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第二章 私は笑顔の下で牙を剝く
誓約書とピンクダイヤ
しおりを挟む「大金貨百枚で書かせたよ」
とっても良い笑顔でジル様は、私に控えを見えてくれました。アリシアお姉様もニコニコです。
インフル男爵が提示した金額の十分の一。ピンクダイヤもなしで、さすが商人ですね。インフル男爵の件といい、見事な手腕です。
書かせたのは、魔法による誓約書です。これを破ることは何人たりとも許されません。破ると呪いという神罰が下りますからね。誓約書は魔法紙にのみ記され、神殿に一部、双方に控えを一部づつ持つことになります。
【アリシア・カシムは、この誓約書をもって、カシム伯爵家から離籍する。今後一切、双方とも連絡及び会うことを禁ずる】
書かれている内容は、至ってシンプルでした。しかし、要点は踏まえてます。
「これで完全に縁が切れましたね。それにしても、よくインフル男爵の尻尾掴めましたね?」
「別に、尻尾は掴んでないよ。ただ、あの鬼畜が買い占めていた薬草と、彼の領地で栽培している薬草を提示しただけだよ」
「その薬草、どちらも取り扱い許可書がいる薬物だったのですか? だとしても……」
薬師の一族のインサル男爵なら、当然、許可書を持っていますよね。
「そう。栽培することや取り寄せること自体は罪には問われない。許可書を持ってれば。だけどね、それを合わせるのは禁止されてるんだ」
だから、薬草の名前を教えてくれないのですね。
「劇薬になるのですか?」
「そう。悪魔の血って知ってるかい?」
「悪魔の血……確か、不死の狂人を作り出すものですよね。でもそれって、伝説上のものでは?」
「博識だな。それを、作り出そうとしたんだよ。薬師や錬金術師の一部では知られてるんだけどね、材料はその薬草だけじゃないが、他の材料も揃っていた。疑似悪魔の血って言えるかな。痛みを感じることなく、戦い続けることができるんだ。副作用が強すぎて、大半は死ぬ」
「……そうですか。何故、そんなものを作ろうとしたのでしょう?」
アリシアお姉様は真っ青ですわ。そうなりますよね。私も真っ青ですもの。
「さぁ~それはわからない。管轄外だ」
「ですよね」
好奇心は身を滅ぼします。突っ込むと火傷では済まされないでしょう。いらない腹を探られますわ。
「その事実を、俺はあの毒親たちに教えた。そしたら、慌てて手を引いたよ。親切だから、お前たちが繋がっている証拠を持っていると、さらに教えてやった」
それはそれは、さぞかしあの二人は震えたでしょうね。
「なら、お金を払わさずに誓約書を書かせることができたのでは?」
わりかし素直に書いてくれたと思います。
「それをしたら、恐喝だ。だから、敢えてお金を支払った」
確かにそうですね。
中途半端の額ではなく、大金貨百枚支払えば、表沙汰になっても恐喝にはならないでしょう。話し合いで通せますわ。私なら、そこまで頭は回らなかったでしょう。
「なるほど、勉強になります」
「勉強になるようなことしてないけどな。ただ言えるのは、攻撃を仕掛ける時は、必ず、すぐに逃げられる場所を作っておくべきだ。全てを投げ売って戦うのは馬鹿のやることだと、俺は思う。現に、フリーシアはとっくにそうしてるだろ?」
逃げられる場所。
それはたぶん……冒険者のことでしょう。少なくとも、今放り出されて平民になっても、私は自分の足で歩いていけます。
「はい……そうですね、逃げ場を確立していれば、思い切った攻撃もできますし」
クスリと私は笑います。
そんな私を見て、アリシアお姉様は「フリーシアって、ほんと、英才教育受けてるわよね」とポツリと呟きます。ジル様はそんなアリシアお姉様が、とても可愛いようですね。幸せのお裾分けが貰えて、私も幸せですわ。
「そういうことだ。それで、フリーシアが気になっていたピンクダイヤだけど、あれ、強欲娘がねだったみたいだぞ」
「……そうですか」
やっぱりというか、予想はしてましたわ。だって、あの子、ピンクが異様に好きですからね。
「驚かないんだな?」
「予想はしてましたわ。お茶会、全身ピンクがザラですよ。セッティングされたテーブルクロスも、全部ピンク。クッションもですわ。カシム夫妻もわざわざピンク色の物を探してますしね」
そこまで言って、私は一旦言葉を切り告げました。その声は思いのほか、低いものでしたけど。
「それに、誕生日が近いですからね」
リーナ様の誕生日は三月の始めですわ。三か月も前から、お茶会でそれとなくですが強請られてますからね。買うつもりなんて、更々ありませんけど。
貰ってませんからね、リーナ様からもレク様からも。私は一応無難な物は贈りましたけど、レク様には。そこら辺に売っている、お高そうに見える羽根ペンですわ。
「……そうか、わかった。フリーシアの要望していた通り、首の皮一枚で残しておいたから。よほど、無能じゃなければ数年は保つ。あと……ここだけの話だが、ダイヤモンド鉱山、年々、発掘量が少なくなっているそうだ」
さすが商人ですわ。とても有意義な情報です。
「つまり、あと数年で枯渇するかもしれないと」
「それを見越して、発掘量を減らしている可能性もあるけどな」
その顔は、ないと言ってますね。激しく同意ですわ。
「そこまでの経営能力があるかは、甚だ疑問ですけど、どちらにせよ、六年は保つか保たないかって所を考慮してくれたのですね。ありがとうございます」
「可愛い妹のためだから、お兄さんは頑張るよ。あと、このカフェ俺の店だから、俺たちが隣国に戻っても、ここ経由ですぐに連絡取れるからね」
納得です。大事な話を結界を張っていたとはいえ、普通のカフェではしませんものね。それにしても、怖くなるくらいの至れり尽くせりです。節度を持って甘えることにしましょう。
「ありがとうございます、ジルお兄様」
「う~ん、お兄様じゃなくて、お兄ちゃんって呼んで」
変な注文をされました。別に構いませんわ。
「ジルお兄ちゃん」
「うんうん、やっぱりお兄ちゃんだな」
一人感激してますけど、大丈夫ですか?
「気にしなくてもいいわよ、フリーシア。ジル、前から妹が欲しかったのよ」
「そうなんですか、わかりました」
家族って、こうやって増えていくのですね。私には、最高の家族ですわ。
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