スパダリ社長の狼くん

soirée

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第二章

五話

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翌朝、社内に満ちる妙な空気に忍は眉を寄せた。今までは敬意を持って彼を見つめていた社員たちが、浮き足立っている。

怪訝な顔をしながら社長室に入った忍の傍に控えた秘書が声を顰めた。
「社長。あの青年に関わるのは金輪際おやめになってください。あなたがどのような状況に置かれているのか、彼には理解をしようという気配すらない……あなたはこの会社の社長です。次期社長を育てる義務もあれば、今現在の社員たちの生活を背負ってもいる。軽率な行動はお控えください」

 その指先が数枚の写真を忍のデスクに並べる。ぎょっとしたように忍が動きを止めた。
 瞬とのプライベートがすべて撮られている。唇を重ねているものさえあった。
「今朝、会社のエントランスに貼り出されていたものです。私が回収しましたが、数人の社員は目にしてしまいました。噂には尾鰭も背鰭もつくでしょう」
「……だから何だっていうんだい? 僕がプライベートで誰を恋人にしようと……」
反論しかけた忍の瞳を秘書が覗き込む。
「こんなことを何度も言わせないでください。貴方にはS Tグループの後継者を育てる義務がおありだと申し上げましたでしょう。女性をお迎えください」
 後継者。子供を作れと、そういうことだ。無意識に募る苛立ちに、指先がデスクの一番上の引き出しに伸びる。滅多なことでは吸わない煙草に火をつけた忍に、秘書が苦言を飲み込む。
「……私は進言しましたよ。貴方のことを敬愛しています。こんなことで潰されて欲しくない」
「槙野。言葉が過ぎる。僕を誰だと思っている?」

 冷たい響きの忍の声に、槙野と呼ばれた秘書は黙って視線を外へと投げた。

(社長は何も見えなくなっている……わからせるならあちらだな……)

その言葉のナイフが、瞬を忍から引き剥がすまであと数刻。


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