婚約破棄ですか。別に構いませんよ

貴方の傍らで

セリア様が絡むとほんとポンコツになりますね

　我が主は、おそらく目の前の馬鹿がとった咄嗟の行動のせいで席を外したのだろう。服を着替えるために。

　ほんとに腹立たしい。それでなくても、疲れていらっしゃる我が主に、無駄な労働をさせるとは。

「いつまで鼻を押さえているのです？　アーク様。見てご覧なさい。貴方の部下の目を。皆、残念そうに見てらっしゃいますよ」

　心底冷たい目で馬鹿を見、言葉で抉る。

　取り敢えずセリア様が戻るまでに、この馬鹿を元に戻さないと。セリア様が絡むとポンコツになるところは、残念ながら治っていないようだ。全く。要らん心気遣いを、これ以上セリア様に課さないでいただきたい。

「ほんと、お前、セリアがいないと態度がコロッと変わるな」

　刺々しい声でアーク様が文句を言う。

　漸くポンコツが普通に戻りつつあるようだ。にしても、今更何当たり前のことを言っているんだ、このポンコツは。

「当然でしょう。私の主はセリア様ただ一人ですから。なので、セリア様に不埒な真似をしようとするなら、今すぐ私があの世に送って差し上げますよ」

「反対に俺が送ってやるよ。だがな、あの笑顔は不意打ちだろ」

　胸を張っていう台詞か、ポンコツが。でも、気持ちは分からなくもない。

「まぁ確かに、セリア様の自然に出る笑顔の破壊力は言葉には出来ない程でしょう。とはいえ、鼻血を出すのは、人として、かなり危ない部類に入ると思いますが」

　後ろでアーク様が連れて来た部下も頷いている。

　私がもし人の親なら、我が子を側に近付けたくはありませんね、絶対に。万が一問題が起きたら洒落にもなりませんからね。ほんと、親の血を色濃く受け継いでいらっしゃる。まぁまだ、シオン様はマシですが。

「俺がこうなるのはセリアだけだ。で、正直どうなんだ？　セリア、かなり無理をしているだろ？」

　真剣な顔でそう訊かれて、私の表情も曇る。

　セリア様マニアなことだけはある。普通の人なら気付かない僅かな変化をひと目で見抜くとは。変態をあなどってはいけませんね。

「ええ」

　貴方の父親のせいだと言いそうになった。口にはしなかったが、アーク様には心の声が聞こえていたようだ。

「なら、何故止めない？」

　苦虫を噛み潰したような表情で、アーク様は尋ねる。その無神経な問に私は苛つくが、表には出さなかった。

「止められるものなら、とっくに止めております」

「無理にでも止めれただろうが」

　心痛な思いで答える私を、尚もこの男は責め立てる。

「……ならば、アーク様は、セリア様が壊れても宜しいと仰るのでしょうか？」

　私が反対にそう尋ねると、目の前にいる男は黙り込む。反論出来ないのなら、尋ねるな。

　さて、この話はここまでに致しましょう。我が主が戻って来ましたから。アーク様。そして、部下の皆様、これからしっかりと働いてもらいますよ。セリア様のために。





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　第四回キャラ文芸大賞エントリーしてます。

　タイトルは【護国神社の隣にある本屋はあやかし書店】です。

　少し昔の作品ですが、気楽に読めますので是非(｡•̀ᴗ-)✧