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第三十六話 白い泡の革命
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第三十六話 白い泡の革命
王都にパンケーキが根付いたころ、私は次の壁を見据えていた。
――クリーム。
ふわふわの生地に、白い泡が乗れば、人はもう戻れない。
だが王都は湿度が高い。乳は傷みやすく、泡はすぐに潰れる。
「北では成功しているのに……」
王都店の支配人が肩を落とす。
「温度は確保できています。しかし、泡立てた直後から水が浮いてきます」
私はクリームの入った鉢を覗き込む。
分離しかけている。
湿度と微細な温度差。
わずかな条件が、泡を壊す。
「泡は空気ですわ。空気が湿れば、泡は弱る」
私は前世の知識を呼び起こす。
脂肪分を高める。
温度を一定に保つ。
糖度を微調整する。
「乳脂肪率を上げましょう」
「牛の改良を?」
「いえ、分離技術の強化を」
北の冷却室で遠心分離の簡易装置を試作する。
重力式だが、冷気と乾燥を併用すれば十分。
数日後。
乳脂肪を高めたクリームが完成する。
再び王都へ。
湿度五十五の店内。
「温度、四度を維持」
「乾燥石、最大出力」
泡立て開始。
金属鉢が冷気を帯びる。
回転、回転。
白い泡が立ち上がる。
「……止めて」
角が立つ。
潰れない。
しばしの沈黙。
「乗せますわ」
パンケーキの上に、白い泡。
雪の山のよう。
私はスプーンで少しすくい、口に運ぶ。
なめらか。
軽い。
そして甘い。
「成功です」
支配人が涙ぐむ。
「王都でも……できました」
その日、限定で“白雲パンケーキ”を出した。
一口目で客が静止する。
「……溶ける」
「何だこの白いものは」
「甘いのに、重くない」
列がさらに伸びる。
噂は瞬く間に広がる。
王都初の本格クリーム。
甘味の第二段階。
夜、報告が届く。
「南方の商人が、乳製品技術の提携を希望」
甘味は、もはや砂糖だけではない。
乳、粉、湿度、温度。
総合技術。
私は静かに頷く。
「北は寒冷地。乳の保存に向いています」
不利だと思われた寒さ。
それが武器になる。
翌日、学院で講義を行う。
「甘味は、味覚だけではありません」
黒板に図を描く。
脂肪分。
温度曲線。
湿度管理。
「条件を理解し、設計する。それが革命です」
学生たちは真剣に聞き入る。
甘味の国は、学問の国へ。
夜、私は窓辺に立つ。
王都の灯りが遠くに見える。
あの日、絶望した。
カフェは不可能。
砂糖は高い。
乳は腐る。
粉は死ぬ。
だが今、王都で白い泡が立っている。
「甘味は、諦めない者の味ですわ」
私は微笑む。
次は何を設計しようか。
アイスか。
湿度五十五の都で凍る甘味。
甘味の革命は、まだ終わらない。
王都にパンケーキが根付いたころ、私は次の壁を見据えていた。
――クリーム。
ふわふわの生地に、白い泡が乗れば、人はもう戻れない。
だが王都は湿度が高い。乳は傷みやすく、泡はすぐに潰れる。
「北では成功しているのに……」
王都店の支配人が肩を落とす。
「温度は確保できています。しかし、泡立てた直後から水が浮いてきます」
私はクリームの入った鉢を覗き込む。
分離しかけている。
湿度と微細な温度差。
わずかな条件が、泡を壊す。
「泡は空気ですわ。空気が湿れば、泡は弱る」
私は前世の知識を呼び起こす。
脂肪分を高める。
温度を一定に保つ。
糖度を微調整する。
「乳脂肪率を上げましょう」
「牛の改良を?」
「いえ、分離技術の強化を」
北の冷却室で遠心分離の簡易装置を試作する。
重力式だが、冷気と乾燥を併用すれば十分。
数日後。
乳脂肪を高めたクリームが完成する。
再び王都へ。
湿度五十五の店内。
「温度、四度を維持」
「乾燥石、最大出力」
泡立て開始。
金属鉢が冷気を帯びる。
回転、回転。
白い泡が立ち上がる。
「……止めて」
角が立つ。
潰れない。
しばしの沈黙。
「乗せますわ」
パンケーキの上に、白い泡。
雪の山のよう。
私はスプーンで少しすくい、口に運ぶ。
なめらか。
軽い。
そして甘い。
「成功です」
支配人が涙ぐむ。
「王都でも……できました」
その日、限定で“白雲パンケーキ”を出した。
一口目で客が静止する。
「……溶ける」
「何だこの白いものは」
「甘いのに、重くない」
列がさらに伸びる。
噂は瞬く間に広がる。
王都初の本格クリーム。
甘味の第二段階。
夜、報告が届く。
「南方の商人が、乳製品技術の提携を希望」
甘味は、もはや砂糖だけではない。
乳、粉、湿度、温度。
総合技術。
私は静かに頷く。
「北は寒冷地。乳の保存に向いています」
不利だと思われた寒さ。
それが武器になる。
翌日、学院で講義を行う。
「甘味は、味覚だけではありません」
黒板に図を描く。
脂肪分。
温度曲線。
湿度管理。
「条件を理解し、設計する。それが革命です」
学生たちは真剣に聞き入る。
甘味の国は、学問の国へ。
夜、私は窓辺に立つ。
王都の灯りが遠くに見える。
あの日、絶望した。
カフェは不可能。
砂糖は高い。
乳は腐る。
粉は死ぬ。
だが今、王都で白い泡が立っている。
「甘味は、諦めない者の味ですわ」
私は微笑む。
次は何を設計しようか。
アイスか。
湿度五十五の都で凍る甘味。
甘味の革命は、まだ終わらない。
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