転生した精霊モドキは無自覚に愛される

suiko

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第一章

~48~

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「なんだねこれは?」


人が入ってもなお余裕のありそうな檻の中には、不定形な、まるで泥を積んだかのような黒いドロリとしたモノがあった。


「私達で調べた所、生き物ではないか、と
魚を好んで食べますが、排泄物らしいものが見られないんですよね」

「ふむ・・・体表から常に原油を精製する生き物など、普通なら考えられないな」

「三ヶ月程前に分裂して、これよりも小さい個体も原油を垂れ流してます。
単一生物、なのか、不明な事は多いですが油は有効活用出来るので正直助かってはいますがね」

「飼い鳴らせる事が出来るのならそれに越した事はないな
ただ、これが生物なら寿命や病気なども有り得るからな」

「そうなんですよね」


檻の隙間からボタボタと黒く光を反射する重さを感じさせる液体は確かに油特有の臭いをしていた。
人狼やら妖精やら、人ならざる者達といい
この世界は神秘に溢れているものだ。


「原油の分留装置はあちらの方にあります。保存庫はむこう側に、いずれも火気厳禁ですからね」

「案内頼む」


私がいなかった間に随分と様変わりしたものだ。
港町は多くの人で賑わっている。
 
漁業会と協力関係となったものの、私がした事はそうたいしたものではなく
私のもつ知識を少しばかり提供したくらいのものだ。というのに、彼らは義理堅い面があるようで度々呼び出しを受けることがある。

案内されている道すがら、海の上を飛行機が飛んでいる。小型エンジン搭載型だろう。
テスト飛行なのだろうそれは無惨にも海面へと落ちていった。
歩く人は薄汚れた作業服を着ており、活気に満ちている。


「おお?!聖女様じゃねぇか久しぶりだなぁ!」

「うわ!マジだ!聖女様が来た!」

「聖女様ーっ!」


「すみません、騒がしくて」

「別に構わんよ。ここまで歓迎される謂れはわからんがな」

「ええ?港町でミーシャ様を知らない人は居ないってくらい人気ですよ?」

「私が不在の間何があったか知らんが、興味無いな」

「そう言いながらもなんだかんだで付き合いが良い所も人気の理由なんですがねぇ
ま、一番の理由はミーシャ様の書いた本ですよ。
フロイライン出版の本は技術者や発明家に大人気でしてね。ちなみに私の愛読書は『社会と経済』です」

「そうか」


私としてはその気は無かったのだが、漁業会の者達のやる気に火をつけてしまっていたようだ。
王権が力を無くしつつある現状、私が王妃になったとて回復どころか逆に王政終了となるのが目に見える。
二年から三年僅か、それまでに彼等がどう動くか把握して置かねばならないだろう
いっそ王族が何がしかの大きな失態でもすれば話は速いのかもしれないが、先日の謁見での様子を見るに陛下も現状維持は難しいと考えのようで諦めが浮かんでいた為その必要も無いだろう。
国唯一の侯爵家の娘としてではなく、漁業会と強く繋がりのある私個人に頭を下げてきたあたり、覚悟は出来ているように思えた。

ふと、頭に私と同じ黒髪の女性の姿が思い浮かぶが、彼女は異世界者である、この国の現状を全くといっていい程知らない赤の他人だ。
彼女が元の世界に帰れるか否かは知らないが、ローズ・ブロッサムの話を聞く限りその可能性はゼロに近いだろう
ある意味『ゲーム』とやらの被害者ともいえるだろう
とは言え、



「例の聖女を騙る女がまた何かやってんだって?」

「そうそう、ぜいきん?だとかなんとか、国民から金をむしり取ろうとしてるらしいぜ。全く何様のつもりだか」

「うへぇ、あったまおかしいんじゃないのか?」

「イカれてんじゃねぇのか?自分の元いた国じゃどーのこうの言ってんが、んなもん知るかってのなぁ」



彼女は彼女個人で随分とヘイトを稼いでいるらしい
何をしたいのやら不明だが、彼女なりにこの世界で生きる事に積極的な様子なので何も言うまい

「ミーシャ様、良いのですか?」

「良い、とは?」

「例の聖女擬きですよ。漁業会の者達も迷惑をかけられていましてね。スポンサー?とやらになってやるとか、びっぷ?対応しろとか」

「成程、おおかた金を積むから特別対応をしてくれとでも言われたか」

「ご名答。最近では役所の方で所得税やら消費税やら言ってくるんです。しかも妙に中途半端に詳しくて言いくるめるのに苦労しているとか」

「それは君達が対処すべき事だろう、お客人の理不尽な不平不満に対応するのも仕事の内さね」

「ええ・・ミーシャ様から彼女にガツン、と言って貰えれば一発だと思うんですがね」

「他人の事だからな」

「まぁ・・・確かにそうですがね」


彼女の元いた世界とこの世界は別物だ。
成り立ちや歴史、一般常識とて相互理解は難しいだろうに
だからといって助言をしてやる気も更々無いのだが

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