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第二十八話 甘味の道、王の道
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第二十八話 甘味の道、王の道
山越え街道の整備が始まって二か月。
北東の空はいつもより澄み渡っていた。乾いた風が吹き、粉を守り、乳を守り、そして結晶を美しく育てる。
私は新設中の中継倉庫の前に立っていた。
「ここが第二氷室になります」
設計図を広げながら説明する。
「冬の間に氷を大量に蓄え、春から夏にかけて乳と生地を安定させます。北は寒い。ただそれだけではなく、“寒さを管理できる土地”ですわ」
工房長が深く頷く。
「港を押さえられても、山がある。山がある限り、北は止まりませんな」
私は微笑む。
甘味の道は、南方の船だけではない。
北の地形そのものが、私たちの味方だ。
王都では、別の動きがあった。
王太子が北を公式訪問すると発表したのだ。
理由は“視察”。
実質は圧力だ。
甘味が王国の経済に影響を与え始めた以上、無視できなくなったのだろう。
訪問の日。
北の広場には人が集まっていた。
てんさい畑の向こうから王家の旗が見える。
私は正面に立つ。
王太子は馬車から降りると、私を見た。
ほんの一瞬、視線が交わる。
「……久しいな」
「ご無沙汰しております」
儀礼的な挨拶。
それ以上でも、それ以下でもない。
王太子は工房を見学する。
製糖釜。
乾燥室。
結晶棚。
氷室。
乳加工場。
そして茶房。
ふわりと甘い香りが漂う。
「これが、北糖か」
「ええ」
彼は白砂糖を指でつまむ。
「本当に、てんさいから作っているのか」
「理に従えば、可能ですわ」
彼は黙る。
視察の最後、茶房で試食が行われた。
硬いパンしかなかった世界に現れた、ふわふわのパンケーキ。
白い粉雪のような砂糖。
軽い甘味。
王太子は一口食べ、静かに息を吐いた。
「……これは、流行ではないな」
私は答えない。
わかっているはずだ。
甘味は一過性ではない。
生活を変える。
経済を変える。
王国の構造を変える。
視察後、王太子は正式に声明を出した。
“北の製糖業を王国の基幹産業として認定する”
南方商会の独占は崩れる。
港の輸送制限も緩和される。
山道整備と港の再開。
二本の道がつながる。
甘味の道が、王の道になる。
夜、私は一人で広場を歩く。
看板にはこう書かれている。
――北のお菓子の国。
それはもう、誇張ではない。
てんさい畑は広がり、雇用は増え、税収は安定し、学校も建設中だ。
甘味は娯楽ではなく、産業だ。
私は空を見上げる。
星が瞬く。
白砂糖の結晶のように。
婚約破棄されたあの日、私は価値を否定された。
だが今、王国は北を中心に回り始めている。
王太子は去り際、こう言った。
「……お前は変わったな」
私は心の中で答える。
いいえ、変わったのは世界です。
甘味の道は完成した。
だが、まだ終わりではない。
次は、技術の拡張。
砂糖を使った保存食。
輸出。
隣国。
北の甘味は、国境を越える。
冷たい風が頬を撫でる。
その風の中に、甘い香りが混じっている。
北は、もう誰にも軽んじられない。
ここは、甘味の王国。
そして私は、その中心に立っている。
山越え街道の整備が始まって二か月。
北東の空はいつもより澄み渡っていた。乾いた風が吹き、粉を守り、乳を守り、そして結晶を美しく育てる。
私は新設中の中継倉庫の前に立っていた。
「ここが第二氷室になります」
設計図を広げながら説明する。
「冬の間に氷を大量に蓄え、春から夏にかけて乳と生地を安定させます。北は寒い。ただそれだけではなく、“寒さを管理できる土地”ですわ」
工房長が深く頷く。
「港を押さえられても、山がある。山がある限り、北は止まりませんな」
私は微笑む。
甘味の道は、南方の船だけではない。
北の地形そのものが、私たちの味方だ。
王都では、別の動きがあった。
王太子が北を公式訪問すると発表したのだ。
理由は“視察”。
実質は圧力だ。
甘味が王国の経済に影響を与え始めた以上、無視できなくなったのだろう。
訪問の日。
北の広場には人が集まっていた。
てんさい畑の向こうから王家の旗が見える。
私は正面に立つ。
王太子は馬車から降りると、私を見た。
ほんの一瞬、視線が交わる。
「……久しいな」
「ご無沙汰しております」
儀礼的な挨拶。
それ以上でも、それ以下でもない。
王太子は工房を見学する。
製糖釜。
乾燥室。
結晶棚。
氷室。
乳加工場。
そして茶房。
ふわりと甘い香りが漂う。
「これが、北糖か」
「ええ」
彼は白砂糖を指でつまむ。
「本当に、てんさいから作っているのか」
「理に従えば、可能ですわ」
彼は黙る。
視察の最後、茶房で試食が行われた。
硬いパンしかなかった世界に現れた、ふわふわのパンケーキ。
白い粉雪のような砂糖。
軽い甘味。
王太子は一口食べ、静かに息を吐いた。
「……これは、流行ではないな」
私は答えない。
わかっているはずだ。
甘味は一過性ではない。
生活を変える。
経済を変える。
王国の構造を変える。
視察後、王太子は正式に声明を出した。
“北の製糖業を王国の基幹産業として認定する”
南方商会の独占は崩れる。
港の輸送制限も緩和される。
山道整備と港の再開。
二本の道がつながる。
甘味の道が、王の道になる。
夜、私は一人で広場を歩く。
看板にはこう書かれている。
――北のお菓子の国。
それはもう、誇張ではない。
てんさい畑は広がり、雇用は増え、税収は安定し、学校も建設中だ。
甘味は娯楽ではなく、産業だ。
私は空を見上げる。
星が瞬く。
白砂糖の結晶のように。
婚約破棄されたあの日、私は価値を否定された。
だが今、王国は北を中心に回り始めている。
王太子は去り際、こう言った。
「……お前は変わったな」
私は心の中で答える。
いいえ、変わったのは世界です。
甘味の道は完成した。
だが、まだ終わりではない。
次は、技術の拡張。
砂糖を使った保存食。
輸出。
隣国。
北の甘味は、国境を越える。
冷たい風が頬を撫でる。
その風の中に、甘い香りが混じっている。
北は、もう誰にも軽んじられない。
ここは、甘味の王国。
そして私は、その中心に立っている。
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