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第6話 婚約破棄という朗報
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第6話 婚約破棄という朗報
正式な通達は、翌朝には届いた。
王城の回廊を進んでくる足音を聞いた瞬間、リヴォルタ・レーレは「来たな」と思っただけで、特に身構えもしなかった。
扉を叩く音は、やけに丁寧だった。
「聖女リヴォルタ様。王太子殿下より、文書をお預かりしております」
「どうぞ」
差し出された封書には、王家の紋章が押されている。
内容を見なくても、だいたい察しはついていた。
机に腰掛け、封を切る。
簡潔で、感情のない文章だった。
――王太子ザガート・ビジョン・グランツは、
――聖女リヴォルタ・レーレとの婚約を、ここに正式に解消する。
理由は明確に記されている。
――国の守護と救済を担う「真の聖女」が別に存在するため。
読み終えたリヴォルタは、しばらく沈黙し――
それから、小さく息を吐いた。
「……ちょうど、よかったです」
その声は、安堵そのものだった。
婚約。
政略。
立場。
責任。
考えるだけで、正直、面倒だった。
「これで、余計なことを考えなくて済みますね」
侍女が目を見開いた。
「よ、よろしいのですか……?」 「ええ。むしろ助かりました」
本心だった。
王太子の妃という立場は、華やかに見えて制約の塊だ。
発言一つ、行動一つに意味を持たされる。
今のリヴォルタは、それを負う気力がなかった。
――聖女の役目も、もう必要ない。
それは、通達を読んで確信したことだった。
大神殿では、新聖女マーレン・エルバの即位準備が進められている。
祈りと詠唱を行い、奇跡を示す存在。
人々が求めているのは、そちらだ。
「では……私は、どうすれば?」
侍女の問いに、リヴォルタは少し考えた。
「……しばらく、のんびりしたいですね」
答えは、驚くほどすぐに出た。
思えば、ここ数年。
聖女として、婚約者として、国の象徴として――
“期待される存在”であり続けてきた。
それが、すべて外れた。
肩の荷が、音を立てて落ちた気がする。
「別荘地がありましたよね」 「はい。温泉のある……」 「そこに行きたいです」
理由は、特別なものではない。
「温泉に入って、何も考えずに過ごしたいだけです」
それだけだった。
数日後、リヴォルタは王都を離れた。
送迎も最低限。
見送りも、形式的なものだけ。
人々の関心は、すでに新聖女へと移っている。
王城の高台から、去っていく馬車を見下ろしながら、
ザガートは呟いた。
「……これで、国は正しい形に戻る」
目に見える成果を出す聖女。
理解しやすい奇跡。
誰もが納得する体制。
そう、信じて疑わなかった。
一方その頃、馬車の中で。
「はぁ……」
リヴォルタは、深く息を吐いていた。
「本当に、楽になりました」
婚約破棄。
聖女の座の喪失。
世間的には“転落”なのかもしれない。
だが彼女にとっては――
「めんどくさいものが、全部なくなりました」
それは、紛れもない朗報だった。
まだ誰も知らない。
この瞬間こそが、
本当の地獄の始まりであることを。
正式な通達は、翌朝には届いた。
王城の回廊を進んでくる足音を聞いた瞬間、リヴォルタ・レーレは「来たな」と思っただけで、特に身構えもしなかった。
扉を叩く音は、やけに丁寧だった。
「聖女リヴォルタ様。王太子殿下より、文書をお預かりしております」
「どうぞ」
差し出された封書には、王家の紋章が押されている。
内容を見なくても、だいたい察しはついていた。
机に腰掛け、封を切る。
簡潔で、感情のない文章だった。
――王太子ザガート・ビジョン・グランツは、
――聖女リヴォルタ・レーレとの婚約を、ここに正式に解消する。
理由は明確に記されている。
――国の守護と救済を担う「真の聖女」が別に存在するため。
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それから、小さく息を吐いた。
「……ちょうど、よかったです」
その声は、安堵そのものだった。
婚約。
政略。
立場。
責任。
考えるだけで、正直、面倒だった。
「これで、余計なことを考えなくて済みますね」
侍女が目を見開いた。
「よ、よろしいのですか……?」 「ええ。むしろ助かりました」
本心だった。
王太子の妃という立場は、華やかに見えて制約の塊だ。
発言一つ、行動一つに意味を持たされる。
今のリヴォルタは、それを負う気力がなかった。
――聖女の役目も、もう必要ない。
それは、通達を読んで確信したことだった。
大神殿では、新聖女マーレン・エルバの即位準備が進められている。
祈りと詠唱を行い、奇跡を示す存在。
人々が求めているのは、そちらだ。
「では……私は、どうすれば?」
侍女の問いに、リヴォルタは少し考えた。
「……しばらく、のんびりしたいですね」
答えは、驚くほどすぐに出た。
思えば、ここ数年。
聖女として、婚約者として、国の象徴として――
“期待される存在”であり続けてきた。
それが、すべて外れた。
肩の荷が、音を立てて落ちた気がする。
「別荘地がありましたよね」 「はい。温泉のある……」 「そこに行きたいです」
理由は、特別なものではない。
「温泉に入って、何も考えずに過ごしたいだけです」
それだけだった。
数日後、リヴォルタは王都を離れた。
送迎も最低限。
見送りも、形式的なものだけ。
人々の関心は、すでに新聖女へと移っている。
王城の高台から、去っていく馬車を見下ろしながら、
ザガートは呟いた。
「……これで、国は正しい形に戻る」
目に見える成果を出す聖女。
理解しやすい奇跡。
誰もが納得する体制。
そう、信じて疑わなかった。
一方その頃、馬車の中で。
「はぁ……」
リヴォルタは、深く息を吐いていた。
「本当に、楽になりました」
婚約破棄。
聖女の座の喪失。
世間的には“転落”なのかもしれない。
だが彼女にとっては――
「めんどくさいものが、全部なくなりました」
それは、紛れもない朗報だった。
まだ誰も知らない。
この瞬間こそが、
本当の地獄の始まりであることを。
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