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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
言うわけないでしょ
しおりを挟む歩くこと、一時間。
コットという町に着いた。グリード公爵家の領地の中で三番目に大きな町だ。
ちなみに、グリード公爵家の屋敷がある町、アクセまではコットから馬車で二日程掛かる。行くか行かないかは悩み中かな。だって、ゼリアス様から行けとは言われてないしね。それに、あまり良い思い出はないし。
「旅人か。何用で、この町に来た?」
町の入り口を警護している兵士が、私に厳しい目を向け尋ねる。
「仕事と観光です」
ここで嘘は言えないからね。嘘を言って入ろうとしたら、魔法陣に引っ掛かるからね。ハンターカードがあれば大丈夫なんだけどね。
「身分証明書の提示を」
「持っていません。この町でハンターカードを習得するつもりです」
「了解した。まずは、この水晶に手を翳してくれないか。よし、青だな。銀貨五枚、支払いを済ませたら手続きをしてくれ。中に入れるぞ」
水晶が赤くなるのは、犯罪者。犯罪を犯した者を町に入れるわけにはいかないからね。大概の町には置いてあるわ。
手続きを済ませて町に入ると、予定通りハンターギルドでカードを取得した。一応名前は、リラと名乗ることにしたわ。一応、職業は魔術師で。この日は、そのまま宿屋に泊まることにした。思ってた以上に疲れていたようで、晩御飯を食べると、そのまま倒れるように眠りについた。
『マリエール!!』
いきなり名を呼ばれて抱き付いてきたのは、殿下だった。殿下以外いないわね。
『殿下、離れて頂けませんか? というか、離れて下さい!! 距離が近過ぎます』
ややキツめの口調で言い放つ。同時に、足を思いっきり踏んだ。
『痛っ!!』
殿下が悲鳴を上げる。
へぇ~夢の中でも痛覚はあるのね。目を覚ますと、痣になってたりして。でも、離さない。
『離れて下さい』
もう一度繰り返す。
『マリエールが冷たい。冷た過ぎる。俺に黙って、一人旅をしてるし。浮気は許さないからな。痛っ!!』
何言ってるの!? この残念殿下は。もう一度、足を踏んでやった。痣になっても知らないから。
『そもそも、一人旅はゼリアス様のご命令ですわ。それに、期間も、私が目を覚ますまでの間です。期限付きですわ。私が浮気? そうですか……殿下は、私が浮気をするような人間だと思っていたのですね』
やや低い声でそう告げると、途端に殿下が慌てだす。
『いや、それは違う!!』
『浮気は許さないからなと、仰ったではありませんか。物忘れですか? さすがに、早過ぎるでしょ』
問いただす私に、殿下は少し不貞腐れたような口調で答える。
『……マリエールが浮気をするとは思っていない。思ってはいないが……好意をもたれることもあるだろ。それに……厄介なやつばかり惹きつけるだろ』
浮気をするとのと、好意をもたれるとは立ち位置が全く違うと思うけど。まぁ、それよりも、
『厄介なやつって……殿下、ブーメランって単語知ってますか?』
呆れながら尋ねる。
『俺が厄介だってことは、よくわかっている。こうしている間も、マリエールを閉じ込めておきたいし。マリエールの目には、俺だけが映っていて欲しい』
重い!! 重過ぎるわ。それに、怖いわ。
さりげに、監禁したいって言ってるよね。ほんと、顔面偏差値が高いと、こんな台詞を吐いても騒がれないのよね。なんか、ズルいわ。といっても、ここにいるのは私と殿下だけだけどね。まぁ現実世界で、同じようなこと言ってるから、そう思うんだけどね。
さてと、帰ることにしますか。身の危険を感じるから。
『おいっ!! 早過ぎるぞ!! マリエール、今どこに滞在してるんだ!?』
教えるわけないでしょ。教えたら、絶対来るよね。仕事の邪魔ですわ。それに、殿下も仕事があるでしょ。また、インディー様がキレますよ。なので、
『殿下、御機嫌よう。仕事さぼらないで下さいね』
にっこりと微笑むと、私は居場所を告げずに現実世界に戻った。暫く、夢の世界には行かない方がいいかもね。
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