婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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裁判が始まりました

第十一話 聞き間違いではありませんよね

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 外は雲一つない晴天。

 うってかわって、皇宮内は前日からピリピリした空気が漂っていて落ち着きませんわ。

 そこまで警戒なさらずともよいのでは。

 そう口にしそうになります。

 今さら、私とシオン様の間に亀裂が走るわけありませんのに。何をそこまで心配しているのか……溜め息が出ますわ。

 それに例え、クニール様の性癖が特殊であったとしても、私には関係ありません。だって、私に指一本触れることはできないでしょ。そうですね……妄想されるかもしれませんが、クニール様のことだから黙っていると思いますわ。心情的にはとても嫌ですが、そこまで取り締まることはできませんし、心の中で想うのは自由ですわ。

 いくら想われても、私がクニール様になびくことは、天と地がひっくり返ってもありません。

 わかりきっていることなのに、何故そこまで心配するのでしょう。

 先祖返りのシオン様はまだ理解はできますが、お父様やリム兄様、スミスたちまでもがシオン様寄りなのは何故? 

 あぁ、もう!! そんな目で私を見ないでくださいませ、シオン様。コンフォートの護り神と呼ばれる武人が、目で行かないでくれと訴える姿は、悶てしまうほど可愛くて、つい意地悪をしたくなりますわ。

 離れたくない気持ちを、無理矢理私は抑えつけます。

「セリア、行くのか……」

 力ない声で、シオン様は私を引き止めます。私は心を鬼にして、シオン様から離れました。

「行きます。約束していますので」

 そう、今日はクニール様と約束した日なのです。




「セリア皇女殿下、お忙しい中、私のために時間をとっていただきありがとうございます」

 クニール様はそう挨拶をしながら私に一礼します。

 シオン様の視線をヒシヒシと感じますわ。当然、クニール様も気付いていらっしゃる筈なのに、彼は平然としていますわね。

 それどころか、破顔したクニール様の顔を見て、私は照れてしまいます。とても嬉しそうに微笑むんですもの。いくら鈍感な私でも、クニール様の好意には気付きます。正直、嫌ではありませんわ。……それにしても、シオン様と隊長たち以外に、私に好意を抱く物好きがいるとは思いもしませんでしたわ。

「堅苦しい挨拶は不要ですわ、クニール様。さぁ、お座りになって」

 スミスが軽く椅子を引き、クニール様は促されるまま腰を下ろします。侍女がクニール様の前にお茶を出します。

「クニール様は甘い物が好きかしら? 私が贔屓にしているお店の新作なの」

 季節のフルーツがたっぷりとのったタルトを薦めます。

 クニール様が意外と甘いもの好きなのは、以前の調べでわかっていましたからね。招く側が客の好みを把握するのは当然ですわ。

「美味しそうですね、セリア皇女殿下。いただきます」

「どうぞ」

 私が許可すると、クニール様はタルトを一口大に切り分け口に運びます。

「…………美味しい」

「それは良かったですわ。……どうかしましたか? クニール様」

 ふと、手を止めたクニール様に尋ねます。

「いえ、てっきり、コンフォ伯爵様も御一緒だと思っていましたので」

「さすがに、それはありませんわ」

 引き止めようと、躍起になっていましたが。

「そうですか? 裁判所の御様子から、御一緒されると考えておりました。ずっと、私に対し、殺気を放っていましたから」

 ……確かに、放ってましたね。フォローができませんわ。

「色々と警戒されていますから、仕方ありませんわ」

「警戒ですか……それは、私が送った手紙ですか」

「ええ。……クニール様に申し訳ないのですが、その手紙は何を書いてあったのです?」

「やはり、お読みになっていらっしゃらないのですね」

 美形の方が憂い顔を浮かべると絵になりますわね。

「包み隠さずに申せば、手紙が届いていることさえ知りませんでしたわ」

 今度は悲壮感が漂っていますわ。でも、どこかホッとした表情ですわね。

「そうですか……今思えば、手紙を読まれなかったことが却ってよかったと思います。あの頃は、返事がないせいで意地になっていましたから、少々行き過ぎた感がありましたし。もし読まれていたら、このような場をもたれることはなかったかもしれません」

 書いた本人からそこまで言われると、却って、手紙の内容が気になりますわね。

「今はどうなのです?」

 私はわざと確信をつく質問をしました。有耶無耶にはできませんもの。

「訊きますか。私はセリア皇女殿下、貴女のことを愛しております。昔も今も、そしてこれから先も」

 真摯で熱を帯びた目で告白されました。

「クニール様。私はその気持ちに答えることはできませんわ。私は心から愛する方がいます」

「コンフォ伯爵様ですね。彼以外なら、私は貴女を力づくでも手に入れていたでしょう。どんな手を使っても。いえ、違いますね。コンフォ伯爵様でも、戦いを挑んでいたと思います」

 悲しげな、苦しげな笑みを浮かべながら、クニール様は告げます。

「でも、しなかった」

「ええ。できなかった。貴女がそのピアスを嬉しそうに自慢していたのを見たら、できなくなりました。私は貴女を幸せにしたいのです。隣に立つのが自分でなかったとしても」

「クニール様……」

 言葉に困ります。

「セリア皇女殿下を困らせるつもりはありません。反対に、私は感謝しているのです。これで、自分の気持ちに一区切りができましたから。ありがとうございます」

「…………」

 言葉が見つかりませんわ。

「なので、私は次の宰相を目指すことにします」

 宰相!? 聞き間違いではありませんよね……何故、宰相に? というか、このタイミングで?

「……宰相にですか?」

 困惑しながらも尋ねます。すると、とんでもない爆弾発言をされましたわ。


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