もし世界が明日終わっても、私は君との約束だけは忘れない

井藤 美樹

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後悔はしていない

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「今、病院から電話があったわ。検査入院が来週の月曜日に変更になったって。もしかして、電話したの?」

 リビングに顔を出したら、お母さんから速攻訊かれた。

「うん、朝イチで電話した」

 土曜日だから、繋がるか分かんなかったけどね。ましてや、すんなり許可してくれるなんて思ってもいなかった。ダメ元で電話掛けてみたの。病気が病気だからかな、未歩ちゃんの件といい、かなり融通してくれるみたい。少し、複雑な気分になった。

「どうして!?」

 厳しくて鋭い、お母さんの声。

 ――相談もなく、そんな勝手な真似を。

 たぶん、その台詞が続くんだろうね。両親にとっては、面白くない展開だと思う。理由なんて、わざわざ聞かなくても分かってるのに、私の口から言わしたいのかな。

 内心そう思ったけど、口には出さない。別に、両親が嫌いなわけじゃない。好きか嫌いかって訊かれたら、好きって答えるし、二人のこともそれなりに尊敬はしている。世間から見たら、良い親だと思うよ。

 でもね……これは、それとは関係ない。

「大学病院の先生は、最低三週間って言ってたでしょ。なら、延びる可能性も十分あるよね。そうなったら、学校休む必要も出てくるでしょ。なら、前倒しした方がいいと思って。学校も、遊びも、私には大切だから」

 無難な返答。だけど、最後の台詞の時だけ、私は両親に視線を合わせた。

 誰でも大切なものはあると思うし、譲れないものもあると思う。それを守るために意地を張って、我を通すのは、周りを考えていないって受け取られるかもしれない。

 責められることなのかもしれない。

 酷いと受け取られるかもしれない。

 普通なら、周りを少しは見て、あまり我を通すことはしないよ。ここまで強く、言うことなんてしなかった。

 でもね……それは時間があるからなんだよ。漠然でもいい、未来を夢見ることが出来るからなんだよ。だから、折り合いを付けることが出来るの。

 新薬がどれ程効くか分からない。

 効かないのかもしれない。

 投与することさえ、出来ないかもしれない。

 この瞬間、鎮静化している遺伝子が活性化するかもしれない。

 どう転んでも、私に残された時間は、お母さんやお父さんよりも遥かに短いの。

 これは、決定事項。

 両親は頭でなんとか事実を受け止めても、実感出来ないの。実感出来ないから、第三者目線でしかない。私目線で考えてと言っても無理な話だし、想像しても、限度はあると思う。多少は想像して欲しいけど、それを責めるつもりはないよ。

 私が願うのは一つだけ。

 そっとしておいて欲しいの。

 私は残された時間を、気兼ねなく必死で生きて行きたい。身体も何も残らない。残せない。それでも、記憶だけは最後まで残るから。

 私は我を通す。生きるために――
 
 何か言いたそうにしている両親を無視して、朝ご飯を食べる。食べ終わると、いつもと同じように皿を洗ってから部屋に戻った。

 そして、段ボールを抱えながら下りる。三日分ほど除けたから、なんとか私一人でも下ろせた。一箱で済むと思ったけど、お菓子とか飲み物とか入れたら二箱になったよ。元々、今日の昼に運送屋に集荷に来てくれるよう頼んでおいたから、大丈夫。離島だから、最低五日掛かるんだけどね。

「あとは、みどりの窓口に行かないとね」

 新幹線の日付変更しないと。夏休み入るから、指定席取れないかも。

「それなら、お母さんがしとくわ。お祖母ちゃんの所にお中元贈らないといけないから」

 かなり、言いたいこと溜まってるんだろうな。でも今は、それに付き合う程余裕がないの。だから、気付かない振りをする。

「……そう、分かった。ありがとう」

 私はそう答えると、部屋に戻った。

 今更、吐き出したしまったものをなかったことには出来ない。

 正直、吐き出すつもりはなかったけど、後悔はしていないよ。うん、してない。いつかは、吐き出していたと思うから。


 
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