないか」

「基準通りに選出」

王は静かに言う。

「基準が残るなら、人は変わってもよい」

一拍。

「だが基準は誰が守る」

沈黙。

王は理解している。

制度が完成に近づくほど、“創設者”は不要になる。

それは理想であり。

同時に寂しさでもある。

――――

屋敷。

若い審査官が訪れる。

「基準運用について、意見を伺いたく」

彼の目は真剣。

「疑問は」

「例外規定の扱いです」

わたくしは静かに答える。

「例外は、最後まで使わない」

「ですが救済措置は」

「基準の中で設計するのです」

一拍。

「人の情で動けば、信用が崩れます」

若い審査官は深く頭を下げる。

彼らがいる。

ならば。

――――

夜。

王が訪れる。

「制度は回っている」

「ええ」

「君がいなくとも?」

わたくしは紅茶を注ぐ。

「回るように整えました」

王はしばらく黙る。

「寂しくないか」

「制度は個人に依存してはなりません」

一拍。

「それが完成」

王はゆっくりと言う。

「では君は何になる」

わたくしは微笑む。

「自由な商人ですわ」

王は苦笑する。

「王より自由か」

「王は象徴」

「わたくしは選択」

沈黙。

王はふと真顔になる。

「もし王家が揺らげば」

「その時は」

一拍。

「剣を抜かれるのは陛下」

王は深く頷く。

「秤は」

「揺れ続けます」

――――

数週間後。

地方基金の新責任者が正式就任。

市場は混乱しない。

若い審査官たちが、淡々と基準を運用する。

誰も創設者を意識しない。

それが理想。

――――

執事が静かに言う。

「お嬢様、制度は完全に自立いたしました」

わたくしは窓の外を見る。

王城の塔。

自由港の灯り。

どちらも変わらない。

「ならば」

一拍。

「次を考えましょう」

「次、でございますか」

「ええ」

制度は継承された。

だが国は変化する。

新たな揺らぎは、必ず来る。

婚約破棄された令嬢は。

王冠を拒み。

名を消し。

制度を残した。

そして今。

秤を手放しても、揺れぬことを確かめた。

継承されるもの。

それは名ではない。

基準。

そして。

選び続けるという覚悟。
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