婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第三十九話 揺るがぬもの

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第三十九話 揺るがぬもの

静かな日々が続いていた。

制度は若い審査官たちの手で運用され、王は象徴として揺るぎなく立つ。

わたくしの名は、もはや市場で語られない。

それでよい。

だが。

「お嬢様、南部で不作が発生」

執事の声は、久方ぶりに緊張を帯びていた。

「規模は」

「広範囲。穀物価格が急騰」

市場がざわめく。

価格は秤の反応。

だが、急騰は恐怖を生む。

――――

王城。

「南部に救援を」

軍務卿が言う。

「備蓄の放出を急げ」

財務卿が補足する。

王は静かに問う。

「市場は」

「投機が始まりかけております」

王は目を閉じる。

不作は自然。

だが混乱は人為。

「備蓄放出と同時に、投機制限を」

「市場が反発します」

王は静かに言う。

「民が飢えれば、象徴は意味を失う」

――――

屋敷。

「南部穀物基金が限界に近い」

執事が報告。

わたくしは即答する。

「緊急保証枠を発動」

「基準外措置です」

「いいえ」

一拍。

「基準内の緊急条項」

制度には例外を作らない。

だが緊急時の枠は設計済み。

それを使うだけ。

――――

数日。

備蓄放出。

緊急保証。

投機制限。

市場は一時混乱するが、崩れない。

価格は緩やかに下がる。

南部への輸送も確保。

――――

王が訪れる。

「剣と秤、同時に動いた」

「当然です」

「私は備蓄を出した」

「わたくしは保証を出しました」

王は静かに笑う。

「並んでいるな」

「並び続けております」

一拍。

「民は」

「落ち着きを取り戻しております」

王は深く息を吐く。

「もし制度がなければ」

「剣だけでは足りません」

「もし王家がなければ」

「秤だけでは守れません」

沈黙。

答えは明白。

――――

数週間後。

南部の状況は改善。

穀物価格は平常域へ。

市場は再び静まる。

若い商人たちは言う。

「基準があるから慌てない」

それが習慣。

それが完成。

――――

庭。

執事が静かに告げる。

「お嬢様の名を記念碑に刻もうという動きが」

わたくしは首を振る。

「不要です」

「ですが」

「揺るがぬものは石ではありません」

一拍。

「習慣です」

――――

夜。

王が最後に訪れる。

「南部は落ち着いた」

「ええ」

「私は王であり続ける」

「それが象徴」

「君は」

わたくしは微笑む。

「自由な商人です」

王はゆっくり頷く。

「だが国は知っている」

「何を」

「揺るがぬものが何か」

王冠ではない。

名でもない。

信用。

基準。

選び続ける覚悟。

――――

不作は去った。

市場は揺れたが崩れなかった。

婚約破棄された令嬢は、名を残さない。

だが。

国は知っている。

揺るがぬものが、どこにあるのか。

そして。

それは、もう個人のものではない。

国の習慣となった。

終わりは近い。

だが崩れない。

揺るがぬものが、そこにある限り。
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