婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

文字の大きさ
42 / 344
学園は勉強するところです

私の親友は中々腹黒い

しおりを挟む


「リーファ。お前の親友、中々過激な性格しているな」

 転移門を通りセフィーロ王国に戻って来た国王とリーファ。二人して執務室に戻る途中、国王がリーファに話し掛けてきた。

「そうですね。……でもまさか、あそこまでとは思いもしませんでしたわ。叔父様」

 正直な感想だった。

 失禁し、死に掛けるまでの尋問を何度も繰り返し行った親友の姿を思い出す。

 セリアは顔色一つ変えなかった。でも私には分かる。セリアは結構楽しんでいたって。まぁ、あそこまで暴言を吐かれて、命も狙われていたんだから仕方ないけど。私もセリアの立場なら同じことをしたしね。

 だとしても、一つだけ腑に落ちない点があるの。

「それに、噂には聞いてたが、かなり頭も切れるようだ」

 それって、もしかして……?

「コニック領を手に入れたことですか?」

「コニック領を手に入れたことな」

 微妙に訂正された。

 実は私も、その点はとても気になっていたのよね。上手くやれば、グリフィード王国そのものを手に入れることも出来た筈。それも簡単にね。てっきり、私もそうするとばかり思ってたのに。蓋を開ければ、コニック領だけで皇帝陛下もセリアも引いた。

 まぁ確かに、コニック領はとても魅力的な領土よ。魔の森に隣接しているからね。因みに、学園があるのもコニック領だし。

 魔物の討伐は、常に命を掛ける程大変危険な仕事よ。だけどね。その分、得るものがとても大きいの。

 まず、魔物は金になるのよ。皮、牙、内臓、肉。全ての部位がね。ましてや、魔法具を作る際に必ずいる魔石も魔物から獲れるし。それに、魔の森で栽培した薬草はかなり質がいいものになるのよね。時には、突然変異することもあるし。魔の森の奥に進まなければ、全然平気なのよ。

 グリフィード王国そのものを手に入れたら、自ずとコニック領も手に入ったのに、どうしてコニック領だけで引いたの?

「……腑に落ちないって顔をしてるな。リーファ。グリフィード王国そのものを手に入れればコニック領も手に入るのに、何故コニック領だけで引いたのか。気になるのはそこだろ? 理由は簡単だ。面倒だからだ」

「面倒だからですか……?」

 まさに気になっていた点を指摘されたけど、その理由がそれとは意外だった。

「ボラン領もコニック領も、魔の森に接してるだろ。そこがみそだ。魔物は金になるだろ」

「まぁ、かなりのお金になりますね」

「外貨を得るには、魔物討伐が一番簡単で、一番効率がいい」

 確かにそうですわ。

「グリフィード王国は、セフィーロやコンフォートのような、輸出出来るものが何一つない。ほぼ輸入に頼っている国だ。それがどういう意味か分かるか?」

 そこまで言われて気が付きましたわ。

「つまり……グリフィード王国は、外貨を手に入れる手段を失った」

「そうだ。本来は輸出する物が何もない貧相な国だ。だが、その生活水準はどの国よりも高い。それに慣れきった奴らばかりだ。荒れるぞ」

 確かに、グリフィード王国は成金の匂いがプンプンしてましたわ。無駄に綺羅びやかだったわね。そんな生活に慣れきった人間が、急に慎ましい生活をしろって言っても、まず無理ね。叔父様の言う通り、荒れるわ。

 国民は他国に逃げ出し、貴族たちの不満は跳ね上がる。それは、王族に対する不満に繋がるわ。そもそも、その王族の一人のせいでこんなことになったんだから、当然よね。アルベルト王太子殿下がどんなに優秀でも、それを抑えることは正直難しいわね。

 結果、国は立ち行かなくなる。

 つまり、セリアも皇帝陛下もそれを見越した上で、敢えてコニック領だけで手を引いたのね。やること、えげつないわ。

「とことん、追い詰めるつもりですね」

 それが、あの屑王子を育てた者たちへの意趣返し。セリアと皇帝陛下の罰ってわけね。

「だから言っただろ、中々過激な性格をしてるなって。それに頭がいい。本当、あの親子よく似てるぞ。容姿もだが、中身が特に。今頃、三年とか五年とか、言い合ってるに違いない」

 聞いたことがある。皇帝陛下と叔父様は同級生だったって。

「三年とか五年って、国が崩壊するまでの期間ですよね」

「そうだ。それから、親切を装って手に入れるつもりだろうな」

 あ~~だから、叔父様は面倒だと言ったのね。完全に貴族たちの精神をボキッと折ってからの方が、割く労力は明らかに少ないわね。前から思ってたけど、セリアって結構腹黒いのよね。そこが魅力的なんだけどね。

「…………ところで、リーファ」

 珍しく、叔父様にしては言葉に切れがない気がする。

「何です?」

 なんか、嫌な予感がするわ。

「実は、うちの三男がセリア皇女殿下に興味を抱いてな……。正確に言えば、彼女が制作した魔法具なんだが……」

 的中したわ。よりにもよって、

「あ!? あの引き籠もりがですか?」

「言葉遣いが悪いぞ」

「事実でしょう」

 迂闊だったわ。あの魔法具馬鹿が、セリアが作った魔法具に興味を持つに決まってるじゃない。

「まぁいい。でな。学園に編入したいと言ってきた。親としては喜ばしいことだ。それでな。出来れば、フォローを頼みたいんだが……」

「えっ!? 嫌です」

 勿論、即答で答えたわ。だって、

「実は、私の弟がセリアに興味を抱いたようで……編入するので力になれません」

 第三王子と双子の弟。当然、弟を応援するに決まってるじゃない。だって上手くいったら、私とセリアは義姉妹になれるのよ。フフフ。

「……あの魔法馬鹿もか」

 叔父様の落ち込んだ声など、当然無視に決まってるじゃない。



しおりを挟む
感想 776

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄をありがとう

あんど もあ
ファンタジー
リシャール王子に婚約破棄されたパトリシアは思った。「婚約破棄してくれるなんて、なんていい人!」 さらに、魔獣の出る辺境伯の息子との縁談を決められる。「なんて親切な人!」 新しい婚約者とラブラブなバカップルとなったパトリシアは、しみじみとリシャール王子に感謝する。 しかし、当のリシャールには災難が降りかかっていた……。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。