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エルヴァン王国の秘宝
第九話 相談しました
しおりを挟む大人の色気に当てられそうになっていると、休憩中の部下たちと目が合いました。
おかげで、現実に戻れましたわ。
だって、ほぼ全員が、生温かい目で私とシオン様を見ていますもの。中には、顔を赤らめ逸らす方もいらっしゃいます。普通の感性なら、この時点で目が覚めますわ。
今まで、何度も似たような光景を見られているとはいえ、やはり、恥ずかしいものは恥ずかしいのです。こういうのは、二人っきりで、それも室内で行う行為ですわ。なので、
「離してください、シオン様。逃げませんから、降ろしてください」
訴えます。しかし、シオン様は離してくれません。
「そんな、可愛い格好をして会いに来るセリアが悪い」
何言ってるのかしら。意味がわかりませんわ。でも、気に入ってくれたのはわかりますわ。クラン君に感謝。
「何、わけのわからないことを言っているのですか!? 離してください。今は仕事中ですよ」
「ならーー」
「仕事を途中で放り出すようなこと、私が尊敬するシオン様がなさるはずありませんわ」
シオン様の台詞を遮るように、私は告げます。ニコッと微笑みながら。
「…………」
シオン様は黙り込む。
「しませんよね、シオン様」
釘を刺します。
「……わかった」
渋々、シオン様は私を降ろした。とてもとても不服そう。眉間に深い皺ができてますわ。
私はシオン様の皺を指で撫でてあげます。あら? さらに皺が増えましたわ。
「これ以上、俺を刺激するな」
怒られてしまいましたわ。刺激した覚えはないのですが。
「シオン様、お願いがあるのですが、十分でいいので、私に時間をくれませんか。ご相談したいことがあるのです」
十分が限度でしょう。仕事の邪魔をしたくはありません。何よりも、仕事を優先するべきですから。
「わかった。セリアの頼みだ、どんなことでも叶えよう。休憩が十分延びるぐらい、どうってことない」
「ありがとうございます、シオン様」
私はシオンと一緒に、少し離れた場所に移動します。聞かれては困る内容なので、遮音結界を張りました。
「来たのか?」
さすが、シオン様ですわ。すぐに奴らが来たことを察してくれました。
「はい。身分を偽証して」
「やはり、目的は墓荒らしか」
嫌悪感、顕ですね。私は頷きます。
「今回は、私は表に出ようとは思っておりません。あくまで、平民による窃盗で奴らを捕らえるつもりです。ただ……問題はその後です」
絶対、ケルヴァン殿下たちに繋ぎをとろうとするはず。その時の対応が、分岐点だと考えていました。
「傍観するか、しないかだな」
「はい……」
コンフォート皇国としては傍観の姿勢ですわ。だけど私は……
「セリアはどうしたい?」
そう尋ねるシオン様の目が、とても温かく優しい。この人は、どんな逆境でも、絶対私の味方をしてくれるでしょう。
「過去にあったことは、到底許されることではありませんわ。でも、今を生きる民に、その罪を負わせるのは酷ではありませんか?」
「そうだな。なら、腐石のことだけ内緒にしたらどうだ?」
「私もそう考えていました。規模と特性は違いますが、竜石も厄介なことには違いありませんからね」
腐って駄目になるか、穴が開いて駄目になるかの差ですわ。
「奴らの出方次第で、対応するのが一番だな」
「…………シオン様」
シオン様の大きくて厚い手が、私の頬を撫でます。瞳は嘘を吐けませんね。心配だと訴えています。
「大丈夫ですわ。言ったでしょ。今回は表に出るつもりはないと」
「そうだな。でも、無理は絶対するな。それと、その髪型は俺の前だけにしろ。いいな」
「シオン様の前だけですか……」
「可愛い過ぎるんだ。他の男に、セリアの可愛い姿を見せたくない。いらん、虫が湧いたら困る」
最強と言われている武神のシオン様が、耳まで真っ赤にして真剣に仰る姿に、私の胸はトクンと高鳴ります。
「わかりましたわ、シオン様。髪を伸ばそうと思うのですが、似合うと思います?」
ちょっとした意地悪です。
「似合うと思うが、流すだけにしろ」
「お洒落がしたいのですが……駄目ですか?」
シオン様を見上げながらお願いします。
「ど、どうしてもしたいのか?」
「私も女子ですからね。それなりにしたいですわ」
「うっ……俺が一緒の時だけは、構わない」
鼻を押さえながら、シオン様は仰ります。
「リーファの前は?」
「……いいだろう」
「ありがとうございます、シオン様」
ニコッと微笑むと、私はシオン様の腕を下に引っ張ります。自然と傾く体。私は背伸びをして、シオン様の頬にお礼のキスを。
吃驚して体が固まるシオン様から、パッと離れる私。
「お仕事、頑張ってくださいね、シオン様」
顔を伏せ、その場に座り込むシオン様に手を振ると、私は侍女と一緒に学園に戻りました。
シオン様に相談して、本当によかったですわ。
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