もし世界が明日終わっても、私は君との約束だけは忘れない

井藤 美樹

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唐揚げは突き出しです

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 国谷先生の診察が終わった後、陽平さんとは診察室で別れた。

 診察後、一葉さんと約束していたから、居住スペースへと向かう。迷わず着いたけど、誰もいなかった。さっきまでお昼寝していた少年もいない。取り敢えず、共有スペースに置かれているソファーに座って待つことにした。

 泣いたのがバレたくなくて、顔を洗ったのは内緒。でも、目が赤いからバレるかな。訊かれるのは嫌かも。そこら辺は察してくれたら嬉しいかな。

 そんなことを考えていると、名前を呼ばれた。声がした方に視線を向けると、一葉さんに手招きされた。私は何も考えずに向かう。

「梨果ちゃん、お疲れ様。国谷先生、独特な雰囲気の人だったでしょ」

 ニコニコと微笑みながら、一葉さんは言った。

「はい。でも、良い先生です。声がすっごく若くて吃驚しました」

 子供だからと、下手に隠そうとはしなかった。対等の存在として見てくれたことに、私は信頼を寄せた。

「分かる。私もそう思ったから。柔らかな雰囲気だけど、医師としてはストイックな方よ。自分にとても厳しいわ」

 私は、まだ国谷先生のそういう面を見ていない。だけど、なんとなく想像は出来た。だって、子供の私を対等に扱ってくれるのって、そういう面の裏返しのように思えたから。

「だとしたら、尚更、信頼出来ますね」

 私がそう答えると、一葉さんは更に笑みを深くする。

(そっか……)

 私は何故、未歩ちゃんが一葉さんを姉のように慕っていたのか、理由が分かった気がした。彼女の笑顔には、裏がないからだ。

 葬式で、出席してくれた人の前で、未歩ちゃんの両親は涙を流し悲しんでいた。でも、彼らが見えなくなると、平然としている。涙を流しながらも悲しまない。笑顔も同じ。表情の裏には別の顔があったりする。

 一葉さんからには、それが伝わって来ない。未歩ちゃんには、それが眩しくて安心したんだね。

「ほんと、梨果ちゃんて可愛いな」

 そう言いながら、抱き締められた。いきなりで吃驚したけど、嫌じゃなかった。

「梨果ちゃん、お昼ごはん食べた?」

 身体を離して、一葉さんが訊いてくる。

「フェリーに乗って酔ったら困るので、まだ食べてないです」

「なら、お腹空いてるよね。私も昼御飯まだだから、一緒に食べよう」

 そう言って、そのまま腕を引っ張られ連れて来られたのは、テラス席もある、海辺のカフェのような場所だった。

「凄い……」

 ほんと、この離島の設備は、私の想像を軽く越えて行くよ。私がアルバイトしてたら、絶対通ってた。

「家庭的であってお洒落な食堂だよね。働いているのは、ゴツいおっさんだけど、腕は超一流。特に、唐揚げが美味しいの。勿論、どんなに食べても無料だからね。それと、いつ来ても対応してくれるわ。さすがに、十二時以降はセルフだけど、軽いものなら食べれるわ。職員の食堂も兼ねているから、二十四時間開放されてるのよ」

 説明を受けながら、案内されて窓側の席に座ると、奥からタンクトップが似合いそうなゴツいおっさんが出て来た。

「おう、この子が新しい住人か、宜しくな」

 そう言って、テーブルに唐揚げを盛った大皿を置く。

「森山梨果です。宜しくお願いします」

「ご丁寧にありがとよ。俺はこの食堂を切り盛りしている、近堂だ。ちゃんと食えよ。一葉、ビールいるか?」

 当たり前のように、一葉さんに訊いている。

「ビール!?」

(一応、ここ病院だよね。お酒飲んでいいの?)

「この後、梨果ちゃんと散策するからいい。その代わり、夕御飯は飲むから」

「おう、メニューが決まったら言えよ。メニューに書かれてないものも作れるから、遠慮なく言え」

 そう言うと、近堂さんはキッチンに戻った。

「私たちの病気って食事制限がないから、お酒も許可されてるの。さすがに、検査前とかは飲まないわよ。それ以外は自由。さすがに、お酒は無料じゃないけどね。で、何食べる?」

 そう言いながら、一葉さんは箸を渡してくれる。

(唐揚げって突き出しなの?)

「唐揚げは熱いうちに食べなきゃ」

 一葉さんにつられるように、一個、唐揚げを食べてみた。

「旨っ!!」

 思わず、声が出ちゃったよ。肉汁がジュワーと出てきて、皮がパリバリしてて最高だった。

「柚子胡椒味と塩味もいけるわよ」

「なら、それも食べないといけませんよね」

 昼御飯は唐揚げ三種とサラダにご飯と味噌汁。デザートも種類が多くて吃驚したよ。取り敢えず、デザートは制覇したいかな。赤紫蘇ジュースもさっぱりしていて美味しかった。

「食べ終えたら、コンビニを案内するわね。そしてその後は、写真撮影よ」

(……ここ、病院だよね)


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