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第15話 何もしない日常が、完成する
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第15話 何もしない日常が、完成する
契約が結ばれてから、数日が経った。
温泉郷は、驚くほど変わらない。
――いや、正確には「変わらなさ」が、より強固になった。
朝は、鳥の声で目を覚ます。
昼は、湯に浸かり、軽い散歩をする。
夜は、星を眺めて眠る。
リヴォルタ・レーレの一日は、それだけだ。
「……暇ですね」
縁側で茶を飲みながら、ぽつりと呟く。
だが、その言葉とは裏腹に、表情は穏やかだった。
忙しさも、緊張も、期待もない。
“何もしなくていい”という契約は、
彼女の生活に、初めて完全な自由をもたらしていた。
一方、王城。
「事故報告、ゼロです」 「魔物出現報告も、ありません」
側近の報告に、トレイル・ブレイザーは静かに頷いた。
「想定通りだ」
彼は、書類に目を落としながら続ける。
「彼女は、何もしていない」 「はい」 「だからこそ、我々は余計なことをしてはならない」
聖女として祭り上げない。
象徴にしない。
成果を求めない。
それが、この国の選んだ最適解だった。
王は、ふと窓の外を見る。
市場は活気に満ち、人々は笑っている。
誰も知らない。
この平和が、
露天風呂に浸かる一人の女性によって維持されていることを。
同じ頃、本国では――
「……落ち着いてきた、のか?」
ザガート・ビジョン・グランツは、報告書を読みながら眉をひそめていた。
災害は、最悪の状態からは脱しつつある。
だが、以前の“奇跡的な安定”には、程遠い。
「隣国との距離が近い地域ほど、被害が軽い……?」
その一文が、胸に刺さる。
理解している。
理解してしまった。
だが、どうにもならない。
「……今さら、だな」
彼女は、もう戻らない。
戻る理由が、どこにもない。
温泉郷。
「……そろそろ、夕飯ですね」
立ち上がるリヴォルタの足取りは、軽い。
誰かを救おうとしていない。
誰かの期待に応えようともしていない。
それなのに。
彼女が歩いた道では、
転ぶ者も、躓く者もいなかった。
宿の主人が、しみじみと呟く。
「本当に、不思議な方ですね」 「そうですか?」 「ええ……来ていただいてから、
この辺り、何も起きないんです」
リヴォルタは、少しだけ首を傾げて笑った。
「……良いことですね」
その夜。
露天風呂で肩まで湯に浸かりながら、彼女は目を閉じる。
「……今日も、何もしませんでした」
満足そうな声。
その言葉と同時に、
遠くで吹き荒れていた不安と混乱が、
また一つ、静まっていく。
こうして――
何もしない聖女の日常は、完全な形で完成した。
誰にも評価されず、
誰にも命じられず、
ただ“在る”ことで、世界を守る。
それが、この物語の
最も静かで、最も強い結末へと向かう道だと、
まだ誰も、声に出しては言わなかった。
契約が結ばれてから、数日が経った。
温泉郷は、驚くほど変わらない。
――いや、正確には「変わらなさ」が、より強固になった。
朝は、鳥の声で目を覚ます。
昼は、湯に浸かり、軽い散歩をする。
夜は、星を眺めて眠る。
リヴォルタ・レーレの一日は、それだけだ。
「……暇ですね」
縁側で茶を飲みながら、ぽつりと呟く。
だが、その言葉とは裏腹に、表情は穏やかだった。
忙しさも、緊張も、期待もない。
“何もしなくていい”という契約は、
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一方、王城。
「事故報告、ゼロです」 「魔物出現報告も、ありません」
側近の報告に、トレイル・ブレイザーは静かに頷いた。
「想定通りだ」
彼は、書類に目を落としながら続ける。
「彼女は、何もしていない」 「はい」 「だからこそ、我々は余計なことをしてはならない」
聖女として祭り上げない。
象徴にしない。
成果を求めない。
それが、この国の選んだ最適解だった。
王は、ふと窓の外を見る。
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誰も知らない。
この平和が、
露天風呂に浸かる一人の女性によって維持されていることを。
同じ頃、本国では――
「……落ち着いてきた、のか?」
ザガート・ビジョン・グランツは、報告書を読みながら眉をひそめていた。
災害は、最悪の状態からは脱しつつある。
だが、以前の“奇跡的な安定”には、程遠い。
「隣国との距離が近い地域ほど、被害が軽い……?」
その一文が、胸に刺さる。
理解している。
理解してしまった。
だが、どうにもならない。
「……今さら、だな」
彼女は、もう戻らない。
戻る理由が、どこにもない。
温泉郷。
「……そろそろ、夕飯ですね」
立ち上がるリヴォルタの足取りは、軽い。
誰かを救おうとしていない。
誰かの期待に応えようともしていない。
それなのに。
彼女が歩いた道では、
転ぶ者も、躓く者もいなかった。
宿の主人が、しみじみと呟く。
「本当に、不思議な方ですね」 「そうですか?」 「ええ……来ていただいてから、
この辺り、何も起きないんです」
リヴォルタは、少しだけ首を傾げて笑った。
「……良いことですね」
その夜。
露天風呂で肩まで湯に浸かりながら、彼女は目を閉じる。
「……今日も、何もしませんでした」
満足そうな声。
その言葉と同時に、
遠くで吹き荒れていた不安と混乱が、
また一つ、静まっていく。
こうして――
何もしない聖女の日常は、完全な形で完成した。
誰にも評価されず、
誰にも命じられず、
ただ“在る”ことで、世界を守る。
それが、この物語の
最も静かで、最も強い結末へと向かう道だと、
まだ誰も、声に出しては言わなかった。
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