上 下
253 / 296
いざ、エルヴァン王国へ

第十四話 婚約者様

しおりを挟む


「すみませんが、出発前に、少し時間をもらえませんか。婚約者様に話があるのです」

 皆にそうお願いすると、全員頷きました。若干、頬がを引き攣ってますが。

 あえて、私はシオン様の名前を呼ばずに、婚約者様と言いました。正直、とても悲しくて、辛くて、怒っているのです。

 確かに、匂いは付いていたのかもしれません。隣を歩いてましたし、仕事で密着する場面もありました。ただそれだけです。

 とはいえ、竜人としての性質から考えてみれば、ありえないことをしていることは承知しております。当然、シオン様が、かなり我慢をしていることも理解しています。

 人と竜人ーー。

 種が違う者同士の恋愛は、とても難しいのだと、あらためて思い知りましたわ。

 だからといって、諦めるつもりはありません。諦めれるほどの、軽いものではないのです。

「……お話があります」

 皆には聞こえないように消音防壁を張ってから、私はシオン様の顔を見詰めながら告げます。

「何だ?」

 固い声が返ってきました。

 嫌なのですか……それとも、身構えてるのですか? どちらにしても、愛している人にそんな態度をされて、辛くて悲しいですわ。挫けそうになりますわね。

「単刀直入に申します。ケルヴァン殿下に圧力を掛けるのは止めてください。場の空気が、とても重くなります」

 ケルヴァン殿下のケを口にした途端、シオン様の顔が険しくなります。

「……やけに庇うんだな」

 絞り出したような声に、私は溜め息を吐きます。

「庇う? 何を仰るんですか。ここは敵地ですよ。それでなくても緊張しているのに、余計な負荷を掛けないでくださいませ。旅に支障がでてしまいますわ。それとも、婚約者様は旅が延びることをお望みですか?」

 シオン様から表情が消えましたわ。思いのほか、攻撃力が高かったようですね。

「婚約者様……」

 小さくそう呟くシオン様。目から光が消えてますね。私はシオン様の両腕を強く掴みます。わずかに、光が戻りましたね。

「私、昨夜のことを許してはおりません。幾ら言葉で、態度で、毎日婚約者様に愛情を示していても、一切届いてないことが、とても辛く悲しかった。無駄だとわかったのです」

「なっ!?」

 完全に光が戻りましたね。シオン様の目に映る私は、今にも泣きそうな表情をしてますね。

「……婚約者様が、匂いに重きをおいてるかは理解しております。私が婚約者様以外の異性と旅をしていることで、どんなに不快な想いをさせているのも、理解はしていますわ。それでも!! 少しでも伝わっていて欲しかった。伝わって欲しかったのです……貯金箱のように、少しづつでも貴方の心に……竜人の貴方の不安と苦しみを、少しでも取り除きたくて」

 最初は目を見て話してましたが、次第に俯き、私はシオン様の靴先を見ながら吐露します。最後は、掴んでいた手を離しました。

「……ほんと、私は馬鹿ですね。こんなに苦しいのに、貴方を嫌いになれない。離れることができない」

 泣きながら苦笑するなんて、私って意外に器用なのかしら。

 そう思った瞬間、荒々しく、シオン様は私を抱き締めました。その体が震えているのがわかるほどに。

「……すまない。俺が悪かった。昨夜もやり過ぎた。自分が抑えられなかったんだ。頼む。情けない俺を見捨てないでくれ」

 こんなシオン様を見れるのは私だけですわね。でもね、

「見捨てはしませんが、許しはしませんわ、婚約者様」

 暫くは、名前をお呼びしません。シオン様が強く望んでいた「シオン」呼びもいたしません。深く反省してくださいませ。

 愛してますわ、シオン様。

 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,619pt お気に入り:1,296

会社を辞めて騎士団長を拾う

BL / 完結 24h.ポイント:2,733pt お気に入り:40

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,514pt お気に入り:1,399

百鬼夜荘 妖怪たちの住むところ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,746pt お気に入り:16

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。