婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第三十八話 静かな退場

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第三十八話 静かな退場

地方視察から戻って以降、わたくしは意図的に王都の前面から退いた。

面会は減らし、審査への直接関与も最小限にする。

若い審査官たちが、自ら判断し、責任を負う。

それでよい。

それが完成。

「お嬢様、本日の公的予定はございません」

執事の声はいつも通り。

だがその響きは、どこか柔らかい。

「地方基金の報告は」

「順調でございます」

「王城からの要請は」

「ございません」

静か。

あまりに静か。

――――

王城。

「最近、例の方は動いていないな」

王が側近に言う。

「はい」

「制度は」

「問題なく」

王は小さく息を吐く。

「本当に、いなくても回るようにしたのだな」

それは誇りであり、同時に理解。

王は知っている。

彼女が退けば、それは衰退ではない。

完成。

――――

屋敷の庭。

風が穏やかに吹く。

紅茶の湯気が揺れる。

「……退屈でございますか」

執事が問う。

わたくしは微笑む。

「少しだけ」

秤は揺れている。

だが、わたくしの手はもう必要ない。

王は象徴として立ち。

制度は自律し。

地方も動いている。

これ以上、何を整えるのか。

――――

数日後。

若い審査官が訪れる。

「基準改訂の提案がございます」

「申して」

彼は自らの分析を語る。

わたくしは口を挟まない。

最後に一言。

「決裁はあなた方で」

彼は一瞬戸惑う。

「ですが」

「責任を負うのも、あなた方です」

沈黙ののち、彼は深く頭を下げる。

それでよい。

――――

夜。

王が訪れる。

「退いたな」

「ええ」

「後悔は」

「ございません」

王はじっと見る。

「名を消し」

「前線を離れ」

「それでもなお、君の影は残る」

わたくしは首を振る。

「影ではございません」

「では何だ」

「習慣」

王は目を細める。

「基準が習慣になった」

「ええ」

「それが最も強い」

剣は錆びる。

王冠は変わる。

だが習慣は、静かに続く。

――――

数週間。

王都では、もはや“創設者”の名は語られない。

若い商人は、制度を当然のものとして扱う。

それが正しい。

婚約破棄された令嬢の名は、記録に残らない。

だが基準は残る。

――――

庭の椅子に腰掛け、空を見上げる。

「静かでございますね」

「はい」

「これが望みでした」

王太子の婚約者でなくなること。

それは叶った。

王になることもなかった。

名も残らない。

だが。

国は揺れない。

象徴は立ち。

制度は回る。

それで十分。

静かな退場。

それは終わりではない。

完成の証。

影は薄れ。

基準だけが残った。
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