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第三十七話 凍る甘味の設計図
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第三十七話 凍る甘味の設計図
クリームが王都に根づいた翌週、私は氷室の前に立っていた。
北の氷は硬く、青い。
冬に切り出した湖の氷を、地下深くの石室で保存する。湿度は低く、温度は安定している。天然冷蔵庫どころか、天然冷凍庫だ。
「……いけますわ」
呟いた瞬間、工房長が目を丸くする。
「まさか」
「ええ。凍らせます」
王都では夢物語。だが北では可能だ。
問題は、ただ凍らせるだけでは“氷の塊”になること。
口溶け。
滑らかさ。
氷の結晶を小さく保つ。
私は前世の記憶をたどる。
砂糖は氷点を下げる。
塩はさらに下げる。
氷と塩を混ぜれば、温度は一気に下がる。
「桶を用意して」
木桶に氷と塩を詰める。
中央に金属容器を設置。
乳脂肪高めのクリーム、てんさい糖、卵黄少量。
撹拌。
冷却。
再び撹拌。
「……固まり始めました」
職人が息を呑む。
さらに回す。
滑らかさを保つ。
数十分後。
白い、なめらかな塊。
私は木匙ですくい、口に運ぶ。
冷たい。
甘い。
そして、溶ける。
「完成です」
静寂。
やがて、歓声。
「氷菓……!」
北の甘味は、次の段階へ進んだ。
問題は王都。
湿度五十五。
だが、冷却室と氷塩桶を組み合わせれば、短時間なら提供できる。
王都店に試験導入する。
「本日限定、凍る甘味」
貴族たちは半信半疑。
銀の器に盛られた白い氷菓。
一口。
「……冷たい」
「甘い……!」
「溶ける……!」
ざわめきが広がる。
王都で“氷の菓子”。
これは事件だ。
だが当然、問題も起きる。
「氷の供給が追いつきません」
支配人が報告する。
氷は有限。
夏になればさらに貴重。
「氷の輸送路を整備します」
北から王都へ、断熱箱で運ぶ。
蜜蝋と羊毛で包み、氷室直行。
費用はかかる。
だが、利益はそれを上回る。
さらに私は考える。
「王都にも氷室を作りましょう」
地下深く、石壁で囲う。
北式の設計図を渡す。
湿度管理も併設。
甘味は建築と結びつく。
数週間後、王都に小型氷室が完成。
凍る甘味は常設メニューとなる。
新聞が書き立てる。
――王都に冬が来た。
夜、私は氷室に一人立つ。
冷気が頬を刺す。
婚約破棄の日、私は凍える心で立っていた。
あの冷たさは、絶望だった。
だが今の冷たさは、設計された希望。
北は寒い。
湿度は低い。
不利だと笑われた土地。
だが今や“北のお菓子の国”。
砂糖、粉、クリーム、氷。
すべてが揃った。
私は氷菓を一口。
甘く、冷たい。
「凍る甘味も、悪くありませんわ」
甘味は、止まらない。
北から王都へ。
冬の革命は、まだ続く。
クリームが王都に根づいた翌週、私は氷室の前に立っていた。
北の氷は硬く、青い。
冬に切り出した湖の氷を、地下深くの石室で保存する。湿度は低く、温度は安定している。天然冷蔵庫どころか、天然冷凍庫だ。
「……いけますわ」
呟いた瞬間、工房長が目を丸くする。
「まさか」
「ええ。凍らせます」
王都では夢物語。だが北では可能だ。
問題は、ただ凍らせるだけでは“氷の塊”になること。
口溶け。
滑らかさ。
氷の結晶を小さく保つ。
私は前世の記憶をたどる。
砂糖は氷点を下げる。
塩はさらに下げる。
氷と塩を混ぜれば、温度は一気に下がる。
「桶を用意して」
木桶に氷と塩を詰める。
中央に金属容器を設置。
乳脂肪高めのクリーム、てんさい糖、卵黄少量。
撹拌。
冷却。
再び撹拌。
「……固まり始めました」
職人が息を呑む。
さらに回す。
滑らかさを保つ。
数十分後。
白い、なめらかな塊。
私は木匙ですくい、口に運ぶ。
冷たい。
甘い。
そして、溶ける。
「完成です」
静寂。
やがて、歓声。
「氷菓……!」
北の甘味は、次の段階へ進んだ。
問題は王都。
湿度五十五。
だが、冷却室と氷塩桶を組み合わせれば、短時間なら提供できる。
王都店に試験導入する。
「本日限定、凍る甘味」
貴族たちは半信半疑。
銀の器に盛られた白い氷菓。
一口。
「……冷たい」
「甘い……!」
「溶ける……!」
ざわめきが広がる。
王都で“氷の菓子”。
これは事件だ。
だが当然、問題も起きる。
「氷の供給が追いつきません」
支配人が報告する。
氷は有限。
夏になればさらに貴重。
「氷の輸送路を整備します」
北から王都へ、断熱箱で運ぶ。
蜜蝋と羊毛で包み、氷室直行。
費用はかかる。
だが、利益はそれを上回る。
さらに私は考える。
「王都にも氷室を作りましょう」
地下深く、石壁で囲う。
北式の設計図を渡す。
湿度管理も併設。
甘味は建築と結びつく。
数週間後、王都に小型氷室が完成。
凍る甘味は常設メニューとなる。
新聞が書き立てる。
――王都に冬が来た。
夜、私は氷室に一人立つ。
冷気が頬を刺す。
婚約破棄の日、私は凍える心で立っていた。
あの冷たさは、絶望だった。
だが今の冷たさは、設計された希望。
北は寒い。
湿度は低い。
不利だと笑われた土地。
だが今や“北のお菓子の国”。
砂糖、粉、クリーム、氷。
すべてが揃った。
私は氷菓を一口。
甘く、冷たい。
「凍る甘味も、悪くありませんわ」
甘味は、止まらない。
北から王都へ。
冬の革命は、まだ続く。
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