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第六章 私の幸せは自分で決めます
赤の他人になった日
しおりを挟む単位と出席日数は十分稼げているので、急にギルマスのジェイクに呼び出されても大丈夫。
緊急クエストは、新しく発見された魔窟の調査依頼でした。主に、ランク付けのための調査ですね。出没する魔物の強さと種類、内部の構造、おおよその階数。深くは潜りませんから、五階以上かないかくらいですけどね。未知な土地なために、シルバーランクである私が、急遽呼び出されたわけです。プレートが光った時は、ほんと吃驚しましたわ。
急いで準備して冒険者ギルドに向かうと、王都から近い位置での発見に、ギルド内は朝からお祭り騒ぎでした。早朝なのに、出来上がっている人もいましたわ。
魔窟とは、魔素が一定数溜まると稀に出現する現象です。今回は洞窟タイプでしたが、神殿や塔などの構造のものも存在します。簡単に言えば、ダンジョンが生まれたってことですね。幸いなことに、ダンジョン内で生まれた魔物は、ダンジョンから出ることはできません。反対はありますが、ダンジョンに近付くことはまずありませんね。
それで、何故、冒険者が浮かれているのか?
それは、一獲千金のチャンスが舞い込んだからです。ダンジョン産の魔石とか鉱石、ドロップ品、魔物の肉は、それぞれ高品質であり、プレミア物。小指の先ほどの小さな鉱石で、数年は遊んで暮らせます。結果、冒険者ははしゃぐし集まって来るというわけ。
でも、今回最寄りギルドは王都。経済的に益々豊かになるのはいいですけど、反対に治安は悪くなるのは避けたい。これから色々大変でしょうね。
近場とはいえ、向かうは認定前のダンジョン調査、それなりに準備は必要なので、出発は二時間後になりました。ポーションや食料を買い込み、毛布などの泊まり込み用の準備をし、キョウと再び冒険者ギルド前で待ち合わせ。約束の時間前ですが、揃ったので出発です。
「エクシリアの森か……」
エクシリアの森――
オリエンテーションをした森です。魔熊の棲息地はその森の奥深く。
魔熊が浅い場所に移動したのは、魔窟が生まれるのを本能的に感じたからかもしれません。小熊を連れていましたし。巣に帰るのを拒否したのも魔熊にとっては子を護るため。だとしたら、討伐したのは正解でした。餌が豊富だと学習されたら困りますから。
息を吐く音ぐらいの小さな声でしたが、キョウの耳には届いていました。
「この前、魔熊の親子が出た森だよな。討伐したの、シアだろ?」
当たり前のように訊いてきます。思わず、反応しちゃいましたよ。
「提出した映像、確認が来たんだ、ジェイクさんの所に。ちょうど、俺もいて……」
気まずそうにキョウは話を続けます。
あ~だからか!! 騎士団の人もそれが仕事だし、仕方ないですよね。いつかはバレるとは思っていたし。ジェイクには、学校に通っていることは話していましたから。
「できれば、今は内緒にしていてほしい。後三年ほどでいいから」
私がそう頼むと、キョウはニカッと笑い、私の背中を叩きました。
「安心しろ。元々、誰にも話すつもりはねーよ。冒険者なんて、大半が、それなりの過去を背負ってるしな。だから、偽名で登録できるだろ。まぁでも、犯罪者は試験に受かっても登録できないけどな」
確かに、偽名ですんなり登録できましたね。
「あ~あの水晶」
試験終了後に、水晶に触れるよう言われたのを思い出しました。
「そう。あれが赤く光ったら、犯罪者」
なるほど、私は青色でした。
「因みに、赤だったらどうなるんだ?」
「決まってるだろ、ボコって簀巻きにして、詰め所に連れて行く。中にはいるんだよな~犯罪者」
「……そうなのか」
それは、暗殺などを生業にしていた者かしら? 冒険者ギルドの実技試験に受かる犯罪者って、それしか思いつかない。
そんな話をしながら、西門に向かって早足で歩いていると、目の前の大通りを見知った馬車が通り過ぎて行き、停まりました。
あれは、私の家の……
何度か利用していましたから覚えています。思わず立ち止まる私。キョウさんも私の隣に立ち、無言で馬車を見ていました。
降りて来たのはカシム伯爵夫妻、そして、ピンクお化けとレク様でした。
ピンクお化けはカシム伯爵夫妻の間ではしゃいでいます。レク様は、そんな妹を優しい目で見ながら、一緒に仲良く、高級そうなお店に入っていきました。
「知ってる奴らか? 仲良い親子だな」
キョウさんの目から見れば、そう映るでしょうね。十人中、十人が仲良し親子だと思うほど、彼らはしっくりときていました。
正直、私はカシム伯爵夫妻を親だとは思っていません。だからといって、心と頭は違います。理屈で推し量れない所が人にはありますから。
間近でこの光景を見た時、動揺するかと思いましたが、意外と平気でした。
不快さも、苛立ちも、怒りも、悲しみさえも感じません。情が冷めきったのでしょう。そこら辺で転がっている石を見ているようです。そんな自分に少し驚きました。
同時に、悟ります。
完全に、私の中で彼らは親ではなくなっていたことを。ただの赤の他人になっていたことを、改めて再確認できました。
レク様が生徒会室に突撃しなかったのは、リーナ様の相手で忙しいからですね。今日も、学園を休んでいるようですし。この状態だと、学園に登校していても、リーナ様のことで頭が一杯なのでしょう。視野が狭く、一直線な所がありますから。
停学中なんて関係がない。外聞なんてなんのその。今日も、おおかた、ピンクお化けがまた何かをねだったのでしょう。この調子なら、財政が底をつくのは、考えていた時期より早まりそうですね。
財政など考える必要はない。家族全員で愛しい者の機嫌を取る方が、何よりも重要なのだから。
「……いや、知らない。仲良し親子だな」
赤の他人がどうなろうと関係ないですね。
私は普通にそう答えると、西門に向かって歩き出しました。
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